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第73話 ゲルルフを追いつめろ

 冒険者ギルドのライツさんらを伴い、三度みたびのベイルシュミット家の訪問となった。


「はい、どちら様でございましょう……あら」


「こんにちは、ユッテさん。私は冒険者のヴェンツェルです。お話を伺いたくてまた参りました」


「どこかで見たことがある人だと思ったら、前に道に迷ってらした方じゃないですか。また道に迷われたんですか?」


 おばさんメイドのユッテさんが呑気に笑う。


「それにしてもまぁ、今日は随分と大人数で」


「昨今のグーデンの西で頻発している魔物の被害についてお話をさせていただきたいのですが、責任者の方々はお出ででしょうか?」


 ユッテさんが目を丸くして屋敷の中へと駆け込んでいく。


「ここの連中は素直に白状するかな」


「絶対に白状させます!」


 アルマがずいと私の前に出た。


「なんだなんだ? グーデンの連中が大勢で押しかけただとぉ?」


「そうなんです! エクムント様、お助けをぉ!」


 やがてエクムント様が袖を引っ張られてきたが――


「お久しぶりです。叔父様」


「あ……アルマ……くん?」


 神妙に微笑むアルマを見て彼が顔を引きつらせた。


「叔父だと? おい、ヴェンツェル。これはどういうことだ!」


「ライツさん。詳細は後で説明しますが、アルマはこの屋敷の領主の娘なのです」


 ライツさんに先に説明しておけばよかったか。


「そ……そういう大事なことは、先に言えぇっ!」


 あとはアルマにまかせよう。


「アルマくん、元気だったのか! 今までどこに行ってたんだっ、心配してたんだぞ!」


「ごめんなさい。母がどうしてもここに戻りたくないとおっしゃったので、わたしも付き添わなければならなかったのです。屋敷の外でとても貧しい生活を経験しましたが、ここにいらっしゃるヴェンツェルとユミスさ……妹のユミさんに助けていただいて、わたしを勇敢な冒険者へと導いてくれました」


 雄弁と語るアルマは立派だ。


「そ、そうだった、のか。たしかに、言われてみれば、服装が随分と変わっているが……」


「お手に持たれているランスとお盾が、まるでハーラルト様のよう……」


 メイドのユッテさんがさめざめと涙を流していた。


「叔父様。わたしはこの屋敷で暮らす領主の娘としてではなく、父を……いえベイルシュミット家領主のハーラルトを殺害した犯人を捕まえるために訪問させていただきました。叔父様とユッテも含めて全員、そこの庭に集まってください」


 アルマ、よく言った。


 叔父のエクムント様が青い顔で屋敷の中へと消えていく。


 屋敷の庭に臣下とメイドたちがぞろぞろと集まってきた。


「お、おい、あれ……」


「ほんとにアルマ様……?」


「でも、お淑やかな雰囲気から、随分と印象が……」


 うろたえる臣下たちの奥にゲルルフの姿もあった。


「ア、ルマ……様」


 彼も戸惑いを隠せずにはいられないようだ。


「ヴェンツェル、後はお願い……」


「わかった。まかせておけ」


 胸を張って、疑惑の目を向けてくる者たちの前に出た。


「皆様、初めまして。私は冒険者のヴェンツェルと申します。縁あって現在、アルマお嬢様とともに旅をしています。アルマお嬢……敬称は省略しますが、彼女が不当な扱いを受けてこの屋敷から出ざるを得なくなってしまったことは改めて説明しなくてよいでしょう。

 アルマの不幸とグーデンの冒険者ギルドをはじめとした街の混乱は、すべてこの屋敷の領主であるハーラルト卿の死が発端となっています。私はアルマとギルドの依頼を受けて、この問題を解決しに参った次第です」


 臣下とメイドたちがざわざわと声を上げはじめる。


「しかしながら先に申し上げてしまいますが、ハーラルト卿を殺害した者はすでに特定できております」


「な、なんだとっ」


「ハーラルト卿は屋敷の同居人によって毒殺されていたのです。その証拠と理由は、アルマの母君であるアマリア様が遺されています」


 アルマが母の日記を差し出す。


 私が日記を広げて見せつけると一同の困惑がさらに深まった。


「アマリア様の日記に書かれているのはゲルルフ様、あなたでございます。あなたがハーラルト卿を殺害した犯人でお間違いありませんね?」


 さぁ、どう反論する。


「ヴェン、ツェル……殿。衝撃的なことを急に次々と話されて、我々はただ困惑するしかありません。その日記をどこで手に入れられたのか」


 声を上げたのはゲルルフではなくエクムント様であった。


「この日記はアルマご本人から託されたものです。彼女は母のアマリア様とともに屋敷を出て、母が亡くなるまで一緒に生活していたので日記を所持していても――」


「ちょっと待て! アマリアくんも……亡くなって、しまったのか?」


「はい。アルマのお気持ちを察していただきたいですが、あなた様の質問には『イエス』とだけ回答させていただきます」


 屋敷の庭が重苦しい空気につつまれる。


「ああ、アマリア様まで……おいたわしや」


 メイドのユッテさんは白いハンカチで涙をぬぐっていた。


 ゲルルフも……声が出ないか。


「話を戻しますが、私たちはアマリア様の日記からここへたどり着いています。もし、この日記が偽装されたものだと疑われるのであれば、筆跡鑑定によって真実性を明らかにいたします」


「いや、この日記は間違いなくアマリアくんのものだ」


 エクムント様が日記を受け取る。


「このきれいな文字はアマリアくんが書く文字だ。ハーラルトに相談していたことも、私が相談を受けたこともすべて事実だ。私は彼女から相談を受けていながらも、たかが女の言うことと真に受けとらなかった。彼女はずっと危機を感じていたというのに、ああ……」


 エクムント様も涙を流して膝をついてしまった。


「ここに集まっていただいた方々は私の主張に納得されているようです。一名だけを除いて」


 一同の視線がゲルルフに集まった。


「ちっ、違う! 俺じゃないっ」


「この期に及んで白を切るおつもりですか? 間違いなくアマリア様が紡がれた日記に、あなたの名前がしっかりと記されているんですよ」


「ち、違うっ。そういう意味じゃないが……そ、そうだ! その日記には『俺が殺った』と明確に書かれていないじゃないかっ。それなのに俺が犯人だと決めつけるのか? 領主を殺ったのが、実はそこに男だという可能性だってあるじゃないか!」


 指されたエクムント様が起き上がった。


「ゲルルフ! ここまで来てみっともない言い訳をするなっ。お前以外に犯人がいる訳なかろう!」


「な、なんだとっ。貴様ら、さっきから黙って聞いてれば調子に乗りやがって! ふざけるのも大概にしろ!」


 お前が犯人だと言われて素直に認めるはずがないのは承知の上だ。


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