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第64話 アルマの父を殺したのは身内?

 アルマが住んでいた屋敷はモットル男爵の屋敷と同じように飾りがたくさん置かれていた。


 絵画や黄金の置物にばかり目がいってしまうが、翠の麗しい壁紙が部屋を優雅に彩っているのだと感じた。


「美しい屋敷ですね。こんな建物は生まれて初めて見た」


「ほほ。それはようございましたな」


 メイドの女性が口に手を当てて笑う。


「お食事を用意されている客室というのはどちらになりますか」


「こちらでございます」


 鏡のような床といい、不思議なかたちの白い壺といい、思わず目を止められてしまうほど豪華だ。


 客室は広いロビーのそばに用意されているようだ。


「お食事を用意しますから、椅子にかけて待っていてください」


 メイドの女性がいそいそと退室していった。


「アルマはこのような場所に住んでおったのじゃのう」


「今のアルマから想像できないですね」


 天井は私が住んでいる宿の二倍くらいの高さがある?


 金のシャンデリアは街の繁華街で売ったらいくらになるのだろう。


「ヴェンよ。屋敷にはうまく忍び込めたが、これからどのように調べていくというのじゃ?」


「屋敷の中を隈なく調べさせてくれないでしょうから、まずは先ほどの女性から聞き込んでみようと思います」


 革の手触りのいいソファでくつろいでいると、メイドの女性が銀のトレイを運んできてくれた。


「急な訪問でしたからこれしか用意できませんが、よかったら召し上がってください」


 テーブルに並べられたのは小麦の白いパン二個と野菜のスープ。お肉までついているぞ。


「こんなにいただいて、よろしいのですか?」


「ええ、どうぞ。エクムント様からそう仰せつかっておりますから」


 肉なんて野生の不味いものでなければ滅多に食べられないぞ。


「ありがたく頂戴いたします」


 ユミス様の分は私がいただいてしまおう。


「一つお聞きしたいのですが、先ほどお見えになられていたご立派な方はどちら様ですか? 領主様ではないとおっしゃっていましたが」


「あの方は前に亡くなられた領主様の弟君のエクムント様でございます」


「領主様の弟君でございましたか。領主様は前に亡くなられたそうですが、あのエクムント様が領主様の代理を務めていらっしゃるのでしょうか?」


「はい。左様でございます」


 あの立派な人がアルマの叔父で領主の代理か。


「前の領主様というのは、なんというお名前だったのですか?」


「前の領主様はハーラルト様ですよ」


 アルマの父さんはハーラルト様か。


 いい調子で聞き込みができているぞ。


「では、前の領主様のハーラルト様は、どうしてお亡くなりになってしまったのですか?」


「わたくしもね、ちゃんと聞いてる訳じゃないんですが……」


 メイドの女性が客室の外をそっと眺めて、誰も来ていないか確認しているようであった。


「ここだけの話ですが、エクムント様がハーラルト様を殺してしまったのだと、もっぱらの噂なんですよ!」


 あの立派な人がアルマの父親を殺したのか?


「それは本当ですか!?」


「ええっ。エクムント様はもちろん否定されてますけど、メイドの皆はあの人がやったんだって、誰もが信じてますよ! おお、怖いわ」


 この人はなんでもしゃべってしまう性質の方なんだろうな。


「領主様が亡くなられる前日の夜まで、領主様は元気だったんですよ。それなのに、次の日の朝になったらベッドの上でころりと亡くなってて……あの日の出来事をちょっと想像しただけでも、おお怖いっ」


「次の日の朝に亡くなってたということは毒ですか? 夕食か晩酌のお酒に毒を仕込まれたとか」


「わたしたちメイドの見立てでは、晩酌のお酒が怪しいんじゃないかと思ってるんですよ! あのお酒はエクムント様が領主様の誕生日に送られた品ですしっ」


 犯人はアルマの父さんが飲む酒を知っていたのか。


 開封した後の酒のボトルに毒を仕込んだのか?


「どうして、エクムント様が領主様を殺害したってわかるんです? 開封する前の酒のボトルには毒を仕込めないですよね」


「どうしてって、そんなのみんなわかってるに決まってますよ! だって、エクムント様は領主様とよくケンカしてたんだもの――」


 廊下からメイドさんを呼ぶ男性の声が聞こえた。


 ちょうどいいタイミングでメイドさんが出ていってしまった。


「もう少し聞き込みをしたかったですが、これだけでもかなり有益な情報が得られましたね」


「あの女はどのようなことでもペラペラとしゃべってしまうから、使用人としては失格じゃのう」


 ユミス様も呆れて口がふさがらないようであった。



  * * *



 お食事をおいしくいただいて、すぐに退室しなければならなくなった。


 外で待つ馬に水と飼い葉を与えながら次の作戦を考える。


「アルマの父親がハーラルト様で、弟君のエクムント様が領主の代理ですね」


「わらわはもうよく分からぬが、この屋敷は邪気が漂っておる。邪瘴というほどではないが、よくない気じゃ」


「そうですね。メイドの方が言うように、アルマの父さんが弟君のエクムント様とケンカして、挙句に殺されてしまったのでしょうか」


 これだけだとアルマがあの屋敷を出された決定的な理由がわからない。


「わらわはよくわからぬが、このようなことはよく行われるのか?」


「さぁ。私も貴族の暮らしなんてよく知りませんから、わかりかねますね」


「偽勇者に騙されていたあの男爵ならば、その辺りの事情は詳しいのかの?」


 モットル男爵を尋ねるのは名案だが、距離的に難しいか。


「男爵様にまた会いたいですが、屋敷が遠いので今はきびしいですね」


「そうか。残念じゃのう。あやつの暮らしぶりも気になっておるのじゃが」


 ユミス様は助けた人のことをしっかり覚えているんだな。


「話を戻しましょう。証拠がないのにメイドの方々が暗殺を信じて疑わないというのが気になりますね」


「アルマの父とそれほどまでに仲が悪かったのではないか?」


「そうかもしれませんけどね」


 これだけではやはり情報が足りない。


「ユミス様。変化へんげの力でまた猫の姿に変えてもらえませんか? 夜に屋敷へ忍び込みたいです」


「ほほ。そのためにわらわを同行させおったのか。何か裏があると思っておったが。人間の醜い欲が見え隠れするからの。そなたの願い、叶えてしんぜよう」



  * * *



 夜になるまで外で待ち、三日月が夜空に浮かび上がった頃に黒猫の姿へと変化させてもらった。


「ヴェンは猫になっても可愛いの。よく似合っておるぞ」


 ユミス様もいつもの白猫の姿になって頬をすり寄せてきた。


「やめてくださいよ。遊びでやってるんじゃないですよ」


「わらわにとってはどれも同じじゃ」


 ユミス様は今日も緊張感ないなぁ。


「さぁ、行きましょう」


 猫の姿で夜空を跳躍する。


 鉄柵の高い門もこの姿なら軽々と越えられる。


「身が軽いっ。猫の身軽さは人間の比ではないですね!」


「そうじゃろ。じゃからわらわもこの姿が気に入っておるのじゃよ」


 次に生まれ変わるなら猫がいいかもしれない。


 敷地へと侵入して屋敷の周りを見まわす。


 この中へ侵入できる良い場所はないか。


「表の扉と一階の窓はすべて閉まっておるようじゃのう」


「それなら裏へまわってみますか」


 こんなに大きな屋敷なら入り口もひとつではないはずだ。


 芝のやわらかい地面を踏みしめながら裏の入り口を探す。


「こんなに大きな屋敷なら調理場が一階の裏にあるはずだけど……」


 あった!


 屋敷の料理人がゴミを出したりするときに使う裏口が少し開いている。


「ユミス様。見つけましたよ。ここから忍び込めます」


「ほほ。なら、閉まるうちに早く中へ入らせてもらうのじゃ」


 ユミス様が私より先に屋敷の中へ飛び込んでいった。


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