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第60話 サイクロプスを狂暴化させるもの

「おおっ、すげえ!」


「なんだ、あのねぇちゃん!」


「つえぇじゃねぇか!」


 落ちていた兵たちの士気が爆発した。


「ヴェンツェル、奴らに追撃を!」


「まかせとけ!」


 ひさしぶりに雷の魔法をお見舞いしてやるか。


 空気中に撒いた水蒸気を上昇気流で押し上げる。


 雨雲の存在を確認して、


「アルマ、下がれ!」


 彼女が離れた直後に雷を振り落とした。


「うわぁ!」


「なな、なんだ!?」


 紫色の光の柱がサイクロプスたちを押しつぶす。


「が……っ」


 強固な肉体で守られていても、雷がもたらす圧倒的な熱の力に勝ることはできない。


 だが、一瞬で炭と化してもお前たちをかわいそうだとは思わない。


「よくわかんねぇけど、あのにぃちゃんもすげぇぞ!」


「さっきのって魔法なのか?」


「あんなの見たことねぇ!」


 この土地で踏ん張ってる皆さんに満足してもらえて満足だ。


「ぎぎ……っ」


 サイクロプスの生き残りがいたか。


「仕方ない――」


「後はまかせて!」


 アルマがスカートの裾をなびかせながら高く跳んだ!


「これで終わりだっ」


 宙でランスの先を倒して生き残りのサイクロプスの腹にランスを突き刺した。


「があっ!」


 サイクロプスが絶叫する。


 あれがアルマなのか?


 栄養失調で倒れて、師のバルタ先生にも牙を向けられなかったというのに。


「サイクロプスが全滅したぁ!」


「すげぇ!」


 アルマがこちらに振り返ってニコリと笑うと、大地が震えんばかりの歓声に包まれた。



  * * *



 私たちはすぐにあの横柄な部隊長によって呼び戻された。


「お前たちはいったい何者なんだっ。あ、いや、その前に先ほどの非礼を詫びさせていただきたい」


 サイクロプスに負けない体躯の彼が、私とアルマに頭を下げた。


「い、いえいえっ、そんな。わたしたちも――」


 気を遣おうとするアルマを止めておこう。


「あんなひどい態度をとられたから、街まで引き返してギルドに文句を言ってやろうと思ってましたよ。あなたがたにも事情はあるのでしょうが、次からは気をつけていただきたい」


 これから共同で作戦を展開することを考えたら、風上にいた方がいいだろう。


「すまない。ギルドから遣わされる奴らがあまりに使えないもんでな。あんたたちに当たっちまった。許してくれ」


「わかりました。この地を守るため、ともに戦いましょう」


 部隊長と握手を交わす。


 ひとまず共同戦線は張れるだろう。


「アルマとユミは外で休んでてください。今後の予定が決まったらすぐに伝えますから」


「えっ、いいの? ヴェンツェルだけにまかせて――」


「ほほ。いつもすまんの」


 憂慮するアルマの手を引いてユミス様がテントから出ていってくれた。


「ただの若造だと思っていたのに、不思議な奴だな。お前はいったい何者なんだ」


 部隊長が不敵な笑みを浮かべていた。


「通りすがりの若造ですよ。レベリングを続けてきたから、その辺の冒険者よりは強いだろうがね」


「ギルドもやっと重い腰を上げたということか。おもしろくなってきたぜ!」


 部隊長が会議用のテーブルを強く叩いた。


「もうわかってると思うが、サイクロプスどもは南東の森を拠点にしている。森の中に奴らの力を支えるものがあって、そこから奴らがやってくるのだ」


「奴らの力を支えるもの? それの存在は確認したのか?」


「確認した。赤黒く光るものがあったと報告を受けている」


 赤黒く光るもの、か。


「それを破壊すればサイクロプスたちは大人しくなるのか?」


「おそらくな。今までは防戦一方だったが、お前たちが来てくれたから攻勢に移れるぜっ」


「私たちでサイクロプスたちを引きつけて、その隙に別働部隊が敵の中枢を叩く、といったところか」


「察しがいいな。俺が考えていた作戦とまったく同じだ」


 この人も部隊を率いているだけあって、それなりに優秀なようだ。


「アルマとユミなら、長い時間サイクロプスの注意を引きつけられる。その隙に私かあなたが突撃するのはいかがか?」


「お前のとこの女子どもを囮にするのか。あんな可愛い子ちゃんにそんな危険な役を受けさせてもいいのか?」


 今どき「可愛い子ちゃん」なんて言わないだろ。


「ご安心を。あの二人はああ見えてかなり強い。あなたの期待にまっすぐ応えてくれるはずだ」


「わかった。お前たちを信用してるぞ!」


 テントから出てユミス様とアルマを探す。


 二人はギルドが用意してくれたテントで休んでいたようだ。


「ヴェンツェル、おかえり」


「ずいぶん遅かったの」


 女子が帰りを待ってくれているというのは良いものだ。


 二人にざっくりと作戦を伝えた。


「わたしとユミス様で、囮に……?」


「すまないがお願いしたい。ユミス様のバフがあれば、基本的にどのような局面も乗り越えられるだろうから」


「ほほ。わらわはマイナーとて神じゃ。わらわの力を侮るでない」


 やはり絶対的な力をもつ存在というのは卑怯だ。


「ヴェンは敵の中心部へ突っ込むのか?」


「はい。私は精鋭部隊に加わろうと思います」


「そっちの方が危険だよね」


 危険だが兵たちにまかせるのは心許ない。


「危ないだろうけど、アルマがユミス様とがんばってくれたら楽になるよ」


「そっか。わたしたちもがんばるね!」


 アルマの強い言葉が頼もしい。


「ユミス様もお願いしますね」


「それは別に構わぬが、サイクロプスどもの力の源というのは気になるのう」


 赤黒く光る存在のことか。


「彼らの話によると黒い太陽のようなものが森の中にあったそうです。詳細までは聞けませんでしたが」


「ふむ。嫌な予感の正体はこれじゃったか」


「心当たりがあるのですか?」


「うむ。前にわらわとヴェンで炎の悪魔を倒したじゃろう。あれと似たようなものが待ち構えておるのやもしれぬ」


 炎の悪魔……魔王になり損ねたアイムか。


「姉上も前に言っておったが、魔物たちの力が日に日に強くなっておる。これは強大な力が生まれる前触れなのじゃ。その黒い太陽というのは邪瘴の歪みじゃ。一刻も早く破壊せんと取り返しのつかない事態を生むやもしれぬ」


「邪瘴……?」


「詳しいことは終わってから話す。まずは目の前の目標を達成するのじゃ」



  * * *



 次の日の早朝に二人と別れて私は精鋭部隊に混じった。


「これから敵地のど真ん中に行くんだろ。平気かよっ」


「あの部隊長、ひどすぎるぜ。俺たちに死ねっていうのかよ!」


 精鋭とは名ばかりの雑兵ではないか。


「皆、部隊長に不満はあるだろうが、囮で敵を引きつけるから大丈夫だ。皆は与えられた役目を全うすればいいんだ」


 仕方ないから私がこの者たちを率いるしかない。


「ヴェンツェルさんがそう言うならばっ」


「俺たちはあなたについていきます!」


 先日の戦いですっかり気に入られてしまったか。


 陽が昇り、戦いの開始を知らせるラッパの音が鳴り響いた。


「はじまったぞ!」


「まだだ。サイクロプスどもが動いて森が空になるまで待つんだ」


 私たちが動くタイミングを誤ると、せっかくの囮が無駄になってしまう。


 木陰に潜みながらその機に達するまで待つ。


 サイクロプスたちは巨大な得物を引っさげて行進を開始する。


「ひえぇ。あ、あんなに……」


「あいつら、何体いるんだよ……」


 森を我が物顔で闊歩している奴らは、数えただけで十体はいる。


 大丈夫だ。アルマにはユミス様がついている。


「サイクロプスがいなくなったか?」


 ひとまず陽動は成功だ。


「機は熟した。私たちも行こう!」


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― 新着の感想 ―
[一言] その先にあるのは!? まさか、人的に置かれた物ではないですよね? とは、思いたいけど。 あと、アルマさんのお父さんがの死と。 関係がある…? 更新、楽しみにしてます!! いけいけ、天…
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