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第58話 ベイルシュミット家の領地の魔物討伐クエ

 アルマの六カ月以上に渡る長いレベリングが終わった。


「アルマ、これをもっていけ」


 夕陽の下、バルタ先生が草原へ放ったのは新しいランスと小盾だ。


「先生。これは……」


「お前は貧乏なのだろう。武器を買うにしても金が要る。金が貯まるまではこれを使え」


 鋼鉄の、装飾がどこにも施されていないランスだ。


 盾も鉄をただ円形に伸ばしただけの、下級の兵士が使いそうな代物だ。


「よろしいのですか」


「武器がなければそいつらを守れないだろう。ただの安物だ。早く金を貯めてお前に合う武器を探せ」


 バルタ先生は振り返らずに庵の中へ消えていった。


「あやつはそこの武器と同じで無骨じゃの」


「ほんと、その通りですね」


 武人は決して多くを語らない、そういうことか。


「先生……ありがとうございます」


 アルマはランスと盾をずっと抱きしめていた。


「もう外も暗くなる。早く帰ろう」


「うん」



  * * *



 連日できついトレーニングとレベリングをアルマが続けていたため、何日か休養を取ってから冒険者ギルドに向かった。


 ギルドハウスのだだっ広いロビーと冒険者たちのガヤガヤした空気はずっと変わらない。


「おい、あれ……」


「だいぶ前にグリフォンを狩ってた奴らだろ」


「まだこの街にいたのか」


 ナバナ平原の狩りからどのくらいの月日が経ったのか。


「ヴェンツェルっ」


 私の服を後ろからつまんだのはアルマだ。


「わたしも、ここに来てもいいのかな」


 重たい武器と盾をもっておいて、何を今さら……


「アルマはもう立派な戦士さ。胸を張っていればいいさ」


「そう、なの? わたし、胸はあんまり大きくないんだけど……」


「いや、そういう意味じゃなくて」


 アルマって実は割と天然だ。


「堂々としてろってことさ。アルマより戦士っぽい奴なんて、そういないぜ」


「そうなのかな」


 周りの冒険者たちは銀の剣をぶら下げて、鮮やかなマントを羽織ってる奴らばっかりだ。


「ほほ。こんなところで油を売っていたら、また妙な奴らに絡まれるぞ」


 掲示板に貼られているクエストにおいしいものはない。


 余計な諍いを回避するためにも、高難度のクエストを受付でさっさと引き受けるに限る。


「ヴェンツェル様、おひさしぶりでございます。新しいクエストをお探しですか?」


「はい。最近、新しい仲間も加わったので、難しいクエでもいいですよ」


「そうですか。おめでとうございます」


 受付の女性は会釈して、すぐに後ろの同僚に指示していた。


「サブマスターがちょうどいらしています。あなた様にお話ししたいことがあるようですので、三階の別室へ移動をお願いしたいです」


「三階? 承知しましたけど、私は三階の部屋なんて行ったことないですよ。案内してもらえますか?」


「もちろんです。少々お待ちください」


 案内役の女性に従ってギルドの三階まで上がる。


「この階は今まで来たことがないの」


「ユミス様でも訪れたことないんですか?」


「これ。ここではヴェンの妹のユミじゃ」


 三階の部屋は貴族の屋敷のような佇まいで、赤い絨毯やカーテンが目を引く。


「まるでわたしの実家みたい」


「なかなか優雅だな」


 このギルド儲かってるな……と高級そうな椅子に座りながら考えていると、扉をすぐにノックされた。


「やあ、ヴェンツェルさん。ひさしぶりだな!」


 この声が無駄にでかい方は、グリフォン討伐後に会ったことがある。


「おひさしぶりです。その節はお世話になりました」


「ははは、そう固くならないでくれ。きみたちの実力はよく知っている。その腕を見込んでお願いしたいことがあるのだ」


 この方はライツさんという名のようだ。


「お願いしたいことというのは?」


「うむ。街の西に他所の街をつなぐ街道があるのだが、凶悪な魔物に行商や旅人が襲われる被害が頻発していてな。この問題を解決してほしいんだ」


 来たぞ。高額報酬クエ。


「わかりました。街の西の街道というのはナバナ平原の方ですか?」


「いや、そんな遠くではない。もっと近くだ。こことナバナの間の、村や農場がある付近だ」


 ナバナ平原の通り道に村とか農場なんかあったっけ?


「前にその近隣の土地を治めていた領主が急死したようでな。魔物を抑える者がいないらしくて村や農場にも被害が拡大しているようなのだ。他の冒険者にも依頼したんだが、どいつも返り討ちに遭っちまってな。ほとほと困り果ててるのだ」


「多くの冒険者を寄せ付けないほどですか。よほど強い魔物なのですね」


「うむ。きみも一度は聞いたことがあるだろう。サイクロプスの名を」


 サイクロプス……強靭な肉体と膂力をもつ強敵か。


「それはなかなか手強そうじゃのう」


「サイクロプスって、そんなに強い魔物なんですか?」


 アルマはサイクロプスを知らないか。


「私も詳しくは知らないけど、人間を超える巨体でものすごい怪力の魔物だったはずだよ。相手にとって不足なしだな」


「そんな魔物に、勝てるのかな……」


 アルマの初戦の相手としては強すぎるか。


「難しいだろうが、引き受けてほしい。きみもかつて俺の部下を連れてナバナに向かっただろうが、奴らのせいであの街道が今では封鎖されているのだ」


「なるほど。由々しき事態ですね」


「このままでは街の物流が滞る。近隣の村の被害も気になるが、街が機能しなくなることの方が怖い」


 この街は近隣の土地の中枢だ。


 ここの機能が止まれば他所にも伝播するな。


「それにしても、急死したという領主……男爵でしょうか? その方がご健在だった頃はそんな被害なんてなかったんですよね。よほど立派な領主だったのですね」


「ああ。俺も詳しいことはよく知らないが、かなり強い領主だったと聞いてるぞ。たしか、ベイルシュミットとかいう名前だったはずだが」


 ベイル、シュミット?


 どこかで聞いたことがある名前だぞ。


「そんな、まさか……」


 アルマ! きみの名前かっ。


「どうした? なぜそこで固まる?」


「あ、いや……」


 ライツさんに気づかれないようにクエストを引き受けてしまおう。


「では、今回のクエはサイクロプスの討伐だということでいいですね?」


「ああ。引き受けてくれるか。さすがだっ」


「もちろんです。この街と被害に遭ってる村のためにはたらきましょう。封鎖されているという街道は、ライツさんが裏書してくれた通行証のようなものがあれば通れると考えてよいですね?」


「ああ。ギルド証を後で渡そう。そいつを見せれば大体の施設が使える。クエ遂行のために役立ててくれ!」


 これは報酬を求めない戦いになるか。


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― 新着の感想 ―
[一言] そっか、もうおっちゃん先生出てこない! いい人に恵まれましたねアルマさん。 3人になって初めてのクエストがまさかの!? アルマさんしっかり!! めっちゃ強そうなサイクロプス… 大怪我…
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