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第57話 師と己を超えろ!

 夕食の後に魔法の使い方や発動させる方法を教えて、少しずつだがアルマは魔法が使えるようになった。


 火と光の魔法のスキルをそれぞれ初級レベル十まで習得し、ついに槍の上級スキルを習得する段階へと移った。


 二ヶ月の驚異的な速さで上級スキルを学び、後は卒業を待つのみとなった。


「もっと打ち込んでこいっ。俺を本気で倒してやると息巻いてみろ!」


「はいっ」


 アルマは卒業のため、今日もバルタ先生を倒すべく戦っている。


 アルマの全身には痣ができ、腕や足から血が流れているけど戦いは止まらない。


「くらえっ」


 重たい鉄の塊を果敢に突き出す。


 鋭い攻撃だがバルタ先生の鉄壁は破れない。


「甘い甘い! そんなへなちょこで強敵の防御を砕けると思っているのかっ。ぼうっとしているうちにお前がやられるぞ!」


 バルタ先生がランスを地面に突き刺す。


 強圧が地面で爆発して突風に似た力が放出された。


「キャア!」


 ここ一、二週間ほど、先生がかなり真剣に相手をしている。


「あのウル族もアルマを相手に余裕がなくなってきたようじゃのう」


「それだけアルマが成長したんですよっ」


 アルマ……っ、先生を倒せ!


「どうしたっ。お前の力はそんなものか。全力で俺を倒してみろ!」


 アルマはランスを杖の代わりにして、なんとか起き上がった。


「もうギブアップか? 今日も俺を失望させる気か?」


「はぁっ!」


 アルマが後ろに跳んでランスを構えた。


「今日こそ、あなたを倒す!」


 アルマが掛け声とともに突撃して――いけぇ!


「ラピッドランスか。いい打ち込みだ。だがっ」


 先生が盾を構えて正面から受け止める。


「お前の力はこんなものではないはずだっ」


「ぐ……っ」


「俺が知っているお前はっ、俺くらいなら軽々と吹き飛ばせる力をもっているはずだ!」


 くそっ、アルマがまた倒されてしまった。


「あのウル族。ただのやかましい男ではないな……」


「ええ。やはり一流。凄腕の戦士ですっ」


 あの先生を倒すことはできないか。


 でも、先生はアルマの才能をしっかりと見抜いている。


 あいつの力はこんなものではないはずなんだ。


「アルマは、ためらっているようじゃの」


「アルマが、ためらっている……?」


「うむ。あやつは優しい娘ゆえ、相手を傷つけることに抵抗があるようなのじゃ。しかも相手はここ数ヶ月間に渡って指導をしてくれた恩師。打ち込む武器も鈍るはずじゃ」


 アルマが肩で息をしている。


 満身創痍で、見ているこっちがつらい。


「今日もこれで終わりかっ。こんな下らん対決を何日まで続けさせるつもりなんだ!」


 バルタ先生もおそらく懊悩している。


 どうすればアルマの力を引き出せるのか。


 アルマ……心のたがを外すんだっ。


「はっ!」


 アルマが今度はランスを下げて、左手に持つ盾を前に突き出した。


「シールドアサルトか。フォームと速さは満点だ」


 バルタ先生も大盾を突き出して、鈍い金属音が夕空にひびいた。


「だがっ、相手を吹っ飛ばしてやろうという気概が足りないっ。そんな力では仲間を助けることはできぬぞ!」


「ぐ……っ」


「お前が目指しているランスマスターの父とやらは、この程度の下っ端だったのかっ! 弱い領民を救った男だと? 聞いて呆れるわ!」


 吹き飛ばされたアルマの空気が、変わった。


「わたしの父は、そんな弱い人ではないっ」


「いいや、嘘だな。俺にはそいつが強いと感じられない」


「だまれ!」


 アルマが……怒った!?


「はぁぁ!」


 ランスを突き出して走り抜けるラピッドランスだが……


「ぐおっ!」


 さっきと勢いが違うっ。


「取り消せ! わたしの父を弱いと言ったのをっ」


「嫌だな。お前の父親はザコだ。俺の足もとにも及ばん」


「ふざけるな!」


 アルマを挑発して力を引き出させたのかっ。


「そうら、お前の父が棺桶の底からお前を見てるぞ」


「だまれ!」


「弱い俺に似てしまってすまんとな、泣きながら言っているぞっ」


 バルタ先生もきっとつらいんだろうな。


「もう少しじゃ。もう少しであやつの箍ははずれる」


「はい」


「戦場でかける情けは単なる無思慮。あやつが大きなものを守り抜くためには、時に非情にならねばならぬのじゃ」


 アルマっ、ここを超えろ!


「時にお前があの仲間たちに見せた涙、あれも偽りだったということか」


 バルタ先生が言い出したのは、ひと月くらい前に交わしたパーティ加入の約束だ。


「なんだとっ」


「このレベリングを終えてからあいつらのパーティに入ると抜かしていたが、本当はそんな気持ちなどなかったのだろう?」


「違うっ。ふざけたことを言うな!」


 アルマの突撃を先生が受け流す。


 倒されてもアルマは立ち上がって攻撃を続ける。


「わたしはっ、恩返しがしたい。わたしのために、待ってくれているあの二人に!」


「嘘をつけ! だったらなぜ本気でかかってこないっ。その気がないからであろうがっ!」


「お前に何がわかるっ」


 アルマがランスと盾を投げ捨ててバルタ先生に飛びついた!


「なにっ!?」


「あの二人はっ、赤の他人だったわたしを、助けてくれた! お金と食事を恵んでくれたっ。身勝手な要求をしたわたしにひと言も文句を言わずに付き合ってくれた!」


 アルマ……


「こんな良い人たちにそう出会えないって、父上の屋敷でぬくぬくと育ってきたわたしにだってわかるっ。だから、わたしは恩返しがしたいんだ!」


 アルマが先生を押し倒して、先生の腰からダガーを引き抜いた。


「そこまでじゃ!」


 ユミス様のかん高い声が空の彼方まで届いた。


 アルマはダガーを先生の首筋に押しつけて、そのまま掻っ切ろうとしていた。


「アルマよ。もう終わりじゃ。そなたの勝ちじゃ」


「終わりじゃない! こいつはあなたとヴェンツェルを侮辱した。許せない!」


「馬鹿者がっ。それは本気を出さないお主に仕方なく投げかけた挑発じゃ。そんなもの、いつものそなたならすぐに聞き流せたじゃろう」


 アルマの手からダガーを取り上げる。


 彼女がやっと我に返った。


「そんな、わたし……」


「ものすごい気迫だったし、きみの思いも聞けて嬉しかったよ。これでランスのレベリングは終わりだ」


 驚いて声が出せない先生も起こしてあげよう。


「先生、ごめんなさい!」


「あ、はは。気にするな。あそこでもしお前に斬られても俺は本望だったさ」


 先生がいつもの明るい声でアルマの頭を撫でる。


 アルマはまた泣いていた。


「アルマよ。武人たるもの、軽々しく涙を流してはならん」


「はい……っ」


「俺も武人。講義でも死を伴う真剣勝負に立ち会ったのだから、死は覚悟の上だ。お前には最後に、この気概をどうしても授けたかった」


 バルタ先生は、いい先生だ。


「お前を窮地から救ってくれた大事な仲間を、今度はお前が救うんだ。わかったな」


「はいっ」


「これでもう思い残すことはない。お前の上級ランスマスターの道、合格だっ」


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― 新着の感想 ―
[一言] アルマさん、おめでとう!! 女の子なのに、良くぞ頑張った… (´;ω;`) ランスのおっちゃんも、お疲れ様! 事実、闘いの場では情は捨てなきゃなんない。 アルマさんの成長を見守ってい…
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