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第42話 気づいたら街の有名な冒険者に

 モットル男爵に偽勇者を預けて、グーデンの街へと戻ってきた。


 行商が行き交う長い街道の果てに堅牢な石の門が見えてきた。


「街にやっと戻ってこれたのう。あの高い門もひさしぶりじゃ」


「そうですね。結局、男爵様のうちに長居してしまいましたからね」


 男爵様は私たちをなかなか帰そうとしなかった。


 ずいぶんと気に入られてしまったが、いつかは街へ帰らなければならない。


「街へ帰ったら何をして遊ぶかのう」


「私は何日か休みたいです」


「ほほ。精神的な疲れまでは魔法で癒せんからのう」


 男爵様のうちに結局何日くらい滞在していたのだろう。


「あっ、ヴェンさんとユミさぁーん!」


 こちらへと向かってくる馬車から懐かしい声が聞こえた。


「おお、あれは」


「ドグラ族のレトルさんですね」


 レトルさんは長い舌を出して手を振っていた。


「おひさしぶりっす! お仕事の帰りっすかぁ?」


「はい。少し遠出をしてました。レトルさんも他所の街へ行かれるんですか?」


「はいっす。もっと大きな街に行って、さらに儲けようと考えてるっす!」


 この人は仕事熱心だな。


「お二人のお噂は聞いてるっすよー。街でめちゃめちゃ注目されてるじゃないっすか!」


「ほぉ、そうなのか?」


「ユミさんってば、やだなぁ。とぼけるのはなしっすよぉ」


 そこまで注目されてなかったと思うんだけど。


「いろんな村で魔物や悪い奴らを倒して、八面六臂のご活躍じゃないっすか! ああ、今すぐにでも護衛になってほしいっす」


 肩を落とすレトルさんがおかしかった。


「機会があれば引き受けますから」


「そうじゃぞ、ドグラ族の者よ」


「はぁ、ユミさんのおばあちゃん口調、ひさしぶりに聞いたっす」


 レトルさんに別れを告げて、グーデンの北門を通り過ぎた。


「なんだか広場が騒がしいようじゃのう」


 太鼓や笛のにぎやかな音が聞こえてくる。


 北門の広場に大きな人だかりができていた。


「旅芸人の一座がきてるようですね。少し見ていきますか?」


「なかなか楽しそうじゃのう。ぜひ、そうしてくれ」


 ユミス様はどんなものにも興味をもたれる。


 人垣の隙間から顔を覗かせると、玉乗りをしている大道芸師がいた。


 ユミス様と同じくらい大きい玉に逆立ちし、両足の指で二本の剣をそれぞれぶら下げている。


「おおっ、なんだかようわからぬが、すごいぞ!」


 ユミス様は白い羽根をパタパタさせて芸に魅入っていた。


「曲芸師という人たちですね。世界各地を旅しながら観客に芸を披露して生計を立てている人たちです」


「ヴェンが魔物を討伐する代わりに、奴らは変なことをして人間を楽しませているということじゃな?」


「はい。あの人たちから微妙に怒られそうですけど、大まかな部分は合ってます」


 調教した犬や豹に火の輪をくぐらせたり、たくさんのダガーを宙に舞わせている。


 芸が披露されるたびに「わぁ」と観客から声援が上がった。


「よくわからぬが、たまに見るのは悪くないのう」


「そうですね。たまに見ると刺激があっていいです――」


「すっ、すみません!」


 旅芸人の一座と反対方向から声がしたぞ。


 振り返ると二人の若い女性が立っていた。


 新米冒険者っぽいけど、私が呼ばれた?


「はい。何か?」


「あ、あ、あ……握手してください!」


 あ……くしゅ?


「私とですか?」


「はっ、はい!」


 真横から注がれるユミス様の視線がものすごく冷たいが、二人の女性の手をにぎる。


「キャア!」


「しんじらんないっ!」


 お二人の手はとても暖かくて、柔らかい……


「あ、ありがとう、ございました!」


 至福の時は一瞬で過ぎ去ってしまった。


「めちゃくちゃ緊張しちゃった!」


「となりの子ちょっと怖かったよねっ」


「きゃはは、言えてるー!」


 今日は、手を洗わないでおこうか――


「さっきのは……だれじゃぁ?」


 振り向いてはいけない悪魔がっ、となりにいたっ。


「ししし、知らない、ですっ。初めて、会った人たち、ですしっ」


「そのわりには、至極嬉しそうじゃのぉ……」


「そそ、そんなことはっ、ないです!」


 こんなどす黒い力を世に放っていたらお父上から叱られるぞ!


「おい、あれじゃね?」


「そうだよ! あのちょっと浮いてる奴っ」


 今度はギルドハウスがある場所から男たちの声が聞こえた。


 こちらも若い冒険者の三人組だ。


 剣士、魔法使い、格闘家のわかりやすい出で立ちの人たちだが。


「ふょ? 今度はなんじゃ?」


 黒い悪魔……じゃなかった。ユミス様が振り返ると男たちから小さな歓声が漏れた。


「すげえ! ほんとに浮いてるっ」


「人形みてぇ!」


「うわぁ、飼いてぇ……」


 変な言葉が混じってる気がするけどユミス様も冒険者から注目されてる……と思っていいのかな?


「ユミス様も人気になられたようですね」


「ほぉ? そうなのか? そのわりには信仰をまったく感じぬが」


「神様として拝められてませんからね」


 ユミス様は注目されることに関心があまりないようだ。


「あんたらか!」


 今度はなんだ!?


 現れたのは勇者っぽい格好の男と二人の男女だ。


「あんただろ。金髪の若い奴に、銀髪の羽根を生やした奴」


「は、はぁ」


「最近、グリフォンとか倒して有名になったんだろ。頼む! 俺たちのパーティに入ってくれっ!」


 何かと思ったらパーティの勧誘!?


「なんだなんだ?」


「ケンカか?」


 大道芸を楽しんでいた人たちもがやがやと騒ぎはじめてしまった。


「なっ、なぁ!」


「すみませんが、お断りさせていただきます」


 騒ぎが大きくなったら面倒だ。


 茫然としているユミス様の手を引いてあの場を離れろ。


「ヴェンよ、ちょっと待つのじゃ」


 繁華街の方まで来れば平気だろう。


「どうしたのじゃ、ヴェン。急に走り出して」


「騒ぎが大きくなりそうでしたので、ひとまず退避しました」


「先ほどの者たちのことを気にかけておるのか? あやつらに邪気は感じなかったぞ?」


 邪気とか敵意はないと思いますがね。


「あそこで騒がれると旅芸人の方々とかに迷惑がかかると思いましたので」


「それでここまで逃げてきたのか。ヴェンはいつも、考えることが多いのう」


 ユミス様がのんびりしすぎてるだけでしょ。


「奴らはヴェンを好いておったようじゃが、よいのか? 放っておいて」


「はい。知らない人たちでしたし、どこかのパーティに入る気もありませんので、余計なことはしなくていいです」


「もったいない気もするがのう」


 冒険者のパーティ加入は、もっと計画的に実施した方がいい。


 今までの教訓からそれは学んだが――


「ヴェンツェル・フリードハイム!」


 すこぶる嫌な気配が真後ろから発せられていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] うふふ! 一気に人気者になった二人! ユミス様にも、ファンがいた〜(´∀`*)ウフフ ユミス様のヤキモチも…か、カワイイな? 最後の声をかけてきた嫌なやつ。 ダレ…? むむ、また、な…
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