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第34話 決別のとき

「やめろ」


 私は結局、奴を突き放した。


「私はあなたと特別な関係になる気はない。私たちはあくまで冒険者パーティの一員だ」


 リーゼロッテの甘ったるい顔が一変する。


「私にはユミスさ……ユミがいるし、特定の誰かと一緒になる気はない。なので、すみませんがお断りいたします」


 かつて私を殺した一味の奴らと懇意になどできるか。


 リーゼロッテの顔がみるみる赤くなっていった。


「ふんっ。何よ、お高く止まっちゃってっ。ちょっと若いからって調子に乗ってるんじゃないわよ!」


 これでもう近づいてこなくなるだろう。


「絶対に許さないからね。今日のことは――」


「こんのっ、めすぶたがぁ……っ」


 ものすごい魔力が突然どこかから発せられてきた!


「なっ、なに!?」


「なんだ!?」


 リーゼロッテも飛び跳ねるようにベンチから離れた。


 ベンチの背もたれの後ろ。


 魔王の僕のような黒い塊が、背もたれにしがみつくようにこちらを覗いている!


「わらわのっ、ヴェンを……」


「ユミス様!」


 私はすぐに駆け寄ってユミス様を抑えた。


「ユミス様っ、どうかお気をたしかに!」


雌豚めすぶため許さんぞぉぉ!」


 どす黒い力が大爆発するように八方へと放たれた!


「ひぃ……っ!」


「やっ、やばい!」


 このままだとユミス様が神の掟を破ってしまう。


 こうなれば自棄やけだっ。


「ユミス様、どうか気を静めてください!」


 ユミス様を後ろから抱きついて全力で押さえつけた。


 神の力の前では私の力など児戯に等しいが、それでもやるしかないっ。


 暴風のようなユミス様から何度も弾き飛ばされそうになるが、


「ヴェ、ヴェン……っ」


 強い力が少しずつ弱まっていった。


「そんなに、強く抱きしめられたら……恥ずかしい……のじゃ」


 ユミス様が元に戻った!


「ああ、よかった。元に戻ってくれて」


 力が抜けて地面にへたり込んでしまった。


 リーゼロッテは気づいたときにはいなかった。


「ヴェンは、ずるいのじゃ。わらわが、怒ると知ってて……わざと、あのようなことを……」


 ユミス様はなぜか背中を向けて、ぶつぶつと文句を言っていた。


「いや、あの……すみません」


「わらわだって、怒りたくなんか、なかった、のに……」


 ユミス様が珍しく拗ねて……困ったなぁ。


「奴のことはきっぱりと拒絶しましたから。もし強引に仕掛けてきてもウィンドブラストで吹き飛ばすつもりでしたから!」


「……本当か?」


 ユミス様って、意外と女性そのものなんだなぁ。


「本当です。私を信じてください」


 まっすぐに答えると、ユミス様がこくりとうなずいてくれた――


「にしてもあの雌豚は許せんのじゃ。八百年のはりつけの刑じゃ!」


「いや、あの……八百年も人間は生きられませんって」


「ならわらわが父上に頼んで奴の寿命を延ばしてやるのじゃ。あの雌豚めぇ……!」


 そんなしょうもない理由で寿命なんか延ばさないで……寿命延ばせるの!?


 ユミス様に頼み込めば私の寿命を延ばしてもらえるんじゃないかと、よこしまな考えが頭をよぎったり、よぎらなかったりした。



  * * *



 リーゼロッテと密かに決別しても勇者パーティ内で表面的な軋轢あつれきは生まれていない。


 奴らとクエストをこなしながら裏で貧しい人々を助けて……というサイクルが何度か続いた。


 そろそろ本格的に動き出してもよいか。


「ヴェンさんもうちらのパーティにだいぶ溶け込んできたな!」


 クエスト完了を報告し、冒険者ギルドの別室にディートリヒとクリストフの三人で集まった。


「ありがとうございます」


「ヴェンさんはめっちゃ強力だから、すごい助かってるぜ!」


「ヴェンさんの妹も優秀だよな。最近はちょっと体調が良くないみたいだけど」


 ユミス様にお願いして仮病でクエストを休むように伝えている。


「はい。ユミがご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません」


「いいって。ユミちゃんの分は報酬から差し引いてるし、そんなに重たいクエもないから」


「ありがとうございます。ユミの体調が良くないので、私もしばらく看病したいのですが、よろしいでしょうか?」


 呑気なディートリヒとクリストフの表情がわずかに変わった。


「それって、しばらくクエを休むっていうことか?」


「はい。数日だけでかまいませんので。ユミは唯一の身内ですので、治るまでそばにいたいんです」


「そう言われると止めにくいんだけどなぁ」


 クリストフがディートリヒを見やる。


 ディートリヒも腕を組んで考え込んでいた。


「それって何日くらい?」


「長くても十日ほどだと思います」


「十日、かー」


 許可されないんだったら怪我を自演するだけさ。


「おし、わかったぜ!」


「ありがとうございます」


「おい、いいのかよっ」


 不安がるクリストフをディートリヒが制止した。


「最近クエをこなしてばっかだったから、たまには休んでもいいんじゃねーの? リーゼも最近あんまり顔出さねーし」


「そうだけどよ」


「金もあんまり困ってねーから、思い切ってひと月くらい休み! にすっか」


 ひと月も休暇をもらえるんだったら、とても都合がいい。


「そんなに休みを入れなくてもよぅ」


「なんだぁ? クリスちゃん。もしかして金欠なのかー?」


「そ、そうじゃねぇって」


「その顔は『昨日もギャンブルで負けました』っつー顔だぜ。いい加減に控えろって何度も言ってるだろぉ?」


「う、うるせー!」


 クリストフはギャンブル三昧のしょうもない奴だ。


 ディートリヒも酒と女ばかりのしょうもない奴だが。


「どーしても金がほしいってんなら、俺と簡単なクエでも消化すっか」


「お前だって金そんなにないんだろ」


 ぎゃははと笑いながら二人は部屋から出ていった。


「十日間の休みをもらうのは難しいと思っていたが、バカな奴らめ。ひと月もあれば、ほとんどの村を回ることができる」


 この休暇で向かいたいのはモットル男爵の館だ。


「モットル男爵、か。懐かしい響きだ」


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