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第27話 少し有名になってしまったようで

「嫌だ」


 きっぱりと告げると、先頭のキツネ顔の男が目をまるくした。


「なんだって!?」


「いや、だから嫌だって言ったんだよ」


「な……っ」


 こいつ、私が脅しに屈すると思っていやがったのか。


「おい」


「いいからさっさと殺っちまおうぜ」


 後ろのザコどもがいきり立ってダガーを抜いた。


「仕方ねえな。手荒なことはしたくなかったんだが」


 そう言ってキツネ顔の男も剣を抜いたが、それなら恐喝なんてするなよ。


「なんじゃ。何がはじまるんじゃ?」


「ユミス様は屋根の上にでも移動しておいてください」


 地面を蹴ってキツネ顔の男に急接近する。


「な――」


 両手を突き出しながら初級のアクアボールを唱えて男を吹き飛ばした。


「おいっ」


「てめえ!」


 三下どもも動き出したが……遅い!


 アクアボールを連続で唱えて二人の男も同時に吹き飛ばした。


「な、なんだ!?」


「喧嘩か?」


 街の人たちに気づかれたか。


 キツネ顔の男が頭から血を流しながら長剣を突き出してきた。


「死ねや!」


 剣さばきは意外と悪くない。


 腰を落とし、無駄な動作をはさまずに攻撃を繰り出している。


「なんだ、思ってたより剣筋はいいじゃないか」


「だまれっ、クソガキ!」


 だが怒りで冷静さを欠いている。


 彼が使う細身の剣は正確さが求められるが、それを失念しているのだろう。


 さっさと降参させてしまおう――と思ったときに背後から身体を締め付けられた。


「ナーイスっ、よくやった」


 二人のうちの一人が私を抑えてきたのか。


「こしゃくな魔法使い野郎がっ。こうすりゃ、力がねぇお前みたいなやつはなんにもできねえだろう」


 魔法は手を使わなくても唱えられるんだけど。


「そのまま、よーく捕まえてるんだ。俺がひと思いに突き刺してやるから、俺が刺す瞬間にそいつを突き放せ!」


「オーケー!」


 チームワークも思ってたより悪くないようだ。


 さて、次はなんの魔法を唱えようか――と思っていたら、私の身体の周りに水の障壁がなんの前触れもなく発生した。


「ぐわぁ!」


「なに!?」


 私を抑えていた男が弾き飛ばされる。


 ユミス様がバフをかけてくれたのか。


「ヴェンよ。いつまでそうやって遊んでおるのじゃ。わらわは早く帰ってこのキラキラを愛でたいのじゃ」


 ユミス様は三角屋根の上で眠たそうにあくびをしていた。


「すみません。さっさと終わりにします」


 ウィンドブラストを唱えてキツネ男を吹き飛ばした。さっきより強めに。


 棒立ちの男にはウォーターガンをお見舞いして二人を気絶させた。


「あ、わわわ……」


 最後の一人はすでに戦意を喪失していた。


「これでわかっただろう。弱者の恐喝など金輪際やめることだ。さもなくば、どうなるか――」


「うっ、うわあぁぁ!」


 私が身体の向きを変えたのと同時に、男は奇声を発して繁華街の方へと逃げていった。


「これだけ思い知らせてやれば、次も同じことはしないだろう」


 周りから街の人たちの騒ぎ声が聞こえてくる。


「なんだよこれ」


「よくわかんねーけど、すげーやつがいるぞ!」


 他に誰もいなかった路地裏が気づいたら見物客であふれてる!?


「なになに。何があったの?」


「あの金髪の兄ちゃんが一人で悪党どもを倒しちまったんだよ!」


「何それ、すごーい!」


 騒ぎが大きくなったら面倒なことになるっ。


「すみません。お騒がせしましたっ」


 人垣を掻き分けて、逃げるようにその場を後にする。


「ヴェンよ、待つのじゃ!」


 ユミス様も屋根を伝って私を追ってきてくれたが、見物客から相当騒がれていた。



  * * *



 グリフォンの討伐と街の乱闘のせいで、私とユミス様は少し注目を集めてしまったが、あまり目立たないように過ごした。


 資金は確保できたのでもう少しグレードの高い宿に引っ越して、グーデンでの生活は軌道に乗りつつあった。


「ここから眺める景色もなかなかのものよのう」


 ユミス様がベランダのお気に入りの場所で佇んでいる。


 さほど広くないベランダだが、ユミス様専用の椅子を設置している。


「ユミス様はその場所が好きですね」


「そよ風が気持ちいいからの。お主は今日も魔法の勉強か?」


「はい。初級の魔法を復習してます」


 ベランダにつながっている部屋で魔導書を広げて、詠唱を暗記し直している。


 初級用の魔導書とはいえ書物は高額なので、ユミス様が所持している書物を借りている。


 ユミス様は所持品を神殿の地下に保管しているが、謎の力で簡単に取り出せるようだ。


「ヴェンよ。たまには冒険者ギル……のクエ……なんだったかの。以前にこなしたアレをしなくてよいのか?」


「冒険者ギルドのクエストですね。よくクエとかギルクエと略されますが、無理にこなさなくてもよいと思いますよ」


「ほう、そうなのか?」


「はい。クエは資金が減ってきてから探してもいいですし、今はお金に困ってる状況でもないですから」


「そうか。でも刺激のない生活はちと退屈よのう」


 のんびり暮らすのもいいけど、あんまり平和だとつまらないという気持ちはわかる。


「では、明日あたりにまたクエを探しますか?」


「うむ、そうしてほしい。できれば、ちょっと遠出がしたいのう」


「遠出というと違う土地に行ってみたい感じですかね」


「んー、そこまで具体的には考えとらんが」


 クエを受けるより、まずはどこに行きたいかどうかを話し合う必要があるか。


 玄関の方から呼び鈴の音がした。


「ほよ?」


「誰か来たみたいですね」


 ユミス様の退屈を程よく解消してくれる使者であってほしいが。


 玄関の扉を開けると、この宿ではたらく顔見知りの下女が立っていた。


「ヴェンツェル様。おくつろぎのところ失礼します。ロビーにお客様が見えております」


 私にお客様?


「ヴェンよ、どうかしたのか?」


「一階のロビーに私の訪問客がいるようなんです。ちょっと降りてきます」


 面会の予定なんて一つもなかったはずだけど、ギルドの方が高難度クエストの消化を依頼しに来たのかな?


 下女に従って内廊下を伝い、階段で一階まで降りる。


 この宿は四階建てで、私たちは最上階の部屋を借りている。


 一階建てや二階建ての宿屋が多い中にあって、四階に住めると少しリッチな気分を味わえる。


「あちらの方々です」


 やや上機嫌で一階の酒場となっているフロアに降りて、愕然とした。


「お、あいつがヴェンツェルか?」


「へぇ。意外と若っ」


 下女が指した男女が知っている者たちであったからだ。


「クリストフと、リーゼロッテ……っ」


 まさかこんなかたちで因縁の再会を果たすとは。


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