第24話 冒険者ギルドのクエスト
繁華街のそばにも宿屋はあったけど、繁華街から近すぎると騒音が気になってしまう。
落ち着ける宿を探したら、生計を立てる手段を早めに決めないといけなそうだなぁ。
「ヴェンは酷いのじゃ。わらわがほしいものを何一つ恵んでくれぬ。悪魔じゃ。魔王じゃ。魔王の手先じゃ!」
緑が広がる公園のベンチでくつろいでいると、ユミス様が横からいちゃもんをつけてきた。
「魔王の手先……はさすがにないでしょう」
「ならば、あの小道具を買うのじゃ」
「それはダメです」
「なぜじゃ!?」
女神様が真顔で駄々をこねないでくださいっ。
「さっきから何度も言ってますけど、金がないんですよ。真面目に稼がないと路頭に迷いますよ」
「金がないなら金でも掘ればよかろう」
さらりとすさまじい迷言が飛び出した。
「じゃあツルハシを買って差し上げますので、今から掘ってきてください」
「ほんとか!?」
面倒なので露店で販売されているツルハシを見せたら、女神様がやっと諦めてくれた。
「なんでー、わらわの好きなものを買ってくれんのじゃー」
「だから金がないって言ってるでしょ」
新しい宿を見つけるのもだんだんと面倒になってきた。
繁華街から少し離れた東門の方に静かな佇まいの宿屋があったので、そこに決めてしまった。
「という訳で私たちの当面の目標はお金稼ぎです。でなければ欲しいものが何一つ買えません」
「うう……っ、買ってもらえないのは嫌じゃ」
椅子もベッドもない居間の床に腰かける。
レトルさんからいただいた果物でしばらく食いつなぐか。
「金が掘れないのなら、どうやって金を得ればよいのじゃ」
「ぱっと思いつくのは冒険者ギルドを訪問してクエストを受けることですね」
「冒険者ギルド……というのは以前に聞いたような気がするな」
「冒険者に仕事を斡旋したり、冒険者を育成する民間の施設です。この街では北の地区にあります」
「そのような場所があるのならば、さっさと行けばよかったのう」
さっさと行きたかったけど、誰かさんに邪魔されたんだよ。
「でも、そんなに悲観的にならなくてもいいと思いますよ」
「ほ? それはどうしてじゃ?」
「ユミス様は魔法使いのエキスパートですし、私もユミス様のお陰で強くなりました。ギルドで受けられるクエストは野盗の討伐とか低級の魔物の討伐ばかりです。私たちなら楽勝です」
「そうなのか。なら何も心配いらないではないか!」
簡単な分、報酬は少ないんだけれども。
「料理をつくったり錬金でエリクサーを大量につくるような生活系のクエストもありますから、まずはいろいろ受けてみましょう」
「よくわからぬが、あの可愛らしい小道具が得られるのならば、わらわはなんでもするぞよ!」
* * *
グーデンの冒険者ギルドには何度も足を運んだから、道をいまだに覚えていた。
賑やかな繁華街を過ぎて、北門の広場にその建物はある。
大きな扉を開けるとロビーにつながっていて、中央の掲示板のまわりに冒険者たちが集まっている。
「ほう。ここが冒険者ギ……なんとかというやつか。なかなか広いのう」
「冒険者ギルドですよ。そんなに覚えにくくないでしょう?」
白銀の鎧に身を包んだ剣士や、三角帽子をかぶった魔法使いなど、実に冒険者然とした人たちばかりだ。
年齢は二十代後半から三十代の人たちがメインだ。
「して、ここでわらわとヴェンは何をすればよいのじゃ?」
「そこの掲示板に掲載されてるクエストを選ぶか、向こうのカウンターでクエストを紹介してもらうんですよ」
「向こうのカウン……でクエ……をするのか? まったくもって訳がわからん……」
頭を抱えるユミス様の手を引いて掲示板を眺める。
見た感じ、魔物討伐系のクエストが多いようだ。
○○の村の近隣の魔物を討伐してほしい、とか農作物の被害が多くて困ってます、みたいなラフラ村で受けたクエストと同じようなものばかり――
「あれあれあれぇー? なんで大人の溜まり場にガキンチョどもが混じってやがるのかなぁー?」
なんか、ものすごくテンプレートな野次が真後ろから聞こえてきた。
振り返った先で佇んでいたのは三人の冒険者。
先頭で偉そうにしているのは赤いマントを羽織ったキツネ顔の男だ。
腰にロングソードを差していきがっているこの人はフォグ族の冒険者か。
「僕たち、そこに立ってるとクエが確認できないんだけど、早くどいてくれないかなー?」
フォグ族の男の小馬鹿にする口調に、まわりの冒険者たちがどっと沸いた。
「ここはな、お前らのようなガキンチョどもが来る場所じゃないんだよ」
「わかったら、さっさとそこをどきな」
私もユミス様もガキンチョじゃないんだけどね。
「そこのお主はキツネの亜人のフォグ族か」
ユミス様が問うとフォグ族の男は一瞬だけ目を見開いた。
「そうだよ。ガキンチョの割によく知ってるじゃないか」
「フォグ族は口がうまくて利発的な者が多いが、反面ずる賢い者が多い。よって純朴なドグラ族よりも信用を得にくいのが玉に瑕よの」
ユミス様は野次をまったく気にしていないようだ。
「そんなことはどうでもいい」
「おら、さっさとそこをどけよ!」
こういう柄の悪い連中と関わるとろくなことがない。
面倒だからクエストを適当に選んでしまおう。
「じゃあ、報酬が一番高いこのカイザーグリフォン討伐でいいですね」
私が掲示板に手を伸ばすと冒険者たちがざわついた。
「カ、カイザーグリフォンだとっ」
「なんと命知らずな……」
「どうせ受付で断られるだろ」
カイザーグリフォンは凶悪なグリフォンを従えるボスだが、私たちなら対処できるだろう。
「そのクエ……にするのか?」
「はい。報酬が五十万リブラもあるので、露店にあったあの櫛も買ってあげられますよ!」
「おおっ、あのキラキラ小道具が買える!」
五十万リブラもあれば、当面の生活には困らないぞ。
受付のお姉さんにクエストの張り紙を渡すと、案の定苦い顔をされた。
「このクエストは上級者向けなのですが、その……大丈夫ですか」
「大丈夫です。前も植物の魔物を討伐した実績がありますから」
「はあ。しかしご注意なんですが、このクエストに失敗すると十万の違約金が発生します。それでもよろしいですか」
十万の違約金!?
「ヴェンよ、どうかしたのか?」
手持ちは八百リブラしかない。
クエストに失敗したら一気に債務者コースに転落だ……
「だ、大丈夫です」
「では、ここに署名をお願いします」
大見栄を切ってしまった手前、簡単には引き下がれない。
冒険者たちの嘲る声が後ろから聞こえた。




