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第15話 巨大な食虫植物の魔物

 巨大な熊のような影が飛び出してきた。


「魔獣か!?」


 獣らしき生物の身体は緑色の体毛で……体毛じゃない!?


「植物!? しかし、この身体はあまりにも……」


「巨体……!?」


 木のように大きな……草!?


 草は太い根をたこの足のように動かしている。


 節も巨木のように太くて……いや、それよりも芽の部分が……


「なんじゃ、この巨大な口のバケモノは!?」


 植物の魔物!? が巨大な口を開けて突進してきた。


「くっ」


 大柄な見た目に反して……速い!


「この魔物は食虫植物が魔物化してしまった者ではないのか!?」


「そうかもしれませんっ」


 全身をめぐる魔力を両手に集め、心の中で呪文を唱える。


 使役する魔法は――上級のウィンドブラスト!


「はっ」


 大柄な獣を吹き飛ばす突風を生じさせて、食虫植物の魔物を吹き飛ばした。


「平気か、ヴェン。わらわも支援した方がよいか?」


「大丈夫です。この程度であれば一人で対処できます」


 相手が魔物といえども、女神であるユミス様が直接手を下すことはできない。


 食虫植物の魔物は戻ってこないか。


 だが、背後からも茂みのこすれる音が聞こえる。


「ヴェン、後ろじゃ!」


 ユミス様の合図に従って左に跳ぶ。


 私とユミス様が留まっていた場所に別の魔物が現れて、その巨大な口でぱくりとくうを食らった。


「食虫植物が巨大化して人間や獣を食らうようになったのか!?」


 ウィンドブラストで魔物を吹き飛ばす。


 魔物は知能が低いせいか、魔法をもろに受ける。


 吹き飛ばすのは簡単だが、また背後から別の魔物が襲いかかってきた。


「さっき吹き飛ばしたやつか!」


 吹き飛ばすのが効果的でないのならば、


「真空の刃でお前の五体を斬り裂く!」


 エアスラッシュの呪文を唱えて真空の刃を発生させた。


 三本の剣が高速で飛来し、魔物の巨大な芽と節を斬り裂いた。


 もう一体の魔物もエアスラッシュで対処して戦いを無事に終わらせた。


「ヴェン、よくやった。お主も成長したのう」


「ありがとうございます。しかし、予想外に手間取りました」


「うむ。奇襲じゃったのじゃから仕方ない。それにしても、えげつない魔物よのう」


 絶命した魔物の口は大きい。


「人間の子どもくらいだったら一飲みにしてしまいそうですね」


「そうじゃのう。巨大な草は他所の地方にも生えているじゃろうが、このような者は珍しいじゃろうな」


「根を足のように動かしていましたから、こいつがこの周辺の獣を減らしている原因なのかもしれないですね」


 気を取り直して旅を再開させる。


「しかし、ユミス様。魔王が勇者によって倒されたというのに、魔物でない動植物が魔物化なんてするのですか?」


「うーむ。通常ならば、そのようなことはあり得ぬのじゃがのう」


 魔物でない動植物は魔王の力で魔物化する。


 魔王の強大な魔力が、人に大きな害をもたらさない動植物を魔物に変えてしまうわけだが……


「嫌な予感がする。よもや魔物化を助長している者が魔王以外にもいるのではあるまいな」


 動植物の魔物化を助長している者が他にいる?


 ――要するに俺らとこいつらは仲間だっつーわけだ。


「いや、そんなはずはないっ」


「ヴェン、どうかしたのか?」


「なんでもありません」


 しばらく歩くと森の出口が見えた。


 森を抜けた先にあったのは、村……じゃない。村の廃墟?


「ここは、人間たちがかつて暮らしていた場所であったのか?」


「そのようですね。今はもう放棄されてしまったようですが」


 だが、放棄されてからまだ年月があまり経っていないように見える。


 かつて道であった場所は雑草があまり生えておらず、倒壊した建物もそれほど汚されていないようだ。


 だが……


「人間の建物がすべて壊されてるのう」


「はい。まるで大きな口で屋根や建物の上部だけを抉り取ったように見えます」


 ユミス様もきっと私と同じことを考えているはず。


「先ほどの魔物の仕業かの?」


「さっき戦った場所からさほど離れていないことも考えると、その可能性は高いと思われます」


 倒壊した家々の影から、のそりと動く者がいる。


 小屋なら一飲みにしてしまいそうな口を広げて、私とユミス様をすぐに察知する。


「ヴェンよ、支援が欲しければすぐに言うのじゃ」


「はい。では魔力を一時的に高めるバフをかけてください」


 巨大な食虫植物の魔物たちが高速で迫ってくる。


 五体も同時に出現したら単独で対処するのは難しいが、ユミス様の加護があれば楽勝だ!


「食らえっ、エアスラッシュ!」


 私の両手からニ十本近くの真空の刃が飛び出す。


 刃はつばめのように飛来して魔物たちを八つ裂きにした。


「他にもおるようかの」


 背後から現れた魔物をウィンドブラストで吹き飛ばし、エアスラッシュで起き上がれないように身体を引き裂いた。


「うむ。見事じゃ、ヴェン」


「ありがとうございます。しかし、困りましたね。この者たちの弱点はおそらく火。風の魔法で対処するのは効果的とは言えません」


 植物は炎に弱い。


 魔物であっても例外はほとんどないが、私もユミス様も火の魔法は使えない。


「それは仕方なかろう。わらわは自然を燃やす炎を扱えんし、そなたも火の魔法はひとつも習得しておらんからの。エアスラッシュを軸にして対処するしかあるま――」


 どこかで物がぶつかる音がしたぞ。


「生き残りがまだおるのか!?」


 遠くの小屋から音がしたようだ。


 あの魔物がまだいるのかと思ったが、ちらりと見かけた影はそれほど大きくない。


 細い身体と、私と同じくらいの背丈。


「だれだっ、そこにいるのは!」


 小屋に潜んでいた人間が一目散に逃げ出した。


「追うぞ、ヴェン!」


「はいっ」


 魔物どもを使役していた者ではあるまいな!?


 森へと入っていく者は旅人のように外套をはおっていた。


 弓矢を背負い、あまり速くない足で必死に逃げているようだが……


「うわぁ!」


 食虫植物の魔物が横から現れた!


「ヴェン!」


「わかってますっ」


 唱えやすい初級のエアスラッシュで魔物を牽制する。


 ユミス様が唱えてくれたバフで足を速くして、距離を一気に詰める!


「吹っ飛べ!」


 両手で魔物に触れるのと同時に呪文を唱え、突風で魔物を森の彼方へ吹き飛ばした。


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