第136話 ディートリヒをたおせ!
ディートリヒが守る国境の関所でまた戦闘がはじまった。
「進めっ。今日こそこの国境を越えるのだ!」
王国軍の士気は高い。
「ディートリヒを殺せ!」
「仲間を殺した連中を決して許すな!」
敵はまた巨大な魔物を多数引き連れて応戦している。
上空を飛翔する黒い軍団は鷲の魔物か。
「ぐほほほほ。お主らがバカの一つ覚えのように群がってくるのは予測しておったわ。ザコが何匹群れたところで無駄じゃ!」
異国風幼女のカルタも長い黒髪をなびかせて、魔物たちの真ん中であざ笑っていた。
「あやつめ。今日もまたあんなところで性懲りもなく悪戯しておるわ」
ユミス様が私のとなりで顔をしかめている。
「ユミス様。カルタが魔物を操っていると考えてお間違いないでしょうか?」
「うむ。勇者は闇落ちしたと言えどもただの人間。奴に魔物を支配する力は備わっておらぬ。あの魔物どもはカルタがわざわざ呼び寄せた者たちであろう」
鷲の魔物たちが上空から襲いかかってくる。
足の太い爪を向けて地上の兵たちを踏みつぶしている。
「ヴェン、まずいよ。敵の攻撃で前線が乱れてるっ」
「わたしたちも加勢しなきゃ!」
加勢したいが、私たちはディートリヒの撃破に専念しなければならない。
「ユミス様。あの魔物たちはカルタを倒せば戦場から退いていきますか」
「もちろんじゃ。奴が魔物たちの司令じゃからな。奴を消せば皆いなくなるぞ」
「それでは今日もカルタの相手をお願いします」
ユミス様が「やれやれと」つぶやきながら、白い翼を広げてカルタの下へ向かっていった。
「魔物とカルタの対応はユミス様にまかせて、私たちは先に進もう」
上空でまたユミス様とカルタの戦いが開始される。
戦場で暴れまわっていた魔物たちの統率が乱れはじめた。
「魔物の動きが少し鈍くなったかもっ」
「ユミちゃん、やるぅ!」
魔物たちの相手は兵にまかせて関所へと進んでいく。
頑強なレンガが高く積み上げられた城壁が街道を阻んでいる。
「あそこにディートリヒがいるはず」
城壁の塔に黒十字団の旗と思わしきものがはためいている。
漆黒の旗の近くを飛ぶ黒い影があった。
鷲の魔物があんな遠くに残っていたのか?
いや、違うっ。
黒いマントをはためかせているのはディートリヒだっ。
「くるぞ!」
飛来してきたディートリヒが上空で黄金の剣を振るった。
「しねぇ!」
岩盤のような闇の波動が地面を覆うように襲いかかってくるっ。
強大な力がまた地面とともに兵を押しつぶし、細かい砂の粒子をまき散らした。
「下がれ! 無理に奴と戦おうとするなっ」
逃げまどう兵たちを押しのけて私たちが奴の前に出た。
「ち、やっぱり出たね。愚かな国の軍属に成り下がった者どもが」
「黙れっ。下らない邪神にそそのかされたお前を私は許さない。今日こそ捕まえさせてもらうぞ!」
「できるかな。きみたちに」
ディートリヒが闇の刃を飛ばしてくる。
鋭い剣のような闇の魔法を食らったら手足を簡単に斬り落とされるぞ。
「ヴェン!」
「頼んだよっ」
だが、私たちだって何も考えずにここまで歩いてきた訳じゃない。
ユミス様から教わったマジックプリズンの魔法を唱えた。
「はははは!」
ディートリヒは高速で動きまわっている。
アルマとマルが奴を引きつけてくれている。
――ここだ!
両手を向けて私は魔法を放った。
空中にいる奴の頭の上と足もとに光の大きな円が出現する。
円は互いの円に向かって光の線を伸ばし、光の監獄を形成する。
「なんだこれは!?」
マジックプリズンが成功したか。
監獄はやがて消失し、奴も元の状態に戻った。
「作戦は成功した! アルマ、マルっ、そいつを徹底的に叩きのめせ!」
私の号令に従って二人がディートリヒに反撃する。
「ザコどもがっ、姑息な手を……」
ディートリヒが後退して魔法を唱えようとしたが、
「ぐわっ!」
光の監獄が瞬時に現れて奴の四肢を強烈に縛り上げた。
「隙ありだよ!」
マルが炎の拳を突き出す。
ディートリヒはあごを砕かれて後方へ吹き飛ばされた。
「悪に成り下がったあなたをここで成敗いたします!」
続けてアルマが襲いかかる。
妖精銀のランスを突き出して、とっさに防御した奴をまた後ろへ吹き飛ばした。
「くそっ、魔法封じかっ」
砂塵が舞う戦場でディートリヒが立ち上がる。
マジックプリズンを解除するつもりだろうが、そうはさせないぞ!
エアスラッシュを連続で唱えて奴を妨害した。
「闇の魔法を封じてお前は弱体化した。年貢の納め時だっ」
氷の魔法を続けて唱える。
奴の上空に巨大な岩のような氷を出現させて、奴に落とした。
「くっ!」
完全に捉えたと思ったが、かわされたか。
「あなた、そんな魔法も使えるの!?」
「すごい!」
ユミス様のスパルタ教育に耐え続けた結果だ。
「魔法封じとは油断したよ。僕の対策をしっかり施してくるとはね」
「私はお前と違って相手を見くびらない。どのような敵に対しても万全を期して戦う。かつて魔王を倒した相手ならばなおさらだ」
私の魔法はディートリヒに通用している。
落ちこぼれの私でも大きな戦果を上げることができるんだ!
むくりと起き上がったディートリヒは悔しそうにしているが、その表情にはまだ余裕がうかがえる。
「確かに魔法を封じられれば弱体化は避けられない。だが、僕を魔法だけの男だと思うなよ!」
奴が剣をかかげてまっすぐ突撃してきたっ。
「ヴェンツェル!」
「ちょっと!」
近接攻撃で私を斬り殺す気か!
「くっ!」
霊木の杖で奴の攻撃を防ぐ。
だが、猛烈に斬り上げる攻撃を受けて、メネス様からいただいた杖が宙を舞った。




