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第135話 強力な闇の魔法をくずせ

「盛り上がってるところ申し訳ないが、作戦会議に戻させてもらうぞ」


 次の戦いでディートリヒを止める作戦がまだまとまっていない。


「おっと、そうだったね。ごめんよ」


「作戦会議はやった方がいいのかもしれないけど、わたしは何も思いつかないよ」


 アルマはどちらかというと脳筋……じゃなくて頭を動かすのが苦手か。


「あたしも。ごちゃごちゃ考えるより、どっちかっていうと感覚派だからさ!」


 いや、マルのそれは感覚派とかじゃなくて何も考えてないだけだから。


「わらわはいちいち申すまでもないが、作戦などわざわざ考えぬぞ」


「そうでしたね、はい」


 要するに私がひとりで作戦を考えないといけない訳か。


「ディートリヒとの戦いで厄介なのは、強烈な闇の魔法だ。あの攻撃ですぐに隊列を崩されると作戦どころじゃなくなってしまう」


「そうだよね。どうすればいいんだろう」


「あんな攻撃、私の魔法じゃ跳ね返せないし、アルマの防御も限界があるからなぁ」


 奴にあの強大な力を使わせないように仕向けられればいいんだが……


「ふむ。それならば奴の魔法を封じればよいのではないか?」


 ユミス様の口から意外な言葉が漏れた。


「奴の魔法を封じる? そんなことができるんですか?」


「できるじゃろ。マジックプリズンを使えば」


 マジックプリズン! そんな魔法があるのかっ。


「その魔法を使えば奴の魔法を封じられるんですか!?」


「もちろんじゃ。あれは光の魔法じゃったから、ヴェンにはまだ教えてなかったか」


「その魔法、私に教えてください!」


「ほほ。ヴェンは相変わらず勉強熱心よの」


 奴の魔法を無力化すれば勝算がかなり見えてくるぞ!


「じゃがマジックプリズンは万能ではない。奴がもし対策を施しておったらヴェンの目論見はまんまと外れてしまうぞ」


 なんですと!?


「魔法封じの対策なんてできるんですかっ」


「人間界では一般的ではないが、向こうにはカルタがおるからの。奴の知恵がはたらけば、そのような狡いことも考えよう」


 向こうにも神がついてるんだった……


「あの可愛い服を着た子でしょ」


「ユミス様みたいに可愛い女の子だけど、すごく怖いんだよね」


 怖いかどうかはよくわからないが、とても厄介な存在ではある。


「あんな女、ちっとも可愛くないわ! うだうだ文句を言う割にはわらわをちゃっかり真似して子どもの姿になりおって……ほんと嫌いじゃ」


 まさに犬猿の仲といったところか。


「ユミス様。話を戻しますが、もしマジックプリズンがディートリヒに利かなかった場合、どのように立ちまわればよいでしょう」


「そうじゃのう。わらわならマジックシールドで防御を固めるかのう。アクアガードは炎や物理攻撃には効果があるが、闇の魔法は防げぬからのう」


 マジックシールドも光の魔法だったっけ?


「マジックシールドも教えてもらえますか?」


「ええーっ、どうしよっかなー。ヴェンは最近わらわに冷たいし、プレゼントもあんまりもらってないしー」


 真剣な話をしてるのに、ここぞとばかりに駄々をこねてきやがった。


「冷たくなんてしてないでしょ。人聞きの悪い」


「そうかのう。出会った頃のわらわとヴェンの距離はもっと近かったと思うがのう」


 大して変わってないと思うけどな。


「わかりましたよ。この戦いが終わったら好きなものをなんでも買いますから」


「交渉成立じゃな。新たな楽しみがひとつ増えたわ」


 マジックプリズンによる魔法封じと、マジックシールドの防御効果を軸に作戦を立ててみよう。


「前に伝えた隊列で戦う。アルマが前列で盾を構えてディートリヒの攻撃を受け止める。マルが攻撃の中心。私はふたりのサポートにまわる」


「うんっ」


「あいつをぶん殴ってやればいいんだねっ。まかせといて!」


「マジックプリズンが利けば勝利は目前だ。ふたりで一気に攻めて勝負を決めてしまえばいい」


「マジックプリズンが利かなかった場合は、どうするの?」


 当然、その想定をしておくべきだ。


「その場合はマジックシールドで奴の攻撃を防ぐことになるだろうから、アルマの負担が増えることになると思う」


「わたしが一生懸命がんばればいいんだよねっ」


「そうなんだが、もちろんアルマひとりに負担させる訳にはいかない。マジックシールドでしっかり援護するし、私とマルですぐに勝負をつけるようにはたらきかけるから安心してくれ」


 この戦いでアルマを失う訳にはいかない。


「うんっ。わかった」


「あたしの拳があるから大丈夫だよ! あんなやつにアルマを傷つけさせないよ」


「うん。ありがとう」


 大まかな作戦はこれで決まったか。


「戦術の細かい部分は後で確認するから、次の戦いがはじまるまでゆっくり休んでくれ」



  * * *



 その後、私は猛特訓の末にマジックプリズンとマジックシールドの魔法を習得した。


 ユミス様の特訓は相変わらずスパルタだったけど、しっかりと教えてもらえるのがとてもありがたい。


 マルとアルマにそれぞれ細かい調整を施して、戦いのときが訪れた。


「皆の者、集まったかっ。今日こそディートリヒに裁きを下すとき! 猛るのだ。全身の力を漲らせるのだっ。勝利はもうすぐそこにある!」


 砦の前の広い大地にテレザさんの壮烈な声が響く。


「ディートリヒを殺すぞ!」


「奴らを壊滅させてメトラッハに凱旋するんだ!」


 集められた兵の士気も高い。


「奴らを倒し、胸を張って都に凱旋するのだっ。次の勇者はお前たちだ!」


 テレザさん、演説うまいなぁ。


 ディートリヒに恐怖していた兵もいたはずなのに、絶対勝利の機運をつくり上げてしまった。


「テレザさん、すごいです!」


「あたしも人前で踊ってたけど、ああいう演説はちょっとやったことないかなぁ」


 マルとアルマもテレザさんの演説に感心しきりだ。


「そのようなことはない。戦いがはじまってしまえば、我々など雑兵に等しい。この戦いの鍵はきみたちがにぎってるんだぞ」


 ディートリヒと戦う大任を騎士団から直々に任命された。


「はい」


「他の魔物や黒十字団の連中ならまかせておけ。ディートリヒと近くにいた女の子のような敵はきみたちでしか太刀打ちできない。難しいだろうが、必ず成し遂げてくれ!」


 元四十二歳の三流冒険者にまかされる役ではないが。


「おまかせください」


 短く、それだけ伝えた。


 テレザさんがその美しい顔立ちを少しだけゆるめて、整列する兵に向き直った。


「目指すは国境近くに張っている黒十字団の本陣のみっ。出発!」


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