第127話 堕落の神カルタ出現
邪神!
ペルクナスと同等の力をもつ者がこの地に降臨してしまったのか!?
「あやつは堕落の神カルタじゃ。わらわと同じくマイナーな奴じゃが、人間をたぶらかす不埒者じゃ」
カルタという異国風の幼女が艶のある黒髪をなびかせている。
宙に浮きながら紅い目で辺りを見まわして、そっと嘆息した。
「今日こそやっと人間どもを倒せると思っておったのに。これだけ強い魔物を呼び寄せても制圧できぬのか?」
魔物を使役していた正体が自ら姿を現したか。
「ひさしぶりじゃの。カルタよ」
カルタという幼女がユミス様を見下ろして表情を一変させた。
「あー! あんたはユミスっ。なんであんたがこんなところにいるんじゃ!?」
「それはこちらのセリフじゃ。なぜ邪神のお主が人間たちの戦いに紛れ込んでおるか」
「こっちが先に聞いてるんじゃろうがっ!」
カルタが上空から黒い力を放ってきた。
急いで後退したが、ユミス様が光の魔法で攻撃を弾いてくれた。
「神が無闇に攻撃するなと言うておろう」
「けっ。人間を攻撃するなって、それはあんたらが勝手に決めただっせえルールだろうが。わしらには関係ねえっての!」
あのカルタという邪神はユミス様に劣らない美少女なのだが……言葉がけっこう汚いな。
「言うことを聞かぬのも相変わらずじゃな」
「なんかおかしいなって思ってたら、あんたがわしの邪魔をしておったんじゃな。ほんとうっとい。なんなのあんた。マジで消えてほしいんだけど」
あの邪神はユミス様とどことなく雰囲気が似てるけど、仲はかなり悪いんだな。
「ちょうどよい。ここで会ったが千年目。大嫌いなお主とここで決着をつけるぞよ」
「望むところじゃ!」
カルタがまた闇の魔法を放ってくる。
ユミス様が光の防壁で防いで無数の光の矢を放つ。
「こんなもの!」
カルタが身をひるがえして矢をかわした。
「相変わらず、嫌な奴っ」
「それはお主も同じじゃろう。人間や魔物に魔法を放つなと再三に渡って言うておろう!」
ペルクナスのような邪悪さを恐れていたが、あのふたりはもしかして互角?
「ユミス様!」
「安心せい。あやつはわらわと同じくマイナーな奴じゃ。ペルクナスほど強くはない」
「うっさい! わしはどうせペルクナス兄様には勝てないわよっ」
ユミス様に劣らず騒がしい神様だな。
「人間の勇者どもに魔物をおびき寄せたのはお主らじゃろう。なぜ、下らん擾乱を招き寄せるようなことをしたか」
「ふ、下らん擾乱じゃと? バカなことをしてるのはあんたじゃろう。わしらは邪神。闇の力を生む混沌を好んで何が悪い?」
邪神たちが此度の混乱を生み出したというのか!?
あのカルタという神は堕落の神――
「まさか、ディートリヒを悪の道に誘ったのはお前なのか!?」
カルタが上空から私を見やって薄く笑った。
「ディートリヒはわしが堕落させてやった」
そんな、やはり……
「そなたはペルクナスの陰で遊んでおっただけじゃろ。ここぞとばかりに嘘八百を抜かすでない」
「きー! あんたさっきからなんなのよっ。うっさいことピーピー言いやがって。だからあんた嫌いなのよ!」
なんか、ペルクナスと違って緊張感に欠ける邪神だな……
「ふんだ。兄様に言いつけてこの辺一気に全滅してもらうもんね。わしを怒らせた罰じゃ!」
カルタがまた闇の力を発する。
「何をする気じゃ!」
闇の力が雨のように八方へと降り注ぎ、戦場で戦う人間や魔物たちに落下する。
「ぎ、ぎき……」
「ぐぎゃあぁぁ!」
何が起きてるんだ!?
奴が放った力を魔物が取り込んで、人間たちは悶え苦しんでいる!?
「ぐっほっほっほ。もうめんどくせえから、その辺の奴らを闇の力で侵食してやったわ。魔物はばっちり強化されて、人間どもは理性を失って暴れ出す。阿鼻叫喚のショータイムの開始じゃ!」
なんて酷いことを……
「お主はいいから消え失せるのじゃ!」
ユミス様が強大な魔力を使って放ったのは、神級のトルネード!?
塔のような竜巻が瞬時に発生して――
「ぎゃあああ!」
カルタが超大な渦に呑まれて――
「私もいるんで――」
私も例外なく吹き飛ばされた。
戦場のはるか彼方に弾き飛ばされて、背中を旗のようなものに打ちつけた。
「なな、な……なんだ!?」
鉄の棒のようなものが音を立てて地面にくずれ落ちる。
私は大きな布に包まれて身動きができなくなった。
「ユミス様……いきなり無茶しないでくれよ」
旗のようなぶ厚い布がクッションになってくれたようだ。
背中と腰の痛みを感じながら、覆い被さっている布をどかした。
「なんなんだ、いったい……」
近くでおっさんたちの悲鳴が聞こえる。
この戦場に来て初めて聞いた人たちの声のような気がするが、誰の声だったか。
私の足下でぶるぶると震えていたのは……騎士団長?
鼻の下にナイスなひげを生やしたこの人は……なんて名前だったっけ。
「なな、なんだ!? なぜ、あんなところに突然、竜巻が発生したんだっ」
うちのマイナー女神がやらかしまして……とは言わないでおこう。
「天が我らを救うために天変地異を発生させたのでは?」
「我らのために、天が力を貸してくださったというのか?」
「よくわかりませんが、そのように捉えればよいかと」
騎士団長を放って戦場へと戻る。
「ヴェンよ、こんなところにおったか」
遠くから呑気に飛んできたのは天変地異を発生させた張本人だ。
「こんなところにおったか、じゃないですよ。突然、あんな力を使わないでください。巻き込まれたんですよ」
「そうであったか。すまぬの。奴にどうしても罰を与えたくて、つい力を使ってしもた」
邪神カルタは神級の竜巻をもろに受けてたけど。
「あの騒がしい邪神は仕留めたんですか?」
「いや、遠くへ退場させただけじゃ。奴も大して強くない神とはいえ、あの程度で死ぬ者ではない」
私にとってはペルクナスと大差ない厄災だったけれども。
「とりあえず厄介な奴が去ったと思っていいですね?」
「うむ。じゃが戦いはこれで終わらん。奴が面倒な置き土産を残していきおったからの」
面倒な置き土産だと?




