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第124話 黒十字団討伐の高難度クエスト

「黒十字団のもっと難易度が高いクエですか……あるにはありますけど」


「やっぱりあるんですね! でしたら、そのクエを紹介してください」


 身を乗り出す勢いで頼むが、受付の女性二名はあからさまに嫌そうだ。


「その……一般の方にはお出しできない決まりでして」


「一般? どういう意味? 一般の他に貴族とかの区別があるの?」


 受付で門前払いされるのなんて予測の範囲内だ。


 向こうから「無理なんだから空気読んでさっさと帰れよ」と言いたげなオーラが発せられているが、この程度でめげる私ではない。


「あの、レベルの高いクエは名のある冒険者でないと渡せないんです。掲示板にもたくさんのクエを貼り出していますから、あの中からどうかお探しいただけないでしょうか」


「掲示板に貼ってあるクエは簡単で報酬も高くないから、微妙なんだよなぁ」


 カウンターの前でごねてみるが、当然ながら状況は変わらない訳で。


「ヴェンツェル、もう止しなよ」


 アルマはお人よしだから受付の女性に迷惑をかけられないか。


 ユミス様は……いないな。


「ヴェンさ、神殿でフリーゼさんからなんかもらったんじゃなかったっけ?」


 マルが見かねたようにアドバイスしてくれたが、


「フリーゼさんから……あ、そうだ」


 こんなときのためにフリーゼさんのお近づきの印をもらったんじゃないか。


 黄金のチェーンでつながれた純金のペンダント。


 表には太陽大神殿とヴァリマテ様を表す絵柄が、裏にはフリーゼさんの署名がしっかりと刻まれている。


「これで私たちの身分が証明できるかな」


 受付の女性たちも金のペンダントに言葉を失っていた。


 私からペンダントをおそるおそる受け取り、ただただ肩を振るわせているだけだった。


「あなたがたで対応できないのなら、偉い方を連れてきてもらえるかな?」


「は、はいっ。今すぐに!」


 ムキになって驚かせ過ぎちゃったか。


「マル、サンキュー。助かったよ」


「別に。さっさと終わらせてほしかったからさ」


 さばさばしたマルは褒めても塩対応か。


 それにしても、マルがどうしてこのペンダントのことを知ってるんだ?


「フリーゼさんからこのペンダントをもらったって、マルに話したっけ?」


 するとマルが「ええっ!?」と目を飛び出しそうになるくらい驚いた。


「べべ、べ、べつにっ、いいんじゃない!?」


「いいんじゃないって、明らかに動揺するなよ」


「どど、動揺なんか、してないじゃんねぇ!」


 マルが声を激しく裏返らせて、近くにいたアルマの肩を抱く。


「う、うん」


「アルマだって、知ってたよねぇ?」


「さっきのペンダントのこと? ううん、知らなかったけど」


 ほら、やっぱり知らないじゃないか。


「お前、なんか怪しいぞ」


「怪しくなんてありませんよ? おほほほほ!」


 カウンターの前で間抜けなやり取りをしていると受付から声がかかった。


「ヴェンツェル様っ、先ほどは大変失礼いたしました! べべ、別室をご用意いたしましたので、そちらに案内いたしますっ」



  * * *



 フリーゼさんの影響力は絶大だ。


 この街でまだなんの功績も上げていないのに、四階のVIP席っぽい部屋に案内されてしまうなんて。


「なんか、すごいところに通されちゃったねぇ」


 マルが高級な椅子に慣れずにそわそわしている。


「さすが光の大神官で元勇者パーティのメンバーだな。さっそくあの人の力にあやかってしまった」


「いいんじゃない? そこは気にしないで。こういうことを見越して、そのペンダントを渡してくれたんでしょ?」


「そうなんだけどさ」


 私がまた疑いの目を向けると、マルがさっと顔を背けた。


「アルマは落ち着いてるな」


「あ……うん。うちとそんなに変わらないなぁって」


「うちと……そんなに変わらない?」


 マルがアルマの言葉に反応した。


「どういうこと? アルマのうちってこんなに豪華なの!?」


「う、うん。その、うちは貴族だから――」


「おいでになったようだぜ。雑談は大事な打ち合わせが終わってからだ」


 どたどたと廊下から足音が響いて、部屋のぶ厚い扉が押し上げられた。


「待たせたな。大神官フリーゼの使いとやら」


 現れたのは黒髪をオールバックにした男性だ。


 漆黒のチュニックの上に黄色のマントを羽織り、位の高さをうかがわせる容姿だ。


「初めまして。私は冒険者のヴェンツェルといいます。本日は予約もせずに訪問してしまい、申し訳ありません」


 黒髪オールバックの男性は向かいの席に着くなり、私たちをぎろりと睨みつけて、


「まったくだ。こちらの都合も考えずにギルドへ押しかけてくるとは。無礼にも程がある」


 私たちに対してかなりご立腹のようだ。


「私たちは元々、フェルドベルクの外で活動していた身ですから、こちらの規則や流儀を知らないのです。多少の無礼は許していただきたい」


「我が国の縁の人間ではないのに、フリーゼの縁者だというのか? でたらめを申すな」


 このオールバックのおっさん、なかなか抜け目がない。


「そんなことは別にどうでもいい。フリーゼの使いで黒十字団絡みの高難度クエを所望するということは、どんなにつらい戦場に連れていかれても決して文句を言わないと思っていいんだな?」


 おっさんの厳しい目が私たちを鋭く威嚇する。


「はい。それで構いません」


「解せぬな。フリーゼの知己だというのに、どうしてそんなに生き急ぐ? 掲示板に貼ってあるクエをこなすだけでも充分に生活できよう」


 この人の目を欺くことはできない。


「私はディートリヒに会いたいんです」


「ディートリヒに、だと? 奴に会って何をするつもりだ」


「この手で、奴を殺す」


 二十人は優に入れるだろう部屋に沈黙が訪れる。


「奴は勇者でありながら道を踏み外した極悪人。そんな人間を許す訳にはいかない。奴を倒してフェルドベルクを平和に導きたいんです」


 真の目的はウシンシュ様の捜索だが、それを言っても信じてもらえないだろう。


「お前は正気か? 奴は王宮ですら手を焼く最強の戦士なんだぞ。そんな男をお前が殺せるのか?」


「自信ならばそれなりにあります。私たちは隣国のバルゲホルムでそれなりに功績を残しました。疑うのならばグーデンのギルドに問い合わせてください」


 オールバックのおっさんがまた私たちをみさだめてくる。


 目つきは相変わらず厳しいが、先ほどの威嚇しか感じなかった睨み方とは異なっているように感じた。


「お前たちが殺されたとしても骨は拾ってやらんぞ」


「構いません。私たちは自力で戦い抜きます」


 おっさんが視線をわずかに外して深いため息をついた。


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