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第123話 ディートリヒはどこにいる?

 陽がのぼり、神官たちに見送られながら太陽大神殿を後にした。


「ふぁ~、昨日はよく寝たのう」


 メトラッハへと向かう帰り道。


 ユミス様は小鳥の姿で私の頭に乗っかっている。


「いい気なもんですね。昨日はいきなり花になって寝だしたから驚きましたよ」


「よいではないか。あそこはわらわを襲う魔物がおらんからの。あの姿がもっとも寝やすいのじゃ」


「変化した瞬間に寝るって、どれだけ眠かったんですか。アルマなんか、わざわざ花瓶まで探してたんですよ」


 アルマのはたらきを暗に褒めたが、彼女の反応は当然、


「そんな! ぜんぜん、大したことじゃないからっ」


 きみは貴族の娘なんだから、もっと偉そうにしてていいんだけどな。


「そうじゃぞ。大したことではないのじゃから、ヴェンはいちいち気にしすぎじゃぞ」


「お前が言うな」


 頭の上のユミス様を叩いてみたが、案の定逃げられてしまった。


「おほほ。ヴェンがまた生意気になってきたのう!」


「くそ、いつか必ず屈服させてやる」


 この人……じゃなくてこの神様はフリーゼさんが羨むような存在なのだろうか。


「ユミス様、あんまり遠くに行っちゃダメですよー」


 今も子どものように自由気ままでアルマに心配されてるし。


「ユミス様ってほんとにすごい人なのかね。私も疑問に思っちゃうよ」


 私のとなりで黙々と歩くマルに話しかけてみたが、


「え……あっ、何が?」


 今日はマルの反応もいまいちだった。


「どうした? 珍しい。考え事?」


「え……あ、ええと、そういうんじゃ……ないけど」


 あなたもわかりやすいな。


「気になってることがあるんだったら聞くけど。ディートリヒのこと?」


「えっと……いやっ」


「じゃあ、フリーゼさんが気になるとか?」


 マルが押し黙ってしまった。


 マルが気にしているのはディートリヒでもフリーゼさんでもなさそうだが。


「よくわかんないが、相談したくなったら言ってくれ。あんまり悩まれても困るし」


「うん。ごめんね」


 遠くの空で小鳥のユミス様がカラスに食べられそうになっていた。



  * * *



 メトラッハに到着して、また考える。


「ディートリヒの情報を得て、次はどうするか」


 奴は黒十字団のギルマスだ。


 しかし、奴の詳細な居場所はわからない。


「なんじゃ。ヴェンはまたうじうじと考えておるのか?」


 能天気女神様がまた私にまとわりついてきた。


「失礼ですね。今後の活動方針についてよく吟味していると言ってほしいですね」


「放心じゃかなんじゃかようわからぬが、悪人になった勇者をさっさと倒しにいけばよかろう」


 まったく、どいつもこいつも簡単に言ってくれやがって。


「勇者様……今はもう勇者様じゃないんだよね。ディートリヒを倒しに行くんだったら、前みたいに黒十字団のアジトを探せばいいのかなぁ」


 アルマがぽつりとつぶやく。


「アルマってば、前に黒十字団のアジトを潰したことがあるの?」


「うん。ヴェンツェルとユミス様の三人でやっつけたんだけどね。鳥に変化させてもらって、三人で敵のアジトを探したんだよ」


「うっそ。何それ!? そんなすごい技があるんだったら敵のアジトを探すのなんて簡単じゃん」


 女子三名が私を抜いて騒いでいる。


「ほほ。またわらわの力に頼りたいと申すのか?」


「うん。ユミちゃん、お願い!」


「ユミス様の力があれば、どんな場所だって探し出せるよ!」


 果たしてそうだろうか。


「あれ。ヴェンだけはつれない感じ?」


「落ち着けって。ユミス様の変化だって万能じゃないんだ。無策で捜索したって無駄に時間がかかるだけだぞ」


「なんじゃ。ヴェンはわらわの力に限界があると申すのか?」


 そういうことを言いたい訳ではないのだが。


「フェルドベルクの端から一人の人間を探していくのは効率が良くないということです。もっと効率よく探せる方法があるはず」


「そんな方法、あるのかなぁ」


「でもヴェンの言うことも一理あるかも」


 黒十字団が世を騒がすギルドであるのならば、そこかしこで情報は得られるはず。


「とりあえず冒険者ギルドに向かってみるか」


「冒険者ギルド?」


「王国が黒十字団と戦っているのなら、冒険者ギルドにも黒十字団の討伐に関するクエがいくつも発注されているはずだ。それを眺めてからでも遅くはない」


 我ながら論理的な答えを導き出せた。


「じゃあ、ギルドに行くか――」


 あれ。女子三名が今度は浮かない顔をしている。


「ヴェンが、わらわに、頼ってくれぬとは……」


「冒険者ギルドにクエなんてあるのかなぁ」


「よくわかんないけど、とりあえず行ってみる?」


 女子の考えはよくわからない……



  * * *



 女子たちの厳しめな視線を背中に受けながら、街の中央部にある冒険者ギルドの扉を叩いた。


 以前にもディートリヒの手がかりを得るために訪れたことがあるが、この街のギルドハウスはかなり大きい。


 たくさんのクエを貼り付けた掲示板を眺めるだけでも有益な情報を得られる。


「どれどれ。このクエはどんな内容だ……って黒十字団の討伐クエじゃないか!」


 ギルドハウスに入って即行で見つけてしまった。


「このクエは村の付近で暴れる黒十字団の一味を討伐するクエだな。この前やったクエと同じ感じか」


「ヴェンツェル、何か見つかったの?」


「アルマ、見ろよ。この前やったクエとおんなじようなクエがあるぞ」


 アルマにクエを見せると彼女も驚いていた。


「ヴェンよ、ではそのクエをわらわたちが引き受けるのか?」


「いえ。村の救助も気になりますが、他のクエを探してみましょう。私たちの目的はディートリヒを探すことですから」


 ユミス様も難しい顔をされていたが、どうやら納得してくれたようだ。


 もっと規模の大きいクエはないか。


 掲示板に貼ってあるのは山村や農場に関するクエや、積荷の運搬といった護衛絡みのクエがほとんどだ。


「それで、これからどうするの?」


 マルがめんどくさそうにため息をついている。


「もっと大きなクエを受けたいからカウンターで聞いてみよう」


「カウンターにいけば、もっといい情報がもらえるの?」


「そう。掲示板に貼ってあるクエは誰でもこなせる簡単なものが多いんだ。もっと難しくて報酬の高いクエはカウンターの奥にある」


 受付の女性に挨拶して高難度クエがあるか聞いてみよう。


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