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第119話 フリーゼにどうやって会う?

 太陽大神殿は多くの訪問客が足を運ぶ場所なだけあって、施設の整備が行き届いていた。


 石床には雑草が一本も生えていないし、石柱もしっかりと磨かれている。


 施設の真ん中に鎮座している大きな祭殿の周りは池まであって、小さな魚や水鳥が優雅に泳いでいた。


「ユミちゃん。単純な疑問なんだけど、なんでここって『太陽大神殿』って言うの?」


 ユミス様を肩車しているマルが祭殿を眺めながら言う。


「藪から棒じゃな。太陽が父上のシンボルじゃからに決まっておろう」


「へぇ、そうなんだ! じゃあ、ユミちゃんもそういうのあるの?」


「わらわのシンボルのことか? もちろんあるぞ。白いユリの花がわらわのシンボルじゃ」


 ユリの花弁はいろんな色があるが、純白に近いほどユミス様は喜ぶ……という設定だったかな。


「ユミちゃんはお花の化身なんだね」


「わらわは花から生まれ変わった訳ではないがの。ユリを部屋で生けてくれてもいいし、ユリのかたちの飾りを身に付けるだけでもわらわは助かるぞ」


 私が普段から身に付けているユリのアミュレットはずいぶん古くなってしまった。


「じゃあさ、他の神様もシンボルとかあるの!?」


「もちろんじゃ。母上は大地と農耕の神じゃから大地そのものか農具がシンボルになるのう。ウセクルスの兄様は海の神じゃから舟とかくじらがよくシンボルになるのう」


「みんな、それぞれの特徴にちなんだシンボルがあるんだ!」


「そうじゃな。神はほとんど人間の前に姿を現さぬから、そういうわかりやすいシンボルがあると信仰しやすいのじゃが……マルはなんも知らんようじゃのう」


「はは。今まで神様とかろくに調べずに生きてきたからね。踊りの神様もいたような気がするけど、忘れちゃった」


 そろそろ光の神官フリーゼを探してみよう。


 ユミス様の先ほどの話から推察すると本殿にいる可能性が高い。


 だが本殿に訪問客が立ち入ることはできない。


「光の神官フリーゼをどうやって探そう」


「とりあえず神官様に聞いてみるとか?」


 白いローブで身を包んだ女性の神官がいる。


 お仕事中だが話しかけてみよう。


「すみません。光の神官フリーゼ様にお会いしたいのですが、こちらにいらっしゃいますか?」


「お悩みのご相談ですか? それでしたらご予約が必要になりますが」


 お悩みの相談?


 予約すればフリーゼと話をすることができるのか!?


「予約はしてないのですが、フリーゼ様と会話することができますか?」


「はい。当神殿では訪問されるお客様の人生相談なども受け付けております。費用はかかってしまいますが、お住まいの村や街では相談できないことも多いですから、遠方から来られる方も多いんですよ」


 すごいな、太陽大神殿。


 マルやアルマも目をまるくしている。


「大神官フリーゼ様は大人気ですので、ご予約はだいぶ先になってしまうと思いますが、よければあちらの受付で詳しくお聞きください」


 フリーゼの面会が現実的になってきたぞ!


「どんな人でも神官様に相談できるって、すごいね!」


「だから、ここに来る人が多いんだね~」


 ユミス様が「うむむ」とマルの上で考え込まれている。


「信徒に人生相談とは……父上め、考えおったな」


「ユミス様のお父様はやっぱり偉大ですね」


「むふふ。これはいいことを聞いたのじゃ。ならば、わらわも信徒の人生相談を受け付けるのじゃ!」


 何を真剣に考えてたのかと思えば、浅はかな……


「ユミちゃん、それは急にはできないんじゃないかなぁ」

 

「なぜじゃ! 妙案じゃろうが」


 マルにさっそく呆れられている。


「わたしはっ、ユミス様ならできると信じてますよ!」


 そして、感覚のずれた発言をするアルマ。


「バカなことを言ってないで受付に行きますよ」


 人生相談の受付は入り口のそばにあるらしい。


 神官の女性から教えられた場所に向かうと行列ができていた。


「すごい人気だね」


「こんなにたくさんいるんだったら、何人かわらわにも分けてほしいのう」


 受付は二人の神官が担当しているが、私たちのところまで順番がなかなかまわってこない。


 待ち続けて、前の老婆の受付が済んでやっと私たちの番になった。


「こんにちは。人生相談のご予約でお間違いありませんか?」


「はい。光の大神官フリーゼ様を指名したいのですが、できますか?」


「フリーゼ様ですか? はい。可能ですが、フリーゼ様のご予約は来年まで埋まっておりまして」


 予約が来年まで埋まってる!?


「担当の神官のご指名をいただかなければ、三日ほどでご案内できるのですが、いかがいたしましょう」


 フリーゼはそんなに人気がある神官なのか。


「来年まで待てないよね」


「どうしよう……」


「なんじゃ。何かまずいことでも起きておるのか?」


 困ったぞ。こんなに予約が埋まっているのは想定してなかった。


「緊急でどうしても話したいことがあるんだが、それでも会わせてもらえないのか?」


「困ります。先にご予約いただいている方のご迷惑になりますから……」


 懇願しても通用しないか。


「困ったな。正攻法でフリーゼに会うのはかなり難しそうだ」


 受付を後にして近くの池の前に三人を集める。


「来年まで予約が埋まってるんだもんね」


「どうすればいいんだろう」


 急ぐ旅ではないといっても、さすがに来年までは待てない。


「ヴェンよ、先ほど『正攻法では会えない』と言っておったが、正攻法ではない方法が他にあるのか?」


「え? ええと、そうですね。たとえばここの神官を脅すとか、そんな方法ですかね」


「要するに武力にものを言わせる方法じゃな。わらわがそのような方法に加担したら、間違いなく父上から叱られてしまうのう」


 ヴァリマテ様を怒らせるのは危ない気がする。


「じゃあ、色仕掛けで迫ってみるとか!?」


 マルがスカートの裾をおもむろに上げて……?


「そんなことしちゃダメ!」


「あはは、うそうそ。アルマってば、本気にしないで」


「んもう、冗談でも変なこと言わないで」


 マルの色仕掛けは割と有効な気もするが――


「ヴェンツェルも、変なこと考えてないよね」


「お、おう。考えてないぜ!」


「ほんとに? いつもとなんか様子が違うけど」


 色仕掛け作戦もダメとなると、いよいよ打つ手がなくなってきたぞ。


「ヴェンよ、他に良い手は見つかったかの?」


 訪問客のいない神殿の前に移動して考えるが……何も思いつかない。


「ここは父上の神殿なのじゃから、父上に頼み込むのも手ではあるか」


 私のとなりでユミス様が変なことを言い出した。


「ユミス様。さっき、なんて言いました?」


「むお? じゃから父上からその神官に指示をさせればよかろうと」


 そんなことができるの!?


「な、なんじゃ?」


「そんなことができるんだったら、最初からそうしてればよかったじゃないですか! 先に言ってくださいよっ」


「お、落ち着くのじゃ。父上は曲がったことが嫌いでの、変な方法だと、たとえわらわのお願いでも聞き入れてくれんのじゃ。じゃから、黙っておったのじゃ」


 また謎の世俗っぽいところが出てきた。


 しかし、頼みの綱はユミス様のお願いしかないのだ。


「どうかお父様を説得してください。ウシンシュ様がもしかしたら危険な状態になっているのかもしれないんですから、説得できますよ」


「ええーっ、どうしようかなー。でも、ただではたらくのはわらわも嫌じゃしぃ」


 このマイナー女神め、何を言うかと思いきや、ここぞとばかりに駄々をこねてきやがった。


「わかりましたよ。お父様を説得できたら好きなものを買ってあげますから」


「ほんとじゃな。うそついたら針千本飲ますからの」


 えらい神様なのに変なところで欲があるから困ったものだ。


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