第117話 新たな目的地とマルの実力
勇者ディートリヒの消息はつかめないままだが、彼を追跡する方法は残っていそうだ。
「光の神官フリーゼに仔細を語ってもらうというのは、どうだろうか」
アルマとマルが即座に反応した。
「光の神官フリーゼ様に……? そんなことできるの?」
「そうだよ! 相手はきっとお偉いさんだよ。どこにいるのかも、よくわからないのに……」
勝算はそれなりにある。
「光の神官フリーゼは出世して大神官になっているということは、フェルドベルクのどこかの神殿にいる可能性が高いということだ」
「そうかもしれないけど……」
「聖騎士ラルスはもう死んでいる。魔道師メヒティナは行方知れず。四人の中で最も近づきやすいのは光の神官フリーゼだ。ここを突破口にするしかない」
「ヴェンの頭が冴えてきたの!」
他に方法は思いつかない。
「ヴェンツェルの言う通りかも」
「でも、どうやってフリーゼを探すの? まさかこの国のあらゆる神殿を探しまわるつもり!?」
「まさか。それはいくらなんでも効率が悪すぎる。フリーゼは光の神官だから、光の神ウシンシュか創造神ヴァリマテに仕える神官であるはずだ。そうですよね? ユミス様」
ユミス様がこくりとうなずかれた。
「そうじゃぞ。じゃが、ウシンシュはわらわと同じくらいマイナーじゃから、父上に仕えてると考えて間違いないじゃろう」
「光の神なのにマイナーなんですね。それはともかく、ヴァリマテ様の神殿はどこにあるか、わかりますか?」
「さぁのう。わらわは地図が読めない女ゆえ、詳しい場所はよう知らぬが、この街の近くにあるのではないか? 父上の神殿なら、きっとこの国のいたるところに建てられてると思うぞ」
さすが幾多の神の頂点に君臨する主神。
「ということで明日の朝はヴァリマテ様の神殿を探そう」
「う、うん」
「ヴェンって、めちゃくちゃ頭冴えてるね!」
* * *
ユミス様がおっしゃられた通り、ヴァリマテ様を祀った神殿はこの国の至るところで建造されていた。
「中でも一番有名なのが『太陽大神殿』。この街からそう遠くない場所にあるようだ」
「じゃあ、今度はその太陽神殿に行くの?」
「そうだな。フリーゼもそこにいるみたいだし、他の選択肢はないだろう」
「よーし、太陽大神殿だね。腕が鳴ってきた!」
身支度をしてフェルドベルクの南門を抜ける。
「みんなとこうして旅をしてるとなんだかピクニックみたいだね!」
先頭を歩くマルは今日も元気だ。
「そうだね。天気もいいし」
「面倒なことはすべて忘れて、皆でのんびり暮らしたいのう」
街から離れた辺境に拠点を築いても楽しそうだ。
「冒険者ってどうやって稼いでるの? あたしは踊りや演劇で稼いでるけど」
「基本はギルドのクエをこなして、その報酬で暮らす感じかな」
「ギルドって昨日行ったとこだよね。あそこで仕事を斡旋してるんだ」
「そうだね。ギルクエは魔物を討伐するものや、行商の護衛になるもの。発掘や調査のためにダンジョンに同行するものもあるよ」
「へぇ。いろいろあるんだね!」
マルが目をキラキラさせている。
「今のところ資金は不足してないけど、そのうちこのメンバーでクエを引き受けてみたいね」
「じゃあさ、この四人でなんか芸やろうよ!」
え……っ、芸?
「あたしが先頭で踊るから、みんなは後ろで音楽を奏でるとか他の芸をやってさ。絶対おもしろいよ!」
「いいのう!」
ユミス様がマルに飛びついて……ほんとに芸やるの?
「おっ、ユミちゃんやる気まんまん!?」
「芸ならわらわにまかせておくのじゃ。どんな姿にも変化してみせるぞよ」
そう言ってユミス様が白い煙を出してリスのような姿になった。
「その手があった! ユミちゃん、ほんとすごいね!」
「ほほ。変化はわらわの唯一の……じゃなかった。どの神よりも優れた力じゃからの。どんなものにも変化できるぞ!」
変化がユミス様の唯一の取り柄だったんですね……
「でも、これはたしかにいけるかも」
「いけるって、何が?」
「芸だよ。マルの踊りとユミス様の変化は観衆のいいアピールになる。私とアルマが音楽をがんばれば、意外と盛り上げられるかも」
まさかの今日から旅芸人?
「わたし、音楽なんてやったことないけど……」
「私も……」
そう簡単に旅芸人にはなれないか。
「はは。今すぐ旅芸人になる訳じゃないから、別に心配しなくたって――」
「魔物だっ!」
前方の森から悲鳴が聞こえたぞ。
「ヴェンよ」
「わかってます。行くぞ!」
森の魔物が出たのか。
剣を抜いて戦っているのは二人の若い冒険者だ。
「魔物が出たのか?」
「あ、ああ……」
森の中でうごめいているのは木の魔物?
大小さまざまな木が根や枝を動かして、人間のように立ち尽くしている。
「ここは私たちにまかせてもらおう。あなたたちは下がって」
駆けながらエアスラッシュの魔法を唱える。
三本の真空の刃が高速で飛来して木の魔物の胴を裂いた。
「きみ、強いね!」
マルも駆けながら両手に円形の金具を装着させていた。
ナックルダスターだったな。
「はぁ……!」
マルが低い姿勢をさらに下げて魔物に突撃した!
「はっ!」
魔物の前でしゃがみながら身体を回転させて、高速の足払いか。
転倒した魔物に肘打ちを食らわせて、魔物をあっさり沈めてしまった。
「すごい!」
「マルは強いのう!」
マルは格闘技を会得しているって、以前に言ってたな。
「これだけ強ければ何も心配いらないな」
マルが戦いながらぶつぶつと何かを言っている?
この詠唱は……魔法?
マルの両腕が突然発光する。
炎が現れてマルの全身を包み込んだ!?
「マルが……っ」
「待つのじゃ! 火の魔法を受けたにしては様子が変じゃ」
あの炎はマルが自分で唱えたもの?
よく見ると炎はマルの両手を保護するように燃え盛っている。
「きみたちには悪いけど、あたしと一緒に燃えてもらうよ!」
マルが拳を振るうたびに木の魔物に引火する。
木や植物の魔物は火に弱い。
マルの戦術は木の魔物に効果的だ。
「あれは、武術と魔法を組み合わせた技?」
「マルはどうやら、かなりの使い手のようじゃのう」
木の魔物たちは炎に恐れをなして森の奥へと退散していった。




