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第115話 ディートリヒの情報が得られないのは作為的か

 ディートリヒの消息を辿るのはフェルドベルクでも難しいのか。


「兄貴の情報は全然なかったよ。兄貴、ほんとに冒険者やってるのかなって疑問になるくらい情報ないんだけど!」


 一旦ギルドハウスから出て近くの公園でアルマとマルの二人と合流した。


「ギルドハウスにいた冒険者の誰もがマルセルさんを知らなかったってこと?」


「そう。けっこういろんな人に話しかけたんだけどねー」


「マルががんばって話しかけてくれたんだけど、マルセルさんという人自体、最初からいなかったような反応で……どうしてなんだろう」


 マルセルさんはフェルドベルクを中心に活動してるって言ってたんだけどな。


 ユミス様も難しい顔で腕組みしている。


「要するに、闇の魔法を使ったあの男はわらわたちにでたらめなことを話しておったということじゃ。食えぬ男じゃ」


「わたしたちのこと、信じてくれてなかったんだね。ひどい……」


「ヴェンやアルマのように素直な人間ばかりではないということじゃな。悲しいが、これが現実じゃ」


 マルセルさんの言っていたことが信用できないということは、マルセルという名前も偽名かもしれないということか。


「じゃあ、兄貴の名前を名乗ってた人は誰なんだろうね」


「うーん、人間では扱えない闇の魔法を使っていることを考えると、ペルクナスや邪神に関係のある人物か、魔王に近い人物くらいしか検討がないんだよな」


「邪神の関係……って、そんな人がこの世にいるの?」


「普通はそんな人はいないはずだけど――」


 待てよ。黒十字団って邪神を崇拝してるんじゃなかったっけ?


「黒十字団の関係者!?」


「え……っ、あっ!」


「それはあり得るのう」


 黒十字団の関係者なら、闇の魔法を習得しようとする人間がいてもおかしくないかもしれない。


「黒十字団って何?」


「マルは何も知らないか。フェルドベルクの各地で暴れてる盗賊集団だよ。全身を黒い格好で隠して、闇の神ペルクナスの象徴である黒十字を組織のシンボルにしてるんだ」


「要するに悪い奴らっていう訳ね。許せないね」


「ここに来る前に黒十字団の一味をつぶしたんだけど、奴らはかなり大きいギルドらしくてね。奴らに近づくのは難しいと思う」


 マルセルさんと名乗ったあの男が黒十字団と関係している可能性は高い。


「そっかぁ。一人や二人だったら、あたしでもなんとかなるけど、数が多いんじゃ止めといた方がよさそうだね」


「ここでクエをこなせば黒十字団の連中とまた戦うことがあるだろうから、そのときを待とう」


 マルセルさんを追うのは難しい。


「そっちはなんか情報あった?」


「あったぞ。闇の魔法が人間でも覚えられるというのは、まったくの嘘じゃった! わらわの思う通りじゃったわ」


「よくわかんないけど、そっちの情報もでたらめだったっていうことね。嫌になっちゃう」


「次にあの男と会ったら、ただじゃすまさんぞ」


 ユミス様が悔しそうに手をぶんぶんと動かしていた。


「それだけじゃない。勇者ディートリヒの消息がつかめないのは、どうも裏があるっぽいんだ」


「裏があるっていうのは?」


「要するにディートリヒが王国と揉めて、裏で始末された可能性があるということさ」


「ええっ! それ、やばいでしょっ」


 マル、声が大きい!


「むぐぐ……」


「もし王国が勇者を抹殺したのなら一大事だ。こんな闇を知ってるとバレたら私たちも始末されかねない。もっと慎重に動かないとダメだ」


 辺りを見まわして、王国の関係者は居なそうだった。


「わかったよ。ヴェンの言う通りだ」


「でも、ヴェンツェル、どうするの? 勇者様を探さないとウシンシュ様の居場所もわからないんでしょ」


 そこなんだ。困っているのは。


「秘匿されている勇者の手がかりをどうやってつかむ?」


 秘匿されていても、わずか六、七年前まで存在していた人なんだ。


 彼の活躍を記録したものがどこかにないか?


「ディートリヒの活躍を記したものがどこかにあるはずだ。それを探すしかない」


「勇者様の活躍を記したもの?」


「たとえば書籍とか。書籍は王国が管理してるからダメか。それ以外なら手紙とか?」


「手紙って個人に宛てるものだよね? わたしたちみたいな一般人が見れるものじゃないと思うけど……」


 くそ、手紙もダメか。


「神なら言葉を記録できる者はおるが、勇者はきっと使えなかったじゃろうな」


「ていうか紙自体が貴重だから、あたしらみたいな一般人はまず使わないよ」


「神と紙がごっちゃになって、訳がわからんぞ」


 ディートリヒの記録を探すことができないっ。


 万事休すか……


「要するに、あたしら一般人は会話と記憶を頼りに生きてるってことだね」


「貴族だって紙は滅多に使わないよ。紙は貴重だから」


「神はもちろん紙なんて使わんぞ。神が紙なんぞ使ったら、どっちが神でどっちが紙だかわからなくなるからのう!」


「ユミちゃん、それ、どっちのカミだか全然わかんない」


 私たち一般人の情報伝達の手段は会話と記憶だということか。


「わかった。なら、これから聞き込みだ!」


 右拳を強くにぎる。


「え……っ、聞き込み?」


「そ。マルが自分で言ってたろ? 一般人の情報伝達の手段は会話と記憶だって」


「そうだけど……まさか、街の人を手当たり次第聞き込むつもり?」


「そのまさかさ」


 もはや人目を忍んでいる場合じゃない。


「でも、それだと王国の人たちに気づかれちゃうんじゃ……」


「もちろん、そのリスクはある。だが、他に方法はない。なるべく目立たないように聞き込むしかない」


「なるべく目立たないように……か。ヴェンは今回も無茶を言いおるのう」


 メトラッハはかなり広い。


 人口だって近隣の村や街の比ではないだろう。


「四人でそれぞれ分かれて聞き込みを行うんだ。だが、まずは街の北東を対象とする」


「正反対の城から遠い場所から手堅くいくんだね。おもしろくなってきた!」


「わたしは、あんまり得意じゃないかも……」


「一人だと不安ならユミス様と一緒に活動すればいい。じゃあ、日没までいったん解散!」


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