第114話 闇の魔法はメトラッハでも習得できない?
ユミス様が伝承に登場する神のひと柱であることを改めてマルに説明した。
「という訳で、だいぶ長引いちゃったけど、ユミス様は運命と生まれ変わりを司る神様なんだよ」
「そうじゃぞ、マルよ。驚いたかっ」
マルはしばらく無言で、なんと返答すればいいのか困っているようであった。
「生まれ変わりを司る神様……」
「そうじゃぞー。もし所望するのであれば、お主も酒樽にしてやるぞ」
「酒樽にはしなくていいですって」
いい加減、このカオスな状態から抜け出したい。
「よくわかんないけど、きみたち面白いね!」
マルは初めて会ったときのように、目を輝かせていた。
「そうじゃ。面白いじゃろー」
「きみたちはやっぱり只者じゃなかったんだ。怪しいなぁって、ずっと思ってたんだよね!」
前からうすうす気づかれてたのね。
「これ、怪しいとはなんじゃ!」
「だって、きみとか絶対普通じゃないもん。誰でもそう思うでしょ」
「なぬっ、そのようなことは……」
「気づかれた原因の中心はやっぱりユミス様だったのか……」
突っ込みどころはたくさんあるだろうが、とりあえずマルに納得してもらえたようだ。
「話を戻すけど、きみが運命の神様だから、別の神様を探してるんだ」
「そうじゃ。光の神のウシンシュと言っての、うんと昔に勇者と旅立って以来、消息を絶っておるのじゃ」
「ええっ!? それ大変じゃん。早く探さないと」
「案ずるでない。ウシンシュは決して強い神でないが、悪い人間や魔物に殺されたりはしない。道のどこかを彷徨っておるだけじゃろうから、奴を探すのは後回しでよい」
神様を探すのが最優先な気もするけど……
「よくわかんないけど、命の危険はないということだね」
「そうじゃ。神は死んだりせん」
「オーケー。それを聞いて安心した。なら、ひとつずつ問題を解決していこう!」
* * *
私たちは宿を出てメトラッハの冒険者ギルドを訪ねた。
ギルドハウスは街の中央部にあり、グーデンのギルドハウスよりもかなり大きい。
「ここで二手に分かれるんだ。私とユミス様は闇の魔法について調べる。アルマとマルはマルセルさんの手がかりがないか確かめてくれ」
「とりあえず受付で聞いてみればいいんだよね?」
「そうだな。冒険者が他にもいたら、冒険者からも情報が得られると思う」
「オーケー。やる気出てきたよ!」
ギルドハウスのロビーはグーデンのギルドと同じく中央に掲示板があり、奥に受付、脇には小部屋が用意されている。
しかし掲示板は六つもあるし、小部屋もたくさんある。
椅子に座ってのんびり談笑できるスペースもあるし、何より冒険者の数が段違いだ。
「へぇ。ここが冒険者ギルドなんだね。初めて来た」
「ここはギルドハウス。ギルドが運営してて、冒険者はここでクエストを受けたり、戦闘スキルを学んだりできるんだよ」
「そうなんだ! だから冒険者の溜まり場になるんだね」
マルは冒険者じゃないから、冒険者ギルドのことなんて知らないか。
「じゃあ、ここで二手に分かれよう。ユミス様、あっちで魔法スキルの説明が受けられそうですよ」
案内板に従って左の受付カウンターへ向かう。
「こんにちは。冒険者ギルドは初めてですか?」
受付は若い男性だ。
まだ二十歳になったくらいか?
「私はバルゲホルムから流れてきたヴェンツェルといいます。向こうではそれなりに長く活動していました」
「バルゲホルムで活動していた方でしたか。ではフェルドベルクの旅は初めてですか?」
この男性はとても丁寧で、私たちを田舎者と嘲たりもしない。
挨拶を適当に終わらせて、闇の魔法について尋ねてみる。
「闇の魔法ですか? うちでは扱っていないはずですが」
闇の魔法はフェルドベルクでも習得できない?
「ヴェンツェル様は闇の魔法を習得されたいのでしょうか?」
「いえ。冒険の途中で知り合った人から、メトラッハのギルドで闇の魔法を習得できると聞いたので、真偽のほどを確かめたかったのです。闇の魔法が習得できないというのは本当ですか? 間違いはありませんか?」
「間違いはないはずですけど……」
受付の若い男性がカウンターの奥に引き下がってしまった。
「ちょいと、突っ込みすぎたようじゃのう」
「はい。でも、これでいいんです。もう少し偉い人に出てきてもらって、真実を語ってもらいましょう」
やはり、フェルドベルクで闇の魔法が学べるなんていうのは嘘だったんだ。
「そんなことよりも、闇の魔法を使っていたあの男が気がかりじゃ」
「はい。マルセルさんはなぜ闇の魔法が使えるのか。人間に扱えないという魔法を使っても人体に悪影響はないのか」
カウンターの奥から中年のおそらくベテランの方が現れて、フェルドベルクでも闇の魔法が扱えないと教えてくれた。
「あのマルセルという男はペルクナスと関係があるのかもしれん」
「いや、まさか……そんなことは……」
ペルクナスと一度だけ対峙したとき、手がかりになることを言ってなかったか?
「アルマとマルの方はもう少し時間かかりそうじゃ。勇者の手がかりというのも探してみたらどうじゃ?」
「そうですね。まずは近くの冒険者に尋ねてみましょうか」
談話スペースでくつろいでいる若い冒険者たちにまずは聞いてみよう。
「勇者ディートリヒ?」
「ディートリヒって前に魔王を倒した奴だろ?」
「その後どうなったかなんて知らねえよなぁ。姫とでも結婚したんじゃねぇの?」
ダメだ、彼らは世代が違うのか、ディートリヒのことをまるで知らない。
「大した情報は得られなかったようじゃのう」
「ディートリヒを知っている世代の人に声をかけるべきでした」
もう少し熟練の冒険者はいないか。
掲示板の前で談笑している男女がいいか。
三十歳くらいの魔法使いの二人だ。
「ディートリヒが魔王を倒した後にどうなったかって?」
「はい。ディートリヒの活躍をまったく聞かないので、気になってるんです」
熟練魔法使いの二人は顔をしかめている。
明らかに何かを知っている表情だ。
「なんでもいいので、知っていたら教えてくれませんか?」
魔法使いの男性は首をきょろきょろと不自然に動かして、まわりを警戒していた。
そして、私に顔を近づけて、
「噂によると、ディートリヒは魔王を倒した後に王国によって抹殺されたらしいぜ」
私に手がかりを教えてくれたが――
「そうなんですか!?」
「バカっ、声が大きい!」
しまった。つい声を上げてしまった。
「それは本当なんですか?」
「いや、噂で広まってただけだから、本当かどうかは知らん。でも、王国となんかあったのはほんとっぽいぜ」
「ディートリヒが殺されるのを見たっていう人もいたんだよね」
「そうだな。だが、魔王を倒したディートリヒが簡単に殺されるとも思えないから、実はどこかで生きてて王国に復讐する機会を伺ってるとか、そんな噂もあるみたいだぜ」
ディートリヒはやはりフェルドベルクと決裂してたのか。
「にいさん、ディートリヒに興味があるみたいだが、あんまり深追いしない方がいいぜ。この国の暗い部分に触れたら、俺たちも抹殺されちまうかもしれねえからな」
熟練魔法使いの二人はまわりを気にしながらギルドハウスから出ていった。




