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第113話 二日酔いの頭でディートリヒの捜索

 酒の強いマルと夜遅くまで飲んで、宿に戻ってもその勢いはなかなか衰えなかった。


「今日はもう朝まで飲んじゃおうぜ☆」


 とかマルが調子に乗ってたから……


「うう……っ、頭いたい」


 次の日の朝に酔いつぶれたマルの姿があった。


「いや、だから飲みすぎるなって、言ったのに」


「だってぇ、楽しかっ……んだから、しょうが……」


 頭痛のせいか、呂律がまわってない。


「調子に乗って飲みすぎて酔いつぶれて……テンプレすぎて言葉も出ないわ」


「テンプ……? なにそ……」


 見ていられないから茶をコップに注いで近くに置いてやった。


「ユミとアルマは?」


「アルマ……は、あそこ……」


 アルマが部屋の隅でぐったりしてる!


「うう……頭が……っ」


 こっちも飲みすぎかよ。


「酒、大して強くないのに飲みすぎるからだぞ」


「だって……おいし……かっ」


 吐きそうになってるけど、ここで吐くなよ……


「まったく、しょうがない女子どもだな」


 酒は飲んでも飲まれるな。


 その点、私は酒量をしっかりとコントロールしたもんね。


 生まれ変わっても元四十二歳。年の功だね。


「それで、あとお騒がせ女神は?」


 あの人……じゃなくてあの神は物理的な飲食をしないから、酒も飲まないはずだが。


 天井から、ぽた、ぽたと水滴が落ちている。


「えっ、もしかして水漏れ? でも今日は雨とか降ってないよ?」


 嫌な予感を感じつつ水漏れしている天井を見上げると、


「ユミス様!? 天井にへばりついて寝てる!? しかも酒とコップ抱えてるし。あなた酒なんて飲まないでしょう!」


 何これっ、どういう状況!?


「なんかもう、どうでもよくなってきた。私も昼過ぎまで寝よ」



  * * *



 昼食を食べ終えた頃にアルマが寝室から出てきた。


「まだ頭いたい……」


「二日酔いだな。時間が経てば治るから、大人しくしてるんだな」


「うん……」


 また吐きそうになってるけど、吐くなよ……


「マルとユミス様は?」


「マルは旅芸人の人たちに挨拶しに戻ったよ。今後は私たちと一緒に活動するからね」


「そっか。わたしたちがマルを誘っちゃったから、迷惑かけちゃったかな」


「なんか、その辺は大丈夫っぽいよ。所属してた旅芸人のギルドも何日か前に入れてもらったギルドだったっぽいし、すぐ抜けることも前もって言ってたみたいだし」


 マルはかなり自由人だ。


「そうなんだ。わたしたちとはずっと一緒にいてほしいけど」


「お兄さんを見つけるまでは一緒にいてくれそうだけどね。その後はどうなるかわからないな」


 マルさんを逃さないように、お兄さんを見つけないように……なんていうことはしちゃいけないな。


「ユミス様は?」


「わかんない。気がついたら天井からいなくなってた。散歩でもしに行ったんだろう」


 アルマの体調が良くならないから宿から離れられない。


 宿でのんびりしてるとマルとユミス様がふらりと戻ってきた。


「おまたせ。ギルドにはちゃんと挨拶してきたから、もう大丈夫だよ」


「短い間であったとしても、別れの挨拶はちゃんとせねばいかんからの」


 みんな集まったから、今後の方針について話し合おう。


「私たちはマルセルさんの捜索に加えて、光の神ウシンシュ様を探さなければならない。そのために勇者ディートリヒの軌跡を辿る必要がある」


「うん。そうだね」


「ヴェンがいつにも増して逞しいのう」


「目標が多いけど、どれも重要だから後回しにはできない。しかし、全部を同時に進行することもできない。それを話し合いたい」


 改めて考えると、かなり困難な状況だ。


「ヴェンよ。マルセルが湖で言っていたことも確かめる必要があるのではないか?」


「マルセルさんが言っていたこと?」


「闇の魔法をこの街で学べると申しておったじゃろう。それはすぐに確かめられるのではないか?」


 闇魔法のスキルは冒険者ギルドに行けば確かめられる。


「そうですね。では、その確認を先に済ませてしまいましょう」


「ひとまず、この街でできることを先に片付けちゃった方がいいんじゃないかな。マルのお兄さんの手がかりについて聞くとか、勇者ディートリヒのことを聞いてみるとか」


 アルマの二日酔いもだいぶ回復してきたみたいだ。


「その通りだ。マルセルさんの手がかりとディートリヒの調査も手分けして進めてしまおう」


「うん、わかった!」


 二人とも意見を出してくれて、とても助かる。


 マルはアルマのとなりで口をぽかんと開けているだけだった。


「マルは? 何か意見ない?」


 声をかけてみるけど、いつもの快活な返事がない。


「もしかして遠慮してる? 構わずにどんどん意見を出していいよ」


「あ……いや、遠慮はしてないんだけど……その、光の神って何?」


 ああ……神様の件で引っかかったのか。


「ユミス様。マルに、いつものやつお願いします」


「ふょ? いつものって、なんじゃ?」


「だから、猫とかに変化して、『ええ〜っ、ユミス様って実は神様だったの!?』ていう一連の件ですよ」


「むむっ、またそれをやらなければいかんのか? 面倒じゃのう」


 ユミス様がテーブルの上に立った。


「マルよ。一度しかやらぬから、よく見ておくのじゃ」


「見るって、何を……?」


 ぼん、とユミス様が白い煙に包まれる。


 煙が引いて現れたのは……


「て、なんで猫とかじゃなくて酒樽さかだるなんですか」


「おほほほほ。言われた通りに変化してもつまらんじゃろ?」


「つまんなくてもいいんですよ。今はそこが重要なんじゃないし……ていうか、生き物以外にも変化できるんですね。知らなかった」


「わらわの力は無限大じゃ。なんなら、酒本体にも変化してやるぞよ」


「酒本体? いや、飲まれたらおしまいじゃないですか」


 アルマが昨日の酒を思い出して吐きそうに……うわっ、吐くなよ!


 いや、そうじゃなくてマルに説明するんだ。


「という訳で、今まで私の妹と説明してたユミス様は、人間じゃなくて神様なのじゃ」


「おほほ。神様でもヴェンの愛人であることには変わりないがの」


「この世のどこに酒樽を愛人にする奴がいるんですか。そうじゃなくて、要するにユミス様は普通じゃないということで……」


 なんか、説明するのが面倒になってきた。


 マルは目を大きく見開いて、初めて知る事実に対応し切れなくなっていたが……


「なにこの酒樽! またお酒飲みたくなってきたっ」


「うわ、何その反応! ていうかまた酒飲む気かよ!」


 話の流れがカオスすぎてもう手に負えないです。


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