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第112話 マルさんふたたび

 マルさんがメトラッハにいた!


「ヴェンくんを驚かすつもりはなかったんだけどね~。バルゲホルムで食事して以来だね!」


 マルさんは今日も露出の多い衣服から日焼けした腹や二の腕をさらしていた。


「驚かすつもりはないって……それ絶対嘘でしょ」


「あはは、バレた? だって、感動の再会なんだから、普通に声かけたらつまんないでしょ!」


 この表裏のない笑顔、たまらないな。


「マルさんもメトラッハに来てたんだね」


「うん。何日か前にね。たまには大都市で稼ぎたいってギルマスが言ったからなんだけどね」


 私たちとほぼ同じタイミングでここに到着してたのか。


「因みに、きみを見つけたのはあそこの像の前」


「げ。フェルンバッハの像の前?」


「そ。一人でなんかぶつぶつ言ってたから、微妙に声かけづらかったんだよね!」


 私の一連のやり取りを全部見られてたのかよ……


「あれ、なんかショック受けてる?」


「放っておいてくれ」


 気を取り直して、マルさんと再会できてよかった。


「ヴェンくん、ここでなんか探し物? この付近のエリアであたしたちが買えそうなものはないよ?」


「私が探してたのはマルさんだよ」


「え……っ、あたし?」


「そ。話したいことがたくさんあるんだ。ユミスさ……ユミとアルマもあなたに会いたがってるから。少しだけでいいから時間をいただけない?」


 マルさんはしばらくきょとんとしてたけど、すぐに快活な笑顔を見せてくれた。


「もちろんだよ! ふたりにも早く会いたいっ」



  * * *



 ユミス様とアルマのふたりとすぐに合流して、東門の近くの酒場に入った。


「マルは相変わらず達者でやっておったようじゃの!」


「もちろんだよっ。きみのおばあちゃん口調もめちゃくちゃ久しぶりだね!」


 マルさんは二人とも一瞬で打ち解けて、旧知の友みたいに肩を抱き合っていた。


「これっ、あんまり抱きつく……おごっ」


「きみ、ほんと可愛いよねっ。このまま持って帰りたい!」


「マルが元気そうでよかった」


 早く本題に入りたいけど、しばらく三人で自由に会話してもらおう。


「ええい、マルよっ、離さんかっ!」


「ダーメっ。ここにいる間きみはずっとあたしの妹なんだから!」


 ……放っておくとマルさんの胸に埋められたユミス様が窒息しそうだけどね。


 グラスに並々注がれたエールで乾杯して、大麦パンや野菜スープをテーブルに並べた。


「でさ、こないださ~」


 マルさんはお酒が好きだから、エールを飲み干してはおかわりを注文して、胃袋はまるで底なしだった。


「マルってお酒飲むの早いよね。どうしてそんなに早く飲めるの?」


「どうしてって言われても、困っちゃうなぁ。こんなの、水を飲むのと同じじゃない?」


「同じじゃないと思う」


 アルマが遠慮せずに否定するとマルさんが爆笑した。


「お酒の強さは個人差があるから、早く飲めなくてもいいと思うけどね。あたしの場合、こいつはもう水みたいなもんだからさ。飲まないと死んじゃうんだよ」


「飲まないと死んじゃうの? お酒を!?」


「あはは。アルマ、本気にしちゃだめだって。もう、どうしてきみたちはこんなに可愛いの!?」


「きゃっ!」


 マルさんが今度はアルマに抱きついた。


「もう、やめてってばぁ」


「いやだ。やめない」


 どちらも羨ましすぎるぞ……っ。


「マルの暴れっぷりは今日も最悪じゃな」


 ユミス様がマルさんから離れて私のとなりに戻ってきた。


「それだけ、二人に会えたのが嬉しいんですよ」


「マルに抱きつかれるのは嫌じゃないんじゃがな。その、呼吸ができなくなるからの」


「放っておいたら本当に窒息しますよね。ていうか、神様でも窒息するんですか?」



  * * *



 マルさんの興奮が落ち着いてきた頃に、マルセルさんのことをマルさんに話した。


 闇の魔法を使っていたことや妹の存在を否定していたことは伏せて、見た目や雰囲気を中心にマルさんに伝えた。


「どうかな。マルのお兄さんの可能性はあるかな」


 アルマも心配そうにマルさんに尋ねる。


「どうかな。それだけだと兄貴と断定するのは難しいね。可能性はありそうだけど、その人の言う通りに偶然同じ名前だっただけかもしれないし」


「だけどピンク色の髪とか、マルにそっくりだったんだ。絶対にお兄さんだよ!」


「そうだったらいいんだけどね。直に会えば、すぐにわかると思うんだけど」


 マルセルさんは今、どこにいるのか。


「たしかマルセルさんもフェルドベルクの国内を中心に活動してる冒険者だって言ってたから、冒険者の行きたそうなところに行けば会える確率は上がると思う」


「冒険者の行きたそうなところ?」


「たとえば宝の眠るダンジョンとか、冒険者ギルドのクエで訪れる場所とか、冒険者の行く場所はそれなりに決まってるんだよ。彼をまた探すのは簡単じゃないけど、不可能なものでもないと思ってる」


 私としてもマルさんとマルセルさんを引き合わせてみたい。


「ヴェンの言う通りじゃ」


「だから、わたしたちと一緒に行こう!」


 マルさんが口を閉ざして考え込んでいる。


「その人も冒険者だから、あたしよりもみんなの方が勘がはたらくんだね」


「そうだな。こう見えても、それなりに長く冒険者をやってるからね」


 マルさんは一見すると態度が軽く感じられやすいが、この人の本性は芯が強く、他人にも流されにくいのではないかと思う。


 私たちはまた断られてしまうかもしれないな――


「わかったっ。なら、その人に会わせてほしい!」


 と思ってたら意外と素直に懇願されたぞ。


「あたしも兄貴を探してたんだけどさ、ぶっちゃけなんの手がかりも得られなくてお手上げだったんだよね。きみたちの方があたしよりも何倍も嗅覚に優れてるみたいだからさ、それならもう変な意地を張らないで案内してもらっちゃおうかなぁって……ダメ?」


 姐さんキャラだったのに素直にお願いする姿がおかしかった。


「もちろん! 大歓迎だよっ」


「そうじゃとも。わらわたちと一緒に行動すればええ!」


 やっとマルさんと気持ちがひとつになった!


「大した知り合いでもないあたしのために、こんなことしなくていいのに」


「わらわたちはお主を気に入っておるからの。何も気にするでない」


「そうだよ! みんなで探せば、その分早くお兄さんが見つかるよ」


「うん……そうだね」


 マルさんの説得はこれで完了だ。


 次はマルセルさんの捜索になるけど、他にもやらなきゃいけないことがあるよな。


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