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第111話 メトラッハに到着!

 捕縛した黒十字団を王国に突き出すまでにまた数日を要した。


 山間部の村を経って半月ほど。


 グーデンを経ってからひと月以上もかけて、


「やっとメトラッハに着くぞ!」


 彼方まで広がる平地の向こうに城塞都市が見える。


「あそこが王国の首都なんだね」


「遠かったのう」


 メトラッハはとてつもなく大きい。


 グーデンの何倍あるんだ?


 遠くから見ただけでもグーデンと比較にならない規模なのがわかる。


「水竜の湖にいたカツラの役人を肯定する訳じゃないけど、フェルドベルクが都会だと言われる理由がわかる気がする」


「あんなに立派な城郭に守られていたら、魔王が攻めてきても守り切れそうだよね」


 私たちの前を商団馬車がのろのろと進んでいる。


 もう少し先に談笑する冒険者たちの姿もある。


「あの都は賑やかなところのようじゃのう」


「また曲芸師の手品が見られるかもしれませんね」


 堅牢な城郭に築かれた門を数人の守衛が守っている。


 彼らは甲冑を着込んだ姿で通行人を見張っていた。


「次はお前たちだ。こっちに来い」


 銀の甲冑が少しまぶしい。


「お前たちは黒十字団の者たちではないな?」


「はい。隣のバルゲホルムで活動していた冒険者です。活動の幅を広げるためにメトラッハを訪れました」


「ほう。お前たちの身分を証明するものはあるか?」


 メトラッハでも黒十字団の侵入を警戒している?


「グーデンの冒険者ギルドで紹介状を書いてもらいました。それでいいですか?」


「紹介状か。うーん、微妙だが貧しい冒険者では致し方あるまい。もってるのなら見せてくれ」


 グーデンと違ってメトラッハの警備は厳しいな。


「黒十字団はここにも出没するんですか?」


「ん……あ、いや、さすがにここまでやってこないな。だが、別の都市で市民に成りすまして都市に侵入してくる事例があったみたいでな。取り締まれと言われてるんだ」


 黒十字団は成りすましまで行うのか。


「それなら警備が厳重化されても仕方ないですね」


「そうなんだ。そのせいで俺たちは今月の休みがつぶれて散々なんだぜ。たまったもんじゃないぜ」


 守衛や門兵も楽じゃないんだな。


「お前たちを疑いたい訳ではないが、形式上でも検査をしないと上がうるさいんでな。我慢してくれ」


 程なくして門の通過が許された。


 旅芸人の一座が奏でる陽気な音楽が門の外からでも聞こえてくる。


「ここでも旅芸人が芸を披露してるようだな」


「旅芸人……それならマルさんもここに来てるのかな」


 マルさんもメトラッハに来ているか。


「もしかしたら来てるかもしれない。探してみよう」


 門の前の広場でたくさんの旅芸人がいろんな芸を披露している。


 玉乗りの芸やロープを使った芸など、微妙に見たことがない演芸ばかりだ。


 踊り子も何名かいるが、マルさんではなさそうだ。


「ここにはいない。だが、他の広場を探せば見つかるかもしれない」


「ヴェンよ、マルを探す前に落ち着ける場所を見つけた方がよいのではないか?」


 荷物を宿に置いた方が探しやすいか。


「そうですね。先に安く泊まれる宿を探しましょう」


 メトラッハはグーデンよりも宿が多そうだ。


 しかし都会の分、宿の値段も高い。


 東門の近くの宿をいくつか探して、三階建ての古い宿に泊まることにした。


「メトラッハにどのくらい泊まるのかわかりませんから、値段を重視しました。あまりきれいな宿ではないですが、我慢してください」


「もう少しきらびやかな場所がよかったが……」


「わたしはどこでも大丈夫だよ!」


 アルマ……きみはほんとに男爵の令嬢なのかな。


 残念そうに肩を落とすユミス様の手を引いて、二階の借りた部屋に荷物をひとまず置いて、


「では、改めてマルさんを探そう」


「おー!」


 アルマもずいぶんやる気だ。


「三人で固まって動いたら効率が悪いですから、各自でそれぞれ街を探しましょう」


「鳥に化けて探したときと同じように手分けすればよいのじゃな」


「はい。この街はかなり広いですから、迷子になられないように気をつけてください」


 二人と別れて私は正反対の西側へ向かってみよう。


 グーデンよりも洗練された街並みで、地面も石だたみで丁寧に舗装されている。


 道ですれ違う人たちも身分の高い人が多いのか、きれいな衣服に身を包んでいる人ばかりだ。


「フェルドベルクの都はほんと都会だな。店も多いし、道や店を覚えるのに苦労しそうだ」


 広すぎる都会よりも、グーデンくらいの適度な広さの都会の方が私には合っている気がする。


 南西の丘に荘厳な王城が建っている。


 城の背後は高い山なので、城の防御を考えた構造になっているようだ。


「この街の構造を考えたのもフェルンバッハ一世なのか? 戦慣れした人が後の人々を考えて街を築いていったんだろうな」


 大きな橋の前に大きな石像が建っている。


 少し見上げないといけない高さの石像は、地面に突き刺した長剣に両手を乗せている戦士の像だ。


「これがきっとフェルンバッハ一世なんだな」


 足下の石碑にもしっかりとフェルンバッハ一世の名が刻まれている。


「凶悪な魔王を静め、平穏な世を取り戻した偉大なる祖先をここに讃える、か。ありがちな一文だな」


 こんなことをあのカツラ親父に聞かれたらまた怒られるぞ。


「しかし、こうして改めて考えると、魔王を倒した功績というのはとてつもなく大きいんだよな。こんな石像がつくられて、二百年後にまで語り継がれるくらいに」


 だからこそディートリヒの功績がどこにも残されていないのが不自然でならない。


「ディートリヒはフェルドベルクを拠点にしてたはずだから、フェルドベルクの王家と絶対に何かあったんだろうな」


 そんなことはいいからマルさんを探さなければ。


「あの人がこの街にいる保障なんてないけど、探してみる価値はあるよな」


 大きな橋の向こうは西門につながっているはず。


 噴水がある場所は広場になっているが、ここで芸を披露している一座はいないようだ。


「西門の方には手がかりはないか? でも、もう少しちゃんと調べないと、いないかどうかわからないぞ」


 ここは城に近いせいか、住居が他の場所に増して高そうだぞ。


「こんな貴族の住むエリアにマルさんはいないか――」


「よ! ヴェンくんっ」


 後ろからいきなり肩を叩かれた!?


「誰っ!」


 身の危険を感じて後ずさりするが、


「あちゃあ。なんか、めちゃくちゃ驚かせちゃった?」


 そこで立ち尽くしていたのはマルさんご本人であった。


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