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第107話 黒十字団のボス

「お前ら、命が惜しければ金目のものを置いていけ」


 黒十字のおしゃれなマントを羽織っているが、口から出てくる言葉は割とテンプレートだ。


「にいちゃんよ、女を侍らせてのんびり観光か? 羨ましい限りだぜっ」


「女も俺たちがいただいてやってもいいけどな!」


 アルマはそんじょそこらの女性と違ってかなり強いぞ。


 黒十字を羽織った人たちは剣や斧を携えて、私たちを威嚇していた。


「またあなたたちかっ。悪党には正義の鉄槌を下すのみ!」


 アルマが妖精銀の盾を突き立てる。


 シールドアサルトで二人の賊を吹き飛ばした。


「てめえ!」


「ぶっ殺されてえのか!」


 残りの連中が剣で斬りつけてくるが、アルマの敵ではない。


「はっ!」


 アルマがランスで賊を突き、背後から襲ってきた敵も盾で簡単に反撃してしまう。


 私もウォーターガンの魔法で残りの連中も吹き飛ばして、賊をあっさり撃退した。


「おぼえてやがれ!」


 黒十字団なんておしゃれな名前を名乗っているが、所詮は特定の地域を拠点にしている賊か。


「なんじゃ、あいつらは。大したことないのう」


「あっさり撃退できちゃいましたね」


 邪神を崇拝しているらしいが、大した連中ではないのだろう。


「ペルクナスを信仰していたとしても、所詮は賊ですね。私たちの敵ではないです」



  * * *



 湖の関所から続く山道を越えて、山間部の集落を発見した。


「村があったね!」


「これで少し休めるのう」


 山間部であるはずだけど、農地が彼方まで広がっている。


「ここで栽培してるのは小麦かな? こんな広い農地を耕せるなんてすごいな」


「ヴェンツェルは前に農業をやってたんだっけ。こんなに広い農地を耕すのって大変なの?」


「大変なんてもんじゃないだろう。農地が広ければそれだけ管理が大変になるし、人を雇わないといけないから人の管理も必要になる。このすべての農地で収穫できればいいけど、収穫は結局天候次第だからね」


 私が耕していた農地は天候に恵まれずに干上がってしまったから、こんな瑞々しい農地が羨ましい。


「農地を耕すのって大変なんだね」


 農地の管理人がどこかにいないか。


 そこで田畑の手入れをしている人を見つけた。


「すみません。少しお伺いしたいことがあるのですが」


 麦わら帽子をかぶった男性は私たちに気づくとなぜか驚いて身をひるがえした。


「だっ、誰だ。黒十字団の連中か!」


「いえ、違います。バルゲホルムから旅をしてきた者です」


 この農地は黒十字団の被害を受けているのか。


「黒十字団の連中じゃない? 本当かっ」


「本当です。私たちはメトラッハを目指しているので、食事を少し分けてほしいんです」


 麦わら帽子をかぶった男性はしばらく鎌を構えていたが、やがて警戒を解いてくれた。


「旅人になりすまして俺たちを騙す魂胆じゃないだろうな」


「私たちは黒十字団ではありませんって。私たちも先ほど奴らに襲われたんですから」


 広大な農地の中央部にいくつかの家屋が建っている。


 農村の広場で子どもたちが遊んでいた。


「村長がいるか確認してくるから、ここで待っててくれ」


 男性が建物の奥に消えていった。


「この村もあの黒い連中に襲われてるようだのう」


「なら、わたしたちで黒十字団を討伐しようよ!」


 食事を分けていただくんだったら、相応のはたらきを示さないといけないか。


「そうだな。私たちなら簡単に討伐できるだろうし、食事をもらうならお返しもしないといけない」


 麦わら帽子の男性が戻ってきて、村長の屋敷へ案内してくれた。


 村長の屋敷といっても、近くの家屋と広さはさほど変わらない。


 壁がやや朽ちた住居に老年の男性が佇んでいた。


「旅の方、よくぞおいでいただきました。私はヘルマンと申します」


「ご丁寧にありがとうございます。私はヴェンツェルといいます。バルゲホルムから流れてきました」


 ユミス様とアルマを紹介して本題に移ろう。


「私たちはメトラッハを目指して旅をしているのですが、何日か滞在させてもらえませんでしょうか。邪魔は決していたしません」


「はい。それならば構いません。今年は作物の実りもいいので食事もお分けできます」


 よかった。村長に快諾してもらえた。


「お主らもあの黒い連中に悩まされておるようじゃの」


 ユミス様が切り出すと、村長が表情をわずかにこわばらせた。


「ええ。黒十字団の連中がたまにやってきて田畑を荒らしていきます」


「やはりか。奴らも毎日の食糧が得られずに山から降りてくるのじゃろう。困った者たちじゃ」


「黒十字団の連中は近くの山を拠点にしているようでして、先日も麦畑が荒らされました。王国に奴らの討伐を依頼していますが、何も変わっていないのが現状です」


 王国は頼りにならないのか。


「それなら、私たちで賊を退治しましょう」


「あなたがたが奴らを退治して下さるんですか?」


「はい。食事をもらうだけでは忍びないですし、私たちにとって奴らはさほど強くないので、奴らの住処がわかればすぐに討伐できると思います」


 村長はぽかんと口を広げて、私の言動を信じておられない様子だった。


「奴らのアジトについて心当たりはありませんか」


「奴らのアジトですか。すみませんが心当たりはありません。奴らは思い出したように山から降りてくるので、どこかの山を拠点にしているとしか答えようがありません」


 奴らの居場所がわからなければ討伐できない。


「そうですか。残念です」


「大した情報を差し出せず、申し訳ありません。それと、奴らの中に一際悪い奴がおりまして、そいつに手を焼いているんです」


「そんな奴がいるんですか。どんな感じなんですか」


「そいつは『グレルマン』と言いまして、大柄な身体が特徴のかなり悪い奴です。奴に痛めつけられた者が何名いることか。想像しただけでも怖いです」


 そんな男が黒十字団にはいるのか。


「あなたがたが強いお方であったとしてもグレルマンには敵わないでしょう。お気持ちは嬉しいのですが、明日の朝にここを経たれた方がよいと思います」


 村長は私たちを気遣ってくれたが、このまま引き下がることはできないな。


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