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入札開始

「おお、すごいな」


「どうしたの、マー君。もしかして、オークションのこと?」


「そうそう。あれからどうなったかと思ってな。今、スマホで出品欄を確認したら、すでに購入希望者がいるみたいだ。それも複数で、競り合っている状況だな」


 オークションへの出品を終えた俺と琴葉はその後、ダンジョンへと潜ることにした。

 いつものように、ロッカーに荷物を預けて装備を整え、暗闇の中へと進んでいく。

 そして、この十日ほど、ほぼ毎日行っているように道中のスライムを倒しながら素材を回収しつつ、モンスターハウスへと向かう。

 そんなふうにレベル上げをしながらの探索を終えた俺たちが数時間後にダンジョンから脱出し、帰るために着替えを済ませた。


 そのとき、俺は琴葉よりも早めに着替え終わったので暇があり、そういえばとスマホでオークションのことを確認したのだった。

 今回は初めての出品だったということもあり、基本的な設定はスタンダードなものとして期限を一週間としていた。

 今日から一週間かけて出品されたポーションを見てもらい、競売してもらう。

 やろうと思えば、こちらの希望額での即決可能な出品という設定もできたが、そうはしていなかった。


 そんな初めてのオークションだが、今まで参加もしたことがないので自分で触ったことがなく、果たして希望者がどのくらい現れるかというの実感がなかったのだ。

 もしかしたら、誰の目にもとまらずに競りが発生しない可能性だってある。

 もし、それが続くようであれば何度も出品するのはもちろんのこと、売り出しているこちらの情報もある程度開示したほうが良いかとも考えていた。


 このオークションだが、測定機械に組み込まれた鑑定水晶を利用していることもあり、商品が全くの偽物である可能性は低くなっている。

 が、詐欺がないわけではないらしい。

 ぶっちゃけ、やろうと思えばいくらでもだましてお金をかすめ取る方法なんてものはあるのだろう。

 なので、普通は出品されたものに対しても警戒はされる。

 そのために、出品者情報としてクラン名を表示したりして、自分たちのクランのブランディングをすることもあるのだそうだ。


 クランの名を広めて有名にし、信用を得る。

 このクランが出品しているのであれば偽物ではないだろう。

 そんな信用を積み重ねて行く必要がある。

 もしくは、出品するものの系統を統一するという方法もあるだろうか。

 例えば、神宮寺さんみたいに【鍛冶師】であっても作るものをアクセサリーで統一すれば、ファンが付きやすいかもしれない。

 そうすれば、気に入った商品を出品したクランをお気に入り登録してもらえて、次に出品した商品のことをいち早く知ってもらい、購入につなげるという方法だ。

 これは神宮寺さんのようにクランを通したオークションではなく、普通のネットオークションでも行われているやり方で、割と王道だろうか。


 だが、そんな王道的なやり方をせず、余計な情報は一切開示せずに出品したのは出した品物がすごいからに他ならない。

 どこのだれが作ったかわからないアクセサリーではなく、ダンジョンによって手に入れたスキルでなければ作れないポーションで、かつ効果が高い六等級ポーションだ。

 これならば、世界中からいろんな品が出品されるオークションであっても人の目を引く。

 そして、誰かが購入希望額を打ち込み、それに対して別の者が競りはじめれば注目度が上がる。


 公式アプリを通して見ることができるオークションサイトには出品されている商品を検索するだけではなく、現在出品されている商品の中から注目の品をピックアップして表示もされているからだ。

 そして、どうやらクラン【M&K】から出品したポーションもそのピックアップに引っかかっているようだ。


「すげえな。出品から開始数時間でもう購入希望額が三百万円を越えているぞ。つっても、DPでの受け取りだから相場で変動するけど」


「オークションに出すとそんなに高くなるんだね。私がレンタルスペースで十等級ポーションを売却していたときは、一つ千円くらいだったから信じられないよ」


「それは買取金額だろ? 俺がギルドから十等級ポーションを買おうと思ったら一万円はするはずだ。即効性があるとはいえ擦り傷を治す傷薬にしては高いけど、まあ、健康保険が効かない薬だと考えればそんなもんなのかもしれないからな」


 ダンジョン探索の薬としては高い気もする十等級ポーション。

 それの購入額は一万円程度だが、それでも売れていたらしい。

 主に美容品としてだ。

 体の傷を擦り傷程度であるが治してくれるそのポーションは、確実な効果を保証してくれた。

 なんちゃらオイルとかを塗るよりも、一本のポーションを飲むほうが美しいお肌が取り戻せるとかで、探索者以外からも買い手があったのだ。


 ギルドは買取金額の十倍程度でポーションを売りさばいていたらしいが、あくどいことだとも言えない。

 その資金は巡り巡ってギルド建物の維持費や人件費に使われているのだから、ダンジョンを利用したい俺たちのような存在からすれば必要なことなのだ。


 しかし、今回の六等級ポーションはそれとは比較にならない効果を持つ。

 しかも、十等級とは違い市場にはあまり姿を現さないレア商品のはずだ。

 だからこそ、開始早々に入札が相次いだのだろう。

 そして、入札期限はまだ一週間ほど残されている。


 もっと高値になるかもしれない。

 というか、なるだろう。

 ピックアップが続けば、さらに注目されるだろうし、そうなればどんどん入札者は増えるからだ。

 いったい、いくらくらいになるのだろうかと気になった俺は、その後も暇さえあればスマホのオークション画面を見ていたのだった。

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[一言] 競り合いは、みてる分には楽しいよね~ 払えわれるかは相手次第
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