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節税

「マー君って最近お金使いすぎているもんね。神宮寺さんが言っていたお金の管理をする人が私たちのクランにもいたほうがいいのかもしれないね」


 俺が仕事で神宮寺さんとコンタクトを取ったことを琴葉は知っている。

 緒方さんからの頼みで【鍛冶師】を紹介するときに、神宮寺さんへ連絡する前に琴葉にも紹介をしていいか確認を取っていたからだ。

 俺と神宮寺さんの関係は琴葉の紹介で始まったので、念のためということだった。

 そして、そんな事情を知っていた琴葉がどんな話をしたのかを聞いてきた。


 すでに仕事終わりに寄った喫茶店は出て、神宮寺さんとは別れている。

 今はF-108ダンジョンにあるギルド建物で琴葉と合流したところだ。

 建物内にあるソファーに座って自販機から缶ジュースを買ったものを並んで飲んでいる。

 ……ちょっと甘味料が気になるかな。

 お野菜ダンジョンで桃ジュースを手に入れて飲んだり、喫茶店で淹れてもらったコーヒーと比べると味が気になってしまった。

 最近はとくに琴葉が料理を作ってくれたりするので、舌が肥えてしまったかもしれない。


「神宮寺さんと別れてから軽く調べてみたけど、かなり奥が深いみたいだったよ。人によっては住んでいる家を事務所代わりにして住宅ローンとか家賃を経費扱いにしてたりするみたいだし」


「……それって、すごいことなの?」


「多分、な。ぶっちゃけよくわからんが、得する話みたいだぞ」


 もっとも、そういうところは小規模クランが多いみたいだけど。

 大手はしっかりとお金の管理をするが、個人で作って数人規模でやるワンマンクランの場合は、クラン設立者が節税対策としてそういうことをするらしい。

 が、それについて書かれたサイトの記事を見ていると、なんとなくだがズルしているんじゃないかという気にもなってしまった。


 実際には法律について勉強した結果なのだろうから、俺の感想は的外れなのかもしれない。

 が、個人規模でそういうことをするなら、常に節税について意識した生活を送ることを求められそうなのがネックに感じた。

 ようするにいたちごっこが続くみたいだ。

 法の抜け道を通るように税金のかからないやり方を実行する者がいれば、それに対しての対策が国から行われるのだ。

 毎年のように法律が微調整され、今まで使えた手法が次の年からは違法となって罰せられることもあるという。

 なので、常に関係省庁の情報を拾い上げて、税金に関しての情報をアップデートし続ける必要があるのだ。


 軽く見ただけでも、俺にそれができる気はしなかった。

 ということは、やはり自分の力では難しそうだ。

 もしも、クランを使って必要経費を処理していくなら、人に頼むしかない。


「神宮寺さんに私たちのクランに入ってもらう?」


「うーん。保留で。興味はあるけど、ぶっちゃけそこまでする必要があるかどうかも分からんし」


 琴葉の言う通り、俺たちのクラン【M&K】に神宮寺さんが入ってもらうという選択肢も頭によぎった。

 【鍛冶師】という【職業】は俺が今後もダンジョンに入るなら魅力的な人材に思える。

 俺は装備を得られるし、神宮寺さんもスキルを鍛えることができるだろう。


 だがしかし、だ。

 問題がある。

 それは俺たちに加入者の身元を調べる能力がない、という点に尽きる。

 それというのも、今後誰かをクランに入れることがあり、その人が社会的な問題を起こした場合も想定しておかなければならないからだ。


 クランはある意味で一心同体の共同体だ。

 ダンジョンを通して得られる利益を共有することができるというメリットがある。

 が、それに対するデメリットとして強い連帯責任が伴うことにもなる。

 加入者の誰かが起こしたトラブルをクランの責任として扱われれば、それまでに得た利益や信用をすべて吹き飛ばすことにもなりかねない。


 なので、そういう人が入ってこないようにクラン加入者は選んでいかなければならない。

 話した感じでは神宮寺さんは大丈夫のような気もするけれど、うちのクランには偉大なる【錬金術師】様がいるからな。

 琴葉の作るポーションから大きな利益が得られた場合に、どんなトラブルが発生するかは予想もできない。

 ぶっちゃけ、神宮寺さんがどんなに素晴らしい人でも彼女の周りの人間がお金のにおいを嗅ぎつけて近づいてくるかもしれないしな。

 もっとも、それは俺や琴葉だけであっても変わらないのだけど。


「まあ、そのことは後でまた考えようか。それよりも、どうだ、琴葉? 今の俺の位階レベルは」


「あ、そうだね。えっとね、【鑑定】したらレベル二十六になっているよ。昨日からまたレベルが上がっているけど、もしかして、私と会う前にダンジョンに潜っていたの?」


「いや、実は朝に入ったんだよ。会社に行く前にね」


「え、そうだったんだ。大丈夫なの? 無理して寝不足になってない?」


「平気さ。【体力強化】のスキルレベルが上がったからか、前よりも疲れにくくなっているし。でも、これでブロンズランクの規定はクリアだな。二人でレベル五十を越えて、平均レベルも十を越えている。ってことで、今から申請しに行こうぜ」


 やっぱりレベルが上がっていたか。

 朝一にほぼ徹夜の状態で見張っていたグリーンスライムの素材入りボトルをダンジョンに持ちこみ、そこで生まれたスライムを倒していた。

 あれのおかげで俺のレベルも上がり、二人合計でレベル五十を越えた。

 これならば、ブロンズランクは問題なくなれるはずだ。


 金勘定ばかりしていても仕方がない。

 さっさと頭を切り替え、俺と琴葉は飲み物を飲み切り、それからクランのランクアップ申請へと向かうことにしたのだった。

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[一言] スライム君が、レベルアップ用グッズ扱い(泣)
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