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経理

「っていうか、神宮寺さんって【鍛冶師】をどの程度続けていくつもりなんですか? 今、大学生ならそのうち就職活動とかでも忙しくなるんでしょう? 働きながら探索者相手の装備づくりで副業しようって感じを目指しているんですか?」


 喫茶店でコーヒーを飲みながらふと思ったことを神宮寺さんへと質問する。

 【鍛冶師】であり、普段は魔銀を使用したアクセサリーづくりをしているという話だったはずだ。

 だが、今回うちの会社からの依頼にかなり前向きに考えているらしいが、今後どうしていくつもりなのだろうか。

 一年契約でやるとしても、毎日装備を作り続けろという話にはならないはずで、定期的に会社にやってきて仕事をこなしてくれれば問題ないので、時間に余裕はあると思う。

 その間に多分就職活動などをすることだろう。


 学割のきく学生時代に探索者ライセンスを取ってスキルを手に入れる。

 そして、それを鍛えて、可能ならば自分の将来に役立てる。

 もちろん、何が手に入るかわからないスキルで自分の人生の進む方向を決めることはないだろうけれど、影響は大きいだろう。

 【錬金術師】になった琴葉はそれでもパティシエを目指すらしいしな。

 だが、【鍛冶師】になった神宮寺さんはどういうビジョンを描いているのだろうかと疑問に思ったのだ。


「私は経営学部に在学しているの。っていっても、大学入試のときに経営者になりたいから志望したってわけではないけれどね。だから、前までは漠然と教員免許を取ったりだとか、筆記の資格でも取って働こうかと考えていたのよね」


「その言い方だと今は違うんですか?」


「まあね。探索者になって【鍛冶師】の【職業】を得てからは、それを活かす仕事をできないかと思っているの。で、【鍛冶】スキルを鍛えてどこかの有力クランにでも加入して、そこで装備を作ったりするのはもちろんだけど、そのクランの運営を手伝えたらなって考えているのよ」


「クランの運営ですか?」


「そうよ。学生がノリで作る仲良しクランなら必要ないでしょうけど、規模の大きなクランになったりすると、そこで得た素材の売却資産やクラン構成員への報酬分配、それに税金関係の計算とか、意外とやることは多いのよ。ほら、さっきも言ったけれど私ってこれでも経営学部に行っているでしょ? だから、会計事務とかも兼ねて働けるんじゃないかと思ってね」


「へえ。面白そうですね。けど、【鍛冶】スキルが育てば、事務仕事するよりもスキルを使って稼いだほうが儲かりそうな気もしますけど」


「そんなの普通は無理よ。有名な、名前の通っている【鍛冶師】の人たちって、実際のところ先行者利益が大きいのよね。ダンジョン開放の初期に【職業】を得て、それを使って毎日のようにスキルを育てていい装備を作れるようになった人が、ほかの人からも求められているし。後発組がそこに食い込むのなら、それこそ毎日起きている時間すべてを【鍛冶】スキルにつぎ込むくらいじゃないと追いつけないと思うのよね。だから、私は【鍛冶】の力だけではなくて、クラン経営の能力もプラスしてって考えているの」


「前も言ってましたね。知名度ないと装備作成の仕事依頼はなかなか来ないって。だから、うちの仕事を引き受ける気になったわけですか」


「そうよ。企業が探索者を抱えてダンジョンに潜る。そのための装備を作る。たとえそれが、【運び屋】だけであっても、F級ダンジョンに入るだけであっても実績になるのは間違いないわ。探索者用の装備を作る仕事をした経験は後々にいかせると思う」


 すごいな。

 自分の未来について神宮寺さんはしっかりと考えているんだなと感心してしまった。

 ただ、どうなんだろうという気もしないでもない。

 そんな経営規模の大きいクランがどのくらいあるものなんだろうか。

 もしあっても、そういうところはすでに事務要員がいると思うんだけど、食い込めるものなんだろうか。

 素直に会社勤めをしてもいいんじゃないかとも思ってしまった。


「クランの構成人数が多いと、会計事務って結構大変になるものなんですか?」


「そうね。サークル活動的なものではなく、設備を持つようになったら特に必要なんじゃないかしら」


「設備ですか?」


「ええ。ダンジョンに潜って素材を得て、それを売却してみんなで分ける。それだけなら各自で確定申告でもすればいいわ。けれど、クラン共有の資産として、例えば事務所を構えるだとか、車を買うだとか。そういうことをするなら、ほとんど会社と同じだからね。適当な処理をしていたら、最悪の場合脱税したとして追徴課税が発生したりもするだろうし、逆に言えば適切な処理をすれば大きな節税効果も得られるわよ」


「……車の購入をクランのものとして処理できる?」


「ええ、もちろん。私用ではなく、社用車として使うならばね。……もしかして、車を買う予定でもあるのかしら?」


「予定っていうか、もう購入はして納車待ちなんですけど。ダンジョンに通うのにあればいいと思って。でも、そうか。それなら、ダンジョン探索用の装備の購入費用とかも経費扱いできるってことなんですね」


「きちんと領収書とかがあればね」


 もしかして、俺の車とか電動アシスト自転車とか、忍者装備とか、あれもこれも経費になるのか?

 なるんだとすればうれしい。

 今までそういうことについて、あまり深く考えてこなかったが失敗だったな。

 あくまでもダンジョンはジム替わりに行くつもりの気楽さだったから、こんなにお金をかけることになるとは自分でも思っていなかったというのもある。


 今からでも、経理関係の勉強をするべきだろうか。

 ……ただ、難しそうだなというのがその考えをためらわせてしまう。

 ならば、俺の代わりにできる人に依頼する、とか?

 神宮寺さんと話をしながら、頭の中は金勘定でいっぱいになってしまったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] そろばんは脳内に用意したけど、弾かずに悩んでるのか~
[気になる点] 神宮寺さんは、経営学部か経済学部のどちらでしょうか?
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