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企業案件

「如月君って意外と失礼ね。私はまだ大学生よ。あなたや鏑木ちゃんとそんなに年齢変わらないんだからね」


 神宮寺さんへと電話をしたら、怒られてしまった。

 雰囲気が大人びて見えていたので、年上だと思っていた。

 それ自体は間違いなかったようだが、まだ学生だったようだ。

 電話口でプンプンと怒っているが、若干からかい気味の口調でもあったのでギリギリ許されている感じだろうか。


「それで、その話は企業案件ということでいいのよね? まさか私が【鍛冶師】としてそういう声がかかるとは思いもしなかったわ」


「企業案件と言えば、まあそうですね。正式な話は俺の上司がしてくれると思いますけど、ダンジョンに入るための装備の整備を頼まれることになると思います。魔銀を使ったアクセサリー作りとは方向性が違いますけど、レンタルスペースで作業するよりは安定した収益になるかと思いますよ」


「そうね。一度、その緒方さんといったかしら? その人にお会いして詳しく話を聞きたいわね。それに、せっかく如月君が連絡くれたんだものね」


「急に連絡してすいません。詳細を聞いてからでも、ダメだったらダメで断ってくれてもいいですから、とりあえず予定が空いている日を教えてもらえませんか」


「あら。私は今日でもいいわよ?」


「今日ですか? 分かりました。いけるかどうか確認してから、また連絡しますね」


 神宮寺さんへの打診は思いのほか好感触だったようだ。

 ぶっちゃけ、断られる可能性も高いのではないかと思っていた。

 ただ、確かにまだ学生であるというのであれば企業からの話というのは興味を引くかもしれない。

 もっとも、企業案件というほどうちの会社は大きくもないし、知名度もないだろうけど。


 それでも、安定的にお金になる話でもあるから神宮寺さんにとって損はないと思う。

 うちの会社で使う装備などを【鍛冶】で作るというのもそうだが、【鍛冶師】には【修理】というスキルもあるからだ。

 俺の使っている忍者もどきの装備もダンジョンで使っていれば傷つくこともあるだろう。

 そういうときに【修理】というスキルを使うことで簡単に直すことができるというわけだ。


 実は、【鍛冶師】という【職業】を持つ者の大半は【鍛冶】よりも【修理】を求められることが多いのだそうだ。

 【鍛冶】は装備品など、対象者の体にフィットした物を作れるが、スキルの成長具合によって待遇が全然違う。

 【鍛冶】スキルが高ければ探索者用装備作りで高額報酬を得られるが、基本的にそれは難しい。


 が、【修理】はスキルレベルにそれほど依存せずに低レベルからでも実用的に使えるのだそうだ。

 そして、それはどんなものに使われるかというと装備ではなく、板金だ。

 つまりは、車などの修理に【修理】というスキルが使われやすいのだそうだ。

 ボディがへこんだ車などをスキルの力で簡単に直すことができるのだから、その効果は有用だろう。

 なので、【鍛冶師】の【職業】を得た者の中にはその手の修理工場や板金屋に雇われることが多いのだという。


 そのため、【錬金術師】のように高給取りになれる【職業】ではないかもしれないけれど、【鍛冶師】もなかなかどうしてくいっぱぐれのない【職業】ではあるのだ。

 もっとも、修理工場で働いたら【鍛冶】スキルを鍛える機会が減って、【修理】ばかりの生活になるのかもしれないけれど。

 実際には車体の傷を直すだけじゃなくて、エンジンだとかタイヤだとか、電子部品も修理工場ならば見なければならなく、それらは【修理】では直せないためにスキルに依存しない技術を習得する必要がある。

 どうやら、神宮寺さんはそれはあまり自分が目指したい未来とは考えていないみたいだ。

 どっちかというと、自分でいろいろ【鍛冶】スキルを使ってものを作ってみたいのかもしれない。

 気持ちはわからなくもない。

 いくら【修理】スキルが便利だからといって、無条件に修理工場勤務を望むかというとそうじゃない人もいるだろうしな。


 その点、普通の修理工場での依頼と違う点がこちらからの提案にはあると感じたのだろう。

 といっても、それは会社がどうこうというよりも、俺が目当てなのかもしれない。

 いや、俺というよりも俺が持っていた魔石だろうか。


 【鍛冶師】としてスキルを育てていきたいならば、スキルを数多く使う必要がある。

 そして、それと同じくらいレベルの高い素材を扱うことも重要だ。

 レンタルスペースで手に入るような低レベルな素材だけで【鍛冶】スキルを育てようとしてもどうしても時間がかかる。

 が、俺や琴葉は神宮寺さんの目の前で高レベルの魔石や素材を提供して装備作成を頼んでいたからな。

 それによって、神宮寺さんは【鍛冶】スキルがレベルアップしたし、それ狙いだろう。


 つまり、うちの会社の仕事を引き受けることで俺や琴葉からの依頼もさらに引き出したいという思惑があるのだと思う。

 そして、それは俺にとってデメリットにはならない。

 むしろ、どんどん【鍛冶】スキルを育ててくれれば、これからも俺の装備の作成などを頼みやすくなるしな。


 そんなこんなで、双方の思惑がありつつも、神宮寺さんとはその日のうちに緒方さんと引き合わせて、企業案件としての依頼を出したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 修理、便利……………
[一言] いや、大学生なら、別に社会人か聞いてもおかしく無いのでは…? むしろ他の年齢帯で社会人か聞くことある…?
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