拒否感
「そういえば、緒方さんは探索者ライセンスを持っていませんでしたよね? 取らないんですか。会社も補助を出すって社長が言っていたはずですけど」
「いや、俺はやらんよ。今回の人事異動で結構忙しいってのもあるが、なんていうかな。あれだ、嫌なんだわ」
「嫌って何がですか?」
「探索者になったら体の中にマイクロチップを埋め込まれて、常に位置情報が監視されるって話だろ。如月は抵抗なかったのか? 俺はあんまりそういう風に監視されるってのは抵抗があってな。今のところライセンスを取る気はない。多分、俺と同じように思っている連中もいるだろうから、職場の中からライセンスを取りに行くつもりの奴は限られるかもな」
育成計画書をそんなに慣れていないパソコンで作成しながら、それをもとに緒方さんと話し合う。
そんなことをしつつ、世間話的に緒方さんも探索者にならないのかと聞いた。
が、どうやら緒方さん自身はやる気はなさそうだ。
マイクロチップの埋め込みによる監視。
これは俺がライセンスを取りに行くときにも気にした部分だった。
実際に昔は結構批判も大きかったらしい。
が、ダンジョンという危険地帯に入ることになる探索者が武器を持ちたがり、そして武器を持った探索者がダンジョン外で問題を起こしたりするケースもあったのだろう。
いろんなことがあり、今はライセンスを取る者は必ず位置情報を確認できるようにしておいたほうが社会秩序を保つために必要だという認識が広がることになった。
とはいえ、それが嫌でライセンスを取りたくないと考える人もそれなりにいる。
ただ、統計的にみると年齢層が高めの人ほど緒方さんのような考えを持つ人が多く、若い層ではそこまで気にしないという者が多いのだろう。
学割が効いて皆がダンジョンに入るようになっているというのも、抵抗感を薄める効力があるのかもしれない。
なので、会社内でもライセンス取得に意欲を見せる人はどちらかというと若い人が多いようだ。
ある意味で、俺にとってもそのほうがいいと思う。
あんまり年上の人が俺の下で育成対象になっても、やりにくさってのはあるだろうし。
「でも、そうなると基本的には新しく【運び屋】の【職業】を持つ人を採用するって形になるんですかね?」
「だろうな。社長とも話していたんだが、今後のことを考えても若いのを入れていくほうがいいだろうって思っている。今は俺みたいなおっさんと違ってライセンスを持つ学生が多いしな。新卒の連中から【運び屋】を採用していきたいが、最初はまあ年齢に縛られずってことになるから、如月には負担をかけることになるかもしれんが頼むな」
「ええ。分かっています。俺も舐められないようにレベルを上げてるところなんで、きっと大丈夫ですよ」
とはいえ、会社が採用する新卒ってのも多分大卒の人のことを言っているんだろうし、うまく軌道にのっても数年間は俺より年上の人が来ることになるだろうな。
今のレベルだけでも十分説得力を持たせることができるだろうけど、やっぱりクランのランクも上げておこう。
ブロンズランクのクラン所属だとなれば、育成するときにもより説得力が増すだろうし。
「そういえば、如月は探索者とは知り合いが多いのか?」
「いや、全然ですけど、どうしてですか?」
「そうか。実は生産職の【職業】を持つ人でいい人がいれば教えてもらえないかと思っていたんだがな。一応、会社都合で社員をダンジョンに向かわせるわけだからな。それなりに装備を整えておく必要もあるって聞くが、どうせなら装備の整備なんかもできる人を紹介してもらえたらと思ってな」
「ああ、そういうことですか。F-108ダンジョンに行くくらいなら初心者装備でもいいと思いますけど、【鍛冶師】なら紹介はできますよ。俺の装備も作ってもらいましたけどいい感じでしたし、話しておきましょうか?」
「いいのか? 頼む。その人は社会人か?」
「えっと、どうなんでしょう。年上ですけど、働いているのかな? 聞いてみますよ」
【鍛冶師】の神宮寺さん。
年上の姉御肌の女性だが、そういえば仕事とかしているんだろうか。
落ち着いている感じから働いていてもおかしくないが、大学生かもしれない。
あの時は琴葉の紹介で装備を作ってもらうために会っただけだったので、気にもしていなかったし、覚えていないな。
ただ、苦無や防具を作ってもらい、今後も整備をしてもらうことも考えて連絡先は教えてもらっていた。
スマホを取り出して、神宮寺さんにメッセージアプリを使って通話してみることにしたのだった。
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