経験値効率
「うーん。複雑な気分だな。あっという間に俺のレベルを琴葉に抜かれるなんてな」
「ごめんね、マー君。色付きのスライムさんたちの経験値って全部私がもらっちゃったんだよね?」
「ああ、いいよ。琴葉がいないとこのスライム亜種を生み出すことはできないんだしな。それに琴葉のレベルを上げる目的でダンジョンに来たんだから、結果オーライだしな」
あれからしばらくして、再び俺の背負う荷物からスライムたちが誕生した。
回復用のポーションを投与したグリーンスライムとは別に、毒消しポーション入りから生まれたブルースライムと、麻痺消しポーション入りから生まれたイエロースライムとでもいうべきスライムたちだ。
結果から言うと、こいつらも全然強くなく、核である魔石のレベルと同じくレベル十相当のスライムであり、俺の苦無による投擲一撃で倒すことができた。
そして、その結果得られたのは三つある。
青色をしたスライムの粘液と、黄色をしたスライムの粘液。
これらはそれぞれ毒消しポーションや麻痺消しポーションを【調合】する際に効果の高いものを生み出すための素材となりえるものであるようだ。
さらに三つ目として得た経験値。
この二体のスライム亜種を倒すことで琴葉の位階レベルは二十六になっていた。
俺の二十三を軽々と超えてしまったことになる。
「もしかしたら、このスライム亜種というか、色付きスライムたちは本当ならばもっと危険度の高いダンジョンで出てくるモンスターなのかもしれないな」
「F級ダンジョンじゃなくて、もっと上のランクのダンジョンってこと?」
「ああ。このランク付けは人間が勝手につけたもので基本的にはそのダンジョンが危ないかどうかを考慮してつけたものだと聞いている。けど、単純な危険度以外にも中にいるモンスターを倒したときのレベルの上がりやすさなんかも考慮されているってのは聞いたことがあるからな」
世界中に現れたダンジョンはまだまだ未知のことが多い。
危険度でランク付けしたものも、あくまでも国などが把握している情報で分けただけのものだ。
なので、単純にダンジョン内部が溶岩などで満たされていて、入った瞬間にその内部の気温の高さなどで命の危険がある高ランクダンジョンなどもあるという。
けれど、基本的には中に現れるモンスターの強さがランク付けにはかかわっている。
そして、はっきりとした統計を取るまでには至っていないものの、これまでの経験則で強いモンスターを倒したほうがレベルが上がりやすいということは間違いないと言われているのだそうだ。
逆に言うと弱いモンスターを倒していてもレベルは上がりにくいことを意味する。
雑魚モンスターといわれるスライムを何千体も倒して数レベル上げるくらいなら、そこそこ強めのモンスターを一体倒したほうがレベルが上がりやすいのだ。
そう考えると、いかにこのダンジョンでレベル上げするというのが本来は非効率か分かるというものだろう。
モンスターハウスは百以上のスライムがひしめき合っている。
そのモンスターハウスにいるスライムを全滅させ、そして【収集】で効率よく経験値を回収し、肉体に収めても数レベル上がるだけなのだ。
【収集】を使えるのは【運び屋】くらいで、その【運び屋】はハズレ【職業】と呼ばれてダンジョンに積極的に潜る環境にはなっていない。
ならば、レベル上げをしたい戦闘職の連中は非効率な状態でスライムを倒さなければならないわけだ。
だが、モンスターハウスが見つからなければ二時間から三時間、このダンジョン内をさ迷い歩いてもスライムと出会うのは多くても十数体にとどまるだろう。
ほかのダンジョンもそうだ。
ダンジョン入口で高頻度にモンスターに襲われることにでもならない限り、なかなかモンスターと出会いたくても出会えないのだ。
だからこそ、たいていの探索者はレベルが上がれば次のステップへと進む。
スライムを倒してモンスター退治に慣れてきたら、次はゴブリン退治へと進むわけだ。
俺はまだゴブリンというモンスターと戦ったことはないけれど、きっとスライムよりも経験値はあるのだと思う。
そうして、ゴブリン退治に慣れてレベルが上がれば、次のステップに進むためにダンジョンを変える。
こういうふうにレベルを上げるために自分にあったダンジョンを渡り歩くことになる。
だが、ここで気になるのは強いモンスターを倒すと経験値がより多く手に入るというところだろう。
これはおそらくは正しい。
が、もしかしたら、モンスターの個体レベルだけではなく、種類そのものが経験値にかかわってくるのかもしれない。
つまりは通常スライムは倒しても得られる経験値が低いが、スライム亜種になると得られる経験値が圧倒的に上昇するのではないかということだ。
たとえ、色付きたちのレベルが十であっても、もとのスライムとは比べ物にならないほどに。
と、仮定するとさらに気になるのはスライム亜種のレベルを十以上にしたときに得られる経験値の量だろうか。
もしかしたら、レベル十のものよりも二十・三十の相手を倒したほうがさらに劇的に経験値が得られるかもしれない。
要検証だな。
さらなるレベルアップの手がかりを得た俺は、より効率よくレベルを上げられる方法はないかと考え始めたのだった。
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