思わぬ効果
「……よっわ。普通のスライムと変わらんくらいの強さみたいだな」
回復用のポーションを混ぜて生み出したグリーンスライム。
明らかに粘液の色が緑色に変わるという変化が見られたために、スライムの亜種であると思う。
これまでこのダンジョンでの探索では一度も見かけたことがない。
モンスターハウスを何度も撃破してきた俺はすでに千体近くのスライムを相手取ってきたので、間違いないはずだ。
そんなスライムの亜種であるはずのグリーンスライムは俺の苦無の投擲で倒れ伏した。
そして、即座にその核と粘液は【収集】により俺の持つ荷物の中へと収められている。
あまりにもあっけないためにこの実験は成功したように見えて、その実、失敗だったのではないかと思ってしまった。
「ちょっといいかな、マー君。さっき倒した緑色のスライムさんの粘液を見せてもらえないかな?」
「ん? いいけど、これが気になるのか、琴葉?」
「うん。なんとなくだけど、私の【調合】スキルが反応しているような気がするの」
あまりのあっけなさに俺が若干興ざめしていたのにたいして、琴葉のほうは違ったようだ。
グリーンスライムが生み出された際に距離を取るようにして後方に離れてもらっていたのだが、近づいてきて少し興奮気味に声をかけてくる。
グリーンスライムの粘液になにやら興味があるようだ。
すぐに先ほど【収集】したばかりの粘液入りのボトルを琴葉へと手渡した。
「やっぱり。多分だけど、この緑色の粘液はポーション素材としてよさそうだよ」
「そうなのか? っていうか、もともとスライムの粘液はポーションの素材になるって琴葉が言っていただろ。ってことは、普通の粘液よりも効果が高まるってことになるのか?」
「やってみないとわからないけど、多分そうだと思う」
「へえ、いいこと聞いたな。ってことは、まだこっちの二つも同じような効果を高める粘液を採れるスライムになるかもしれないってことか」
グリーンスライムの粘液。
俺が勝手にそう心の中で呼んでいるだけだが、その緑色の粘液は回復用のポーションを作る際に素材として使用すると効果を高めてくれる感触が琴葉の【調合】スキルにはあるようだ。
今ですら、あまり出まわることのない六等級ポーションを作れるのに、この新しい粘液を使えばさらに等級の高いものが出来上がるということだろうか?
いや、それだとやはりレベルの高いスライムの粘液のほうがいいのかもしれないな。
魔石には各個でレベルの差が存在していたし、粘液もレベルによる素材としての価値の違いがあってもおかしくないと思う。
さらに、もしそうならば、毒消しポーションや麻痺消しポーション入りのボトルのほうも同じような結果が得られるかもしれない。
より効果の高い各種ポーションを作れる粘液が手に入る可能性もあるだろう。
ということは、今後琴葉に高い等級のポーションを作成してもらおうと思ったら、一度作ってもらったポーションを使ってスライム亜種を生み出してから、そいつらの粘液を回収後に再度【調合】してもらう必要があるってことか?
なんだか手間がかかかるが、時間や手間をかけるコストに見合うのだろうかとも思ってしまう。
「あれ? え、すごいよ、マー君」
「うん? 今度はどうしたんだ、琴葉? 粘液以外にもなにか変わったことがあったのか。もしかして核である魔石に違いが出たとか?」
「あ、ごめん。そうじゃないよ。魔石は今までと普通の魔石だね。レベルも十のままだし」
「じゃあ、どうしたんだよ」
「魔石のレベルは同じなんだけどね。私のレベルが上がっているの。二十になってる」
「……はあ? 今のスライム一体倒しただけでか? さっきまでレベルは十七だったんだろ?」
冗談だろ?
今日、このダンジョンに入る前に琴葉のレベルは八だった。
それが道中の通路にいるスライムを倒しながら、三つのモンスターハウス化した小部屋を殲滅することで琴葉のレベルは十七にまで上昇していた。
モンスターハウスは一つで百体近くいてもおかしくないくらいのスライムがいたんだ。
なので、三百体近く倒して、なおかつ【収集】で経験値を回収して効率よくレベルを上げて九上がったことになる。
それなのに、グリーンスライムを一体倒しただけでレベルが三も上がるのか?
しかも、核になる魔石は倒す前も後もレベル十の状態のままだ。
なので、以前倒したレベル三十二の高レベルスライムに近い経験値を大した危険もなく得られたということになるのではないだろうか。
モンスターハウス、いらなくね?
いや、待て、焦るな。
何かの間違いという可能性もまだ捨てきれない。
幸いに、まだスライム亜種が生まれる可能性のある実験用ボトルがあと二本もあるんだ。
そいつから変わったスライムが生まれてくるかどうかにもよるけれど、それを倒してレベルが上がるかも確認してみよう。
あっという間に俺のレベルへと近づいた琴葉に驚きつつも、俺は残り二本のボトルに急いで魔力精製水を貯めるようにダンジョン内部の水分を【収集】し始めたのだった。
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