グリーンスライム
「今、位階レベルはどのくらいになってるんだ、琴葉?」
「えっとね、私のレベルは十七だね。……なんか本当にいいのかな? 私は全然戦ってもいないのにレベルを上げてもらってばかりだし」
「いいんだよ、別に。俺がやりたいからやっているだけだしな。って、いよいよ実験の結果が出そうだな。動き始めた。ちょっと俺から離れていてくれ」
F-108ダンジョンを琴葉と一緒に周り、三つのモンスターハウスで大量のスライムを倒したところで、琴葉のレベルを確認する。
もう十七になったそうだ。
早いな。
二日前の俺は何時間もこの暗闇の中をさまよっていたが、今日はモンスターハウスになっているであろう場所を最短経路で回ったからか効率よくレベルが上げられた。
ちなみに、前と同じで俺がスライムを倒してその時に得る経験値のすべてを琴葉の肉体へと【収集】している。
そんなふうにレベル上げを行い、そろそろ帰還しようかというころになってようやく実験していたボトルに動きを感じた。
背中の荷物にわずかな違和感があったのだ。
ただの容器ではあり得ない内部からの振動を感じたため、そのボトルを洞窟内の地面に置いて距離を取る。
俺からさらに琴葉には離れてもらっておいた。
「あれは回復用のポーションを入れたボトルだな。さて、どうなるかな」
実験の結果、分かったことがある。
それは、ボトルの中にスライムの核である魔石と粘液、そして各ポーションを入れるだけではおそらくスライムは復活しないということだ。
おそらくだが、魔力精製水もスライムが復活するためには必要なのだろうと思う。
琴葉の【鑑定】によって全く同じレベル十に統一した魔石を使って試したのだけれど、それぞれのボトルに魔力精製水を入れる量を変えていたことからそう考えた。
回復ポーション入りには多めにダンジョン内部の魔力精製水を【収集】し、それよりも少ない量を毒消しポーション入りボトルに【収集】していた。
さらに麻痺消しポーション入りは魔力精製水は【収集】しないようにしていたのだ。
結果、最初に反応があったのがポーション入りということで、魔力精製水は必要であろうと判断したが、少量を【収集】している毒消しポーション入りがどうなるかだな。
全部同じ条件にして三つのボトルが同時にスライム再生とならないようにした工夫だったが、これならうまくすれば時間差でスライムを生み出すことができそうな気がする。
まあ、その辺は何度か試して見る必要がありそうだな。
そんなことよりも、今は目の前の敵に注意する必要があるだろう。
レベル十の魔石を使用していることで、レベル十相当の強さのスライムが生まれることは間違いないと思うが、ポーションが加わったことでどう変化があるのか。
それともないのかが重要だ。
「……色が変わったか? 緑っぽく見えるな」
ポーション入りボトルを内部から破壊して出現したスライム。
その姿を見て、思わずつぶやく。
これまで見たスライムとの違いがある。
それは色として現れていた。
前に見た高レベルスライムのような硬さのある粘液ではないようで、ドロッとしているが、それが緑色のように見える。
暗い洞窟内ではあるけれど、俺の頭や腰のライトとドローンからの照明で間違いないと思う。
明らかにポーションの影響だろう。
回復ポーションは素材の薬草がヨモギっぽいからか【調合】を使って作ると緑色の液体になって現れるのだ。
ちなみに毒消し草から作る毒消しポーションは青色で、麻痺消しポーションは黄色かったりする。
「……で、どうやって変化を確かめたらいいんだろうな」
そんな緑色をしたスライムを見て考え込む。
ひとまずグリーンスライムとでも名付けようか。
こいつは果たして特殊な能力を持つスライムなんだろうか?
こちらからいつでも攻撃できるように苦無とマチェットを持ってみているのだが、相手の能力を引き出すような戦い方は俺にはできないのだと今更ながらに気が付いた。
というか、スライムはその体の大半が粘液でできている。
その液体部分を棒でたたいてはじいたとしても、スライムの核が無事であれば再び粘液が集合して一個体として活動できるのだ。
なので、倒し方としては核を攻撃するのが王道だ。
俺は遠距離からの攻撃でいつもそうしてきた。
このグリーンスライムがもし異物として混入したポーションの力を自身のものとして回復魔法のような能力を持っているかもしれないと思ったのだが、どのようにしてそれを確かめたらいいだろう?
相手の体を切り刻んで回復するかをみたところで、液体がひとつにくっつくだけなら通常のスライムと変わりないからな。
どうせ検証するなら毒や麻痺のほうから確かめるほうがよかっただろうか。
「ま、いいか。油断大敵だしな。さっさと倒しておこう」
どうしようかと考えたものの、ここはダンジョンの中であることを思い出し、すぐに考えを切り替える。
検証や実験も大切だが、一番は無意味にケガをしないことだ。
特に今回は琴葉も俺の後ろにいることだしな。
さっさとグリーンスライムを倒すべく、俺は地面にドロッとしているその緑色の液体の中の核に向かって苦無を投げたのだった。
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