異物混入
「お待たせ、琴葉。待ったか?」
「ううん。そんなことないよ。マー君のほうこそ、今日は早かったんだね?」
「ああ。これからは午後からダンジョンに入れるようになるかもしれない。その場合は携帯にメッセージ送るようにしておくよ」
仕事を早く終えてやってきたるはF-108ダンジョン。
いつもの暗闇洞窟ダンジョンへと潜るために、琴葉との待ち合わせだ。
車が納車されれば俺が琴葉を迎えに行くこともできるのだが、今はまだないのでギルド建物での合流となった。
先に来ていた琴葉は準備ができていたようだ。
俺は着替えをすますためにロッカーへと荷物を入れる。
そして更衣室で昨日手に入れた新たな装備を身にまとった。
魔鋼製の装備に身を包んだ忍者スタイルだ。
だが、大きな荷物を背負っており、若干違和感を感じるなと姿見に写る自分の姿を見て思ってしまった。
背負子を背負っているというのがなんとも【運び屋】らしいと感じてしまう要因だろうな。
荷物を最低限にすれば俺の【職業】は忍者である、と言えそうだけれどこれだと無理か。
というか、黒を基調にしたこの装備はF-108ダンジョンにあっているのかそうでないのかも考えものかもしれない。
「暗闇の中に全身黒ずくめの男がいたら、ほかの探索者をびっくりさせちゃうかな?」
「うーん。どうだろうね。確かに黒一色の人が洞窟の通路の向こうから出てきたら驚きそうだけど、マー君の場合はドローンが周りを飛んでライトで光っているから大丈夫じゃないかな?」
「あ、言われてみればそうかも。そう考えると全然忍者とは言えないよな。忍んでないし」
着替え終わった俺はそんなどうでもいいようなことを話しながら琴葉と一緒にダンジョンへと潜っていく。
目的は琴葉のレベル上げだ。
馬鹿の一つ覚えと言えるかもしれないけれど、モンスターハウス化した小部屋がある。
二日前にこのダンジョンに入った時に魔力精製水を置いてきたので、今日時間内に行ける範囲内では三か所くらいでレベルを上げられることだろう。
「そういえば、今日はなにか実験しないの?」
「ん? 俺、実験するって言ってたっけ?」
「言っていなかったよ。けど、いっつも話を聞いていたらマー君ってなにかの実験をしてるじゃない? だから、今日もなにかするのかなーって思ったの」
「さすが、俺のことをよくわかっているな。今日はまた、スライムの再生実験をしようかと思っているんだ」
「え、一昨日やったやつだよね? 危ないことはやめておいてほしいんだけど」
暗闇のダンジョンの中をモンスターハウスに向かって移動しているときだ。
琴葉が今日は実験しないのかと尋ねてきた。
そして、俺はそれにイエスと答える。
今日も試してみたいことを思いついていたのでやってみる気でいたのだ。
それはこの間もしたスライムの再生実験だ。
あの時は高レベル魔石とスライムの粘液、そして魔力精製水を注ぎ込んだボトルから高レベルのスライムが誕生した。
それもまたやりたいとは思っているのだけれど、さすがに今日はするつもりはない。
琴葉が一緒にいるのにあの強さのスライムと戦うことになったら、やっぱり危険のほうが大きいからだ。
俺がケガするだけなら別にいいんだけれど、琴葉を守ることができないからな。
いくら位階レベルが上がったとはいえ、俺は人を守りながら戦う力はないのだし。
なので、今日の実験では強いスライムを作り出すということはしない。
その代わり、別系統の再生実験を行ってみるつもりだ。
「どうするつもりなの?」
「スライムの亜種が作り出せないか試してみようかと思っているんだ」
「スライムの亜種?」
「そうだ。前はもともとスライムの体を構成していた素材を容器に入れておいてレベルが高いスライムが復活した。なら、その中に異物を入れたらこれまでに見たことのないスライムが出来上がったりしないかなと思ってね」
「あ、そういうことね。スライムの核と粘液と一緒に別のものを入れておくってことよね? でも、何を入れてみるの?」
「やっぱり液体かな。ってことで、琴葉のポーションを使ってみてもいいかな?」
俺が考えたのは魔力精製水を入れてスライムができるのであれば、ほかの液体はどうだろうかということだった。
なんとなくだが、ボトルの中に石や岩を入れてもストーンスライムみたいなものはできそうにない気がしたしな。
だが、代わりの液体といっても水を入れてもしょうがない。
ならば、ポーションはどうだろうかと思ったのだ。
昨日琴葉が作ってくれたポーション。
それも回復ポーションだけではなく、毒消しポーションや麻痺消しポーションもある。
貴重なそれらを入れるのはもったいないと普通ならば考えるだろう。
が、お野菜ダンジョンで琴葉と素材を採取してきたので、今ならば試してみることも可能だ。
各ポーションの素材はまた取りに行けばいいのだし。
そんな俺の提案に少しだけあきれたような顔をしながらも琴葉はオーケーを出してくれた。
そこで、俺は現れたスライムを苦無の投擲で倒して、そこから回収したスライムの核と粘液をボトルに入れ、そのボトルにそれぞれの効果のポーションを入れていく。
三種類のボトルを背負った状態で俺たちはモンスターハウスを回って、集まったスライムを倒しながら、スライムの亜種が生まれないか様子を見続けたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけけますと執筆の励みになります。




