社長の経歴
翌日からは再び仕事のある一週間が始まる。
が、今週からは俺の仕事内容は結構変わることになった。
というのも、もともとの倉庫仕事は午前中のみでよくなったからだ。
俺のレベルが上がることで作業効率が各段に上がったことで、それに対応するために少し荷物を受け入れる量を増やすことにしたそうだ。
が、急に一気に増えるわけでもなく、また増やしすぎるわけにもいかない。
なので、午前中にある程度やった後の時間は社長や緒方さんとの話し合いに当てられることになった。
今後に入ってくるであろう【運び屋】の受け入れ態勢や社内での人材の探索者化の育成についてである。
そして、そこで俺は初めてわが社の社長が探索者であったことを知った。
どうやら今まで大っぴらには公開していなかったようだ。
極秘事項というわけでもないのだろうけれど、触れ回らないでくれよということで教えてもらったところによると、社長は【商人】という【職業】なのだそうだ。
かつて、別の会社で働いていたころの社長は当時公開され始めたダンジョンに興味を持ったそうだ。
そして、その時にライセンスを取ることにした。
そこで得たのは【商人】の【職業】と【スキル】であり、しばらくダンジョンで活動した後、ダンジョン探索からは一切手を引くことにしたのだという。
理由はあまりにもダンジョン内での戦いには役に立たない【職業】だったからだ。
知り合いとともに武器を持ち、ダンジョンに潜っても弱いモンスターしか倒せずレベルもまともに上がらない。
すでに家族もいて、仕事でも働き盛りの年齢になっていたということもあり、時間をかけて位階レベルを上げるという選択肢は取れなかったのだ。
その代わりではないけれど、日常生活では【商人】のスキルを使うようになった。
【商人】にも【鑑定】はあるが、それよりはむしろ【交渉術】や【商売勘】というスキルがメインとなったようだ。
これらのスキルは魔法のような劇的な効果があるわけではないけれど、使えれば少し有利に働く効果があったそうだ。
そんなこんなでその当時の社内でも業績を上げ、その後、独立して今に至るということになる。
その話を聞いて納得した。
多分、俺の話を聞いて【商売勘】とやらのスキルが発動したんじゃないだろうか。
そうでなければ、社長の動きが速すぎると思う。
俺がダンジョンに入るようになり一週間ほど、仕事の速度が劇的に変わったのもたった二日目あたりで社内体制に変更を加えるなんて、普通ならばできないだろう。
多分、自分自身のこととして知っていたんだろうな。
スキルのレベルを上げるのはとてつもなく時間がかかってしまうということに。
そして、位階レベルに至っては社会人をやっていてあげる余裕なんてほとんどないということに。
そんななかで、俺がそれをやってのけて、実際に仕事で活用できるくらいになっているのを見てビビッときたのだろう。
おかげで、俺は【運び屋】チームの副主任という一見パッとしなさそうな役職にもかかわらず、結構な昇給額を提示されている。
年収はなんと五百万アップだそうだ。
社会人一年目の新人に対して出す金額ではないような気もするが、それだけ重要視してもらっているということだろう。
さらに給与面だけではなく、活動の自由度も上がるようになりそうだ。
というのは、今日は話し合いで午後の時間を使ったが、これからは午後からもダンジョンに潜ってもよくなりそうなのだ。
これから会社に入るであろう【運び屋】を効率的に育てるためにも、俺の仕事は倉庫での作業よりも人材育成になる。
そのために、どのダンジョンでどのように育成をしていくかを研究するための時間というわけだ。
準備期間ということだな。
なので、これからは午後からはダンジョンに行ける時間ができるのだけれど、さすがに趣味の活動とは違うのでそこらへんは俺も頭に入れておこう。
社長から言われていることは、ほかの人も育ててほしいが、極力ケガなどはないように気を付けてほしいとのこと。
多分、倉庫業の会社で就業時間内に社員がダンジョンに入り負傷した場合の労災などの対応が気になるのじゃないだろうか。
なので、社長や緒方さんと話し合い、どこまでが許容範囲かを確認しながら育成計画を立て、それが実行できる準備を整えていくことになる。
ま、その過程で俺のレベルを上げても問題ないだろう。
というわけで、俺はとりあえずの計画をまとめて、早めに事務所を出てダンジョンに向かうことにしたのだった。
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