お野菜ダンジョン風景
駅から歩いて十分程度の距離にある探索者ギルドの建物。
そこに入り、所定の手続きを行った後、一度入口とは別の扉を通って外に出る。
そこにダンジョンの入り口があった。
ライセンスを持たない者が勝手に出入りしないようにという管理なのだろう。
若干こんもりとした盛り土のような場所があり、その下に潜り込むような形で穴が開いていた。
人が並んだら三人程度は横になれるくらいの幅があり、なだらかな下り坂になっているように見える。
どうやらお野菜ダンジョンことF-47ダンジョンは小規模な入口のようだ。
もっと車なんかが乗り入れられるくらいに大きければ非公開のままだったのかもしれないな。
だが、この大きさでは軽自動車が無理やり突っ込んでいけたとしても、行きと帰りの車がお見合いになって途中で立往生しそうだ。
だからこその一般公開なのだろう。
そんなあなぐらに潜り込むようにして俺と琴葉はダンジョンに侵入していく。
多分、初めてこのダンジョンを見つけたのが俺だったら、こんなところに入ったりしなかっただろうな。
いつ崩れてくるかわからないし、どこまで続いているかもわからないからだ。
が、今は違う。
中にお野菜ダンジョンがあるというのは情報として知っているし、なによりほかにも多くの人が中へと向かって歩いているからだ。
カジュアルな恰好をした人もいるし、親子連れもいる。
中で手に入るであろう野菜を採るために気合を入れてスコップやなんやを持っている人もいれば、大きなカメラを首から吊るしている人もいる。
明らかに危険な場所に行くために準備をしてきた俺のような人のほうが少数派という感じだった。
そんな周囲の人たちの様子を見ながらも、しばらく歩いていると、奥のほうから光が見えた。
これまでの洞窟というか土の中を通る穴が終わりを告げる光といった雰囲気がある。
「す、すごいな。ダンジョン内の写真をネットで見たことはあっても、やっぱ実際の光景を自分の目で見ると信じられないな。穴の中を進んでこんなところに出るなんてさ」
「にへへ。私も前に一度来た時に驚いちゃった。不思議だよね〜」
穴を通って出た先は目の前一面が平地だったのだ。
のどかな田園風景といった感じだろうか。
だが、決して歩いていて外に出たわけではないのはわかる。
なにせ、このF-47ダンジョンに来るまでに俺は電車の中から外の風景を見ていたのだから。
駅の近くであり、大都会というわけではないが、駅近くには商店が多数あり、そこから少し離れれば住宅街が続いているごく普通の街並みが確かにあったのだ。
決して穴の中を少し歩いただけで地平線が見えそうな田園地帯にたどり着くことはできないだろう。
が、実際に目の前にはそんな風景が広がっている。
明らかにここが今までの常識とは一線を画す場所であるというのが認識できた。
「上は空になっている、ってわけでもないんだな。でも、明かりがあるからさっきまでよりはよっぽど明るいし、これならライトもいらないってことか」
「うん。ただ、注意しないといけないのがお野菜ダンジョンの光は外とは連動していないみたいなの。だから、午後遅めにダンジョンに入るときには、気を付けないと中が明るいのに外は夜中になっちゃうとかってあるみたい」
「ああ、そういうこともあるのか。ま、今回は朝一番に来たからそういう心配はないだろうな。えっと、とりあえずサクランボ方面に行くんだよな。方角はこれでいいのか?」
「うん。ライセンスを取った時に登録したスマホにアプリを入れているよね? それを使えばこの入口がある方角がわかるから、それを基準にして行けば間違うことないと思うよ」
一般公開されたダンジョンの中でもこのF-47ダンジョンは親切設計だ。
もちろん、それはダンジョンが意思を持って親切なつくりをしてくれているというわけではない。
一般公開を決めた国がライセンスを取得した探索者に助けとなる設備を用意してくれているということだ。
入口からの穴を抜けて広々とした空間に出たそこにはプレハブ小屋のような物が建っていた。
そして、その建物の屋根からは周囲に向けられたアンテナのようなものがいくつもある。
このアンテナから電波を飛ばしてこの出入り口の場所を把握しやすくしてくれているのだ。
一本道のダンジョンならば道なりに進んで、帰るときはその逆にいけばいいが、こういう地平線が見えそうな場所はあんまり離れたら方向すら見失うのだろう。
方位磁石すらあてにはならないらしいこのダンジョンではアプリが帰宅地点を把握できる距離までに探索を押さえておくのが安全につながるということになる。
もちろん、さらに遠くまで行けばもっといろんな発見があるのかもしれないが、それは命知らずなもの好きがやればいいことだ。
今の俺たちの目的は変わらず甘い果物にある。
こうして、俺はアプリを参考にしつつ、お目当てのサクランボ採取地点に向かってのどかな風景の中を歩き進んでいったのだった。
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