オーブン焼きとシャーベット
「おいしい。ウサギの肉ってのは初めて食べたけどうまいな」
「本当だね、マー君。お肉に臭みがあんまりないのはダンジョンのウサギさんが桃を食べてたからなのかな?」
「さあ、どうなのかな。もしかするとそれも関係しているのかもしれないな」
ギルド建物で解体してもらったウサギ肉。
ギルド建物でパック詰めされたものを氷が溶ける前に俺の家に持ち帰ってすぐに食べることにした。
ちょっと早い夕食だ。
琴葉の家に持って帰って食べるにはウサギ一羽の肉では少なすぎるということで、俺たち二人で食べたのだがすごくおいしい。
ちなみに調理法は琴葉が香辛料などを【調合】で組み合わせてウサギ肉に揉みこむようにしてからオーブンレンジで加熱しただけのシンプル料理だそうだ。
琴葉は肉の臭みがどうなるのかを気にしていたみたいだけれど全然気にならなく、肉も柔らかくおいしかった。
ウサギを狩ってからの帰りのルート上にあった野菜を少し持ち帰っていたので、それらも一緒に付け合わせているが大満足の料理だった。
「はい。食後のデザートだよ。マー君はあんまりゼリーは食べたくなさそうだったから、桃ジュースをシャーベットにしてみました」
「悪いな、琴葉。うん、これもおいしい。桃はそのまま食べても、ジュースにしても、シャーベットにしてもどれもありだな」
メイン料理を堪能した後はデザートタイム。
琴葉は桃のジュースに砂糖や塩を加えるだけで作ることができる桃シャーベットを作ってくれた。
まだなんとなくスライムの粘液を食べる気がしない俺に気を使ってくれたのだろう。
そんなシャーベットだが、冷凍庫で冷やすには時間が足りずに固まりきってはいない状態だったのだが、十分以上においしかった。
ジュースの状態でどれほど保存ができるかわからないけれど、シャーベットのように冷やして冷凍庫で保存できるのであればもう少し長持ちさせることもできるだろうか。
まあ、桃ジュースの残りは琴葉に任せるとしよう。
「今日のダンジョンはどうだった? なにか気になることはあったか、琴葉?」
「え、楽しかったよ、マー君。また今度お休みの時に一緒に行こうね」
「ああ、一緒に行こうな。自転車はどうだ? 疲れたりとか、どこか体に痛みは出ていないか?」
「ううん、大丈夫だよ。それにマー君のおかげで私のレベルも上がっているからね。これで前よりも体力がついているんだよ」
「たしかにな。琴葉は運動部でもないのによく動けているよ。今日だって自転車の長距離移動のほかに薬草採取や桃をとったりもしていたもんな」
「そうでしょ。実は最近、学校の体育の授業でも前よりも動けるようになっているんだー。もともとは皆に遅れるっていうか、すぐ疲れて動けなくなっちゃってたからそれがなくなったのがうれしいんだよね」
そうか。
デザートのシャーベットを食べながら琴葉とのんびりと話していたが、琴葉は位階レベルの上昇についてを学校での授業で体感していたのか。
俺が職場での倉庫仕事で無双できるようになったのと同じように、体育の授業で琴葉の動きにも以前との違いが現れていたのだろう。
もっとも、まだレベル八の状態では元が小動物チックな雰囲気を持つ琴葉ではクラス内で無双できるほどではないものの、上位陣の動きに近いくらいにはなっているのだそうだ。
「琴葉のレベルももうちょっと上げておこうぜ。ギルドのレンタルスペースで周りから声を掛けられるって神宮寺さんとの話でも言っていたけど、学校でもそういうのはあるんだろう?」
「……うん、まあそれはあるよね」
「厳しいクランに加入しているから、そこから絶対にほかの人にポーションとか作ったらダメって言われているって言って断ってみるのもいいかもね。クランの人間以外にポーションの譲渡なんかしたら、お互いに問題になるからってな」
琴葉の【職業】が【錬金術師】であるとどの程度の人が知っているかは知らない。
が、クラスメイトと一緒に探索者ライセンスを取りに行っているから、知っている人は知っているのだろう。
そこからどれくらい情報が広がっているかは分からない。
が、琴葉が【錬金術師】であると知っている人もまさか琴葉が十等級以外のポーションを作れるとは知りもしないだろう。
十等級ポーションは擦り傷などを治す効果があるだけだが、それ以上になると性能は格段に上がってくる。
俺も腕の骨が折れたかもしれないダメージをダンジョンで負ったが、八等級でそれが治り戦闘続行できた。
そんな即効性の高い薬は下手すると数十万から数百万円してもおかしくはない。
高校のクラスメイトにそんな金額を払える者はいないだろうし、ポーションの受け渡しなんてした日には間違いなく問題になる。
それを防ぐためにも琴葉のレベルはもっと上げておこう。
加入しているクランが【錬金術師】でも位階レベルをどんどん上げることができる強豪クランであると思われれば、声をかけてくる連中も減るだろうしな。
「マー君は今レベル二十三だったよね? 私はどのくらいまでレベル上げしておいたほうがいいのかな?」
「そうだな。今週中にレベル二十以上にはしておこう。俺と二人でレベル合計五十以上になるようにな」
俺は昨日のF-108ダンジョンでの探索でレベルが上がっていた。
それまではレベル十一だったが、数時間以上にもわたって暗闇の洞窟ダンジョンを歩き回り、新たなモンスターハウスを発見しそこにいたスライムを全滅させ、さらには高レベルスライムを作り出して倒していたからだ。
ただ、あの時のようにスライムのレベルを上げてそれを倒すというやり方を琴葉にするのはちょっと怖い。
俺の装備は強くなったけれど、それでも琴葉がケガするのは避けておいたほうがいいだろう。
なので、基本的にはモンスターハウスを作り出し、そこで大量のスライムを狩ることにする。
そして、琴葉と俺のレベルを上げて、クランメンバーの総レベル数を上げることを当面の目標にしようと思う。
いずれはもっと上げたいが、ひとまずは五十。
それを目標に今週は活動していくことを琴葉と話し合ったのだった。
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