素材売却
「すごくきれいに処理をされていますね。もしかして【解体師】の【職業】の方ですか?」
「いいえ。違いますよ。ウサギを持ち帰ったのも初めてなんですけど、それでやり方とかは大丈夫そうですか? 一応、家に持って帰って食べてみようかと思ったんですけどいけますかね?」
「はい。問題ありません。状態がいいので、こちらが解体したウサギ肉を持ち帰っていただければ食べられますよ。ただ、もしも今後もダンジョンでウサギを狩ってくるつもりであればクーラーボックスと氷を持ち込んでいくことをお勧めします」
お野菜ダンジョンでウサギを倒した後は素直に出入口まで戻り、ダンジョンを出た。
そして、そこにあるギルド建物でウサギを解体してもらう。
どうやら、ダンジョンで得られる【職業】には【解体師】というのもあるようだ。
ダンジョン内から持ち帰られたウサギの処理は普通に職人みたいな人が解体してくれるのかと思っていたが、もしかすると【解体】スキルを持つ人がやるのかもしれないなと考えながら話をする。
別にスキルなしでもウサギの解体くらいはできるのだろうけれど、スキルがあれば時間短縮できたりするのだろうか。
俺が【解体師】だったらスカウトされたりしたのかな?
「持ち帰るのはウサギの肉だけですか? 毛皮はどうします?」
「んー。どうしようかな。琴葉はウサギの毛皮っている?」
「毛皮はいらないかなー」
「そっか。それじゃあ、毛皮は売却でお願いします」
「承知しました。カードの提示をお願いします。受け取りはお金とDPどちらにしますか?」
「DPで、クラン【M&K】の口座に入れておいてください」
そういえば、今まで全然ダンジョン素材の売買ってしてこなかったな。
F-108ダンジョンでは魔石やら魔力精製水なんかは毎回全部持って帰っていたし。
今回はウサギ肉や桃ジュースは持ち帰るけれど、ウサギの毛皮だけは売ることにした。
そして、その報酬はDPで受け取る。
ダンジョン素材を得てそれを売る際には日本円で受け取る以外にもDPというもので取引できるようになっている。
これはダンジョンポイントと呼ばれるものだ。
日本でもダンジョンが一般公開されることになった後、いろいろあってこの形に落ち着いたという経緯があるらしい。
というのも、日本では結構ダンジョンについて管理がしっかりしている。
ほかの国では探索者の制度などなしで自由にダンジョンに入って、誰でも内部の素材を持ち帰ることができるところもあるらしいが、日本ではそうではない。
ダンジョンは国が管理し、危険度の高いところや貴重な素材、有用な素材が採れるダンジョンは非公開とし、一般に開放しても問題ないというところにだけ入ることができる。
そして、ダンジョンで得られる素材も基本的にはギルドを通して売買するようになっている。
しかし、そうなるとダンジョンの素材を取り扱うのは国内ではギルド、つまりはダンジョン管理庁のみであるということになる。
それは、一つの組織が独占状態になる、ということでもあった。
はたしてそんな状態で正当な値付けがなされるものだろうか。
どんなに希少で危険な場所からでしか持ち帰ることができない素材でもギルドが安値で買い取ってしまう、なんてことが起こりえるのではないか。
そんな声が上がったらしい。
もちろん、国としてもそんなことはないと声明を出している。
が、言うだけならばどうにでもなるので、実際に現実で求められる値段と連動した買取金額に近づくようになる制度が求められたそうだ。
そして、使われるようになったのがDPだ。
これは日本国内だけではなく、世界各国で使われている制度で、それをギルドが導入したということになる。
かつて、世界中でダンジョンが出現し、それを各国が調べて、情報を共有しようとした。
その際に国連などのような世界をまたにかける機関を新たに作るようにしたのだそうだ。
世界ダンジョン機関(WDO)だ。
そして、そこが国際的にダンジョン素材の流通を促進することを目的に、DPを使い始めたのだという。
DPとはようするに仮想通貨に当たるようなものだそうだ。
ダンジョンの素材を取引する際にドルでも円でもなく、DPという仮想通貨をもとに世界各国で取引するように制度を整え、それに日本も加わったらしい。
なんでそうなったのかはよく知らない。
が、世界中で取引されているダンジョン素材の値段がDPで確認できるということになる。
世界的な機関で使われているDPの相場であれば日本にあるギルドの独占状態とは言えずに市場の相場で価格が決まるから文句はないだろうということになるのだろう。
ちなみに、DPは仮想通貨であるためにダンジョン素材を売って得た報酬であっても税金がかからないというメリットも一応あったりする。
俺はともかく、琴葉はまだ学生であり、あんまり稼ぎすぎて扶養家族から外れると困るとゆかりさんにも言われているしな。
世界的に見てもダンジョンから得られる素材は有用なものが多く、DPの価値は年々高まっている。
なので、今ウサギの毛皮をDPで売っておけば、十年とか二十年たてば同じDPであっても数十倍の価値になっている可能性があるというわけだ。
もっとも、DPの価値が暴落している可能性もあるので、どうなるかは分からないが、まあウサギ程度の売買金額であれば大きな損にはならないだろうし、別にいいだろう。
そんなことよりも、このウサギ肉を食べてみよう。
解体した肉を袋に氷袋を添えて入れてもらい受け取った。
ただ、いくら氷で冷やしても長時間はもたないだろう。
早いところ家に持ち帰り、食べようということでさっさと帰宅することにしたのだった。
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