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持ち帰り処理

「う、ウサギさんが……」


 俺が苦無を投擲したことで、それまで桃を幸せそうな顔で齧っていたウサギが倒れた。

 それを見て琴葉が悲しそうな顔をする。

 一応このウサギもモンスターではあるのだが、人間を見ると無条件に襲い掛かってくるようなアクティブモンスターではないし、気持ちがわからないでもない。

 が、倒してしまった以上、それを放置するわけにもいかない。


「持って帰るか。自分ではウサギの解体なんてできないけど、ギルド建物で解体してくれる人がいるらしいし」


「ウサギさんを食べるの?」


「……そうだな。モンスターとはいえ生き物の命を奪ったんだから、いただくのが筋ってものかもな。解体した肉を家に持って帰ってみようと思う」


 俺は初めてのお野菜ダンジョン探索でウサギを倒せなかった。

 が、日々多くの人が入るこのダンジョンではウサギを倒して持ち帰る人はいるのだろう。

 持ち帰ったウサギを解体してくれるらしい。

 有料だがそれほど高くないと耳にしたこともあるし、頼んでみようと思う。


 しかし、そのためにもウサギの死体の処理くらいはしておいたほうがいいだろう。

 倒れたウサギの体を持ち帰るためにどうすべきかをアプリを見て情報を得る。


「えっと、動物型のモンスターで食べられるやつは血抜きと内臓処理だけでもしておきましょう、か。モンスターっていってもジビエと同じ扱いみたいだな」


 この現実に現れたダンジョンでモンスターを倒した場合、ドロップアイテムになって手元に残る、なんて便利なことはない。

 ウサギを倒したらウサギの肉と毛皮がダンジョン内に残されるわけではなく、倒したままのウサギがそのまま残っている。

 なので、それを持ち帰ることになるのだが、すぐに出入口に戻れる距離ならばともかく、そうでないならば自分でもある程度のことはしなくてはならない。

 このウサギの場合ならば、血抜きなどの処理くらいは自分でしておいたほうが、いざ食べるときの味の質にかかわってくるのだそうだ。


「血抜きは【収集】を使えばできそうだな」


 桃の木のそばで桃に噛り付きながら倒れたウサギ。

 その体には苦無が刺さっている。

 その苦無を【収集】で回収すると、傷口からは血が出ているが、それをビニール袋に入れるように【収集】をした。

 ウサギの血がビニール袋に集められていく。

 多分、普通の血抜きとはやり方が違うのだろうけれど、あまり血で汚れたくないのもありスキルの力を最大限に使うことに決めた。

 ウサギの体内からも「一番肉のおいしさが保たれるくらいに血を抜く」イメージで血を【収集】していく。


「次は内臓処理か。桃を食べていたこともあるし、肛門から腸はとっておいたほうがいいみたいだな」


 モンスターが霞を食っていきているみたいに魔力だけで生活しているのであれば必要ないことなのかもしれない。

 が、少なくともこのウサギは桃を食べていた。

 ならば、口から消化器官につながっているはずだ。

 で、あとでウサギを食べるのであれば、持ち帰る際には内臓もとっておいたほうがよいとのこと。


 マチェットはウサギの体に対していささか大きいというのもあり、神宮寺さんに【鍛冶】を施してもらった苦無で処理をすることにする。

 今更だが、以前よりも投げやすくなっていた苦無は遠距離にいたウサギに簡単に命中させることができた。

 重心のバランスが良くなっているんだろう。

 そして、切れ味もよくなっているようで、ウサギの腹から肛門にかけてを切ると簡単に切ることができた。


 胸からお腹を縦に切り、お尻にある肛門周りをぐるっと切り取る。

 この肛門からつながっている腸を上手に引っ張ると引き抜けるはずだ。

 が、これはうまくやらないと途中で腸がちぎれたりしたら内部の便などで汚れることもある。

 そして、なにより臭いのきつい作業だそうだ。


 なので、この内臓処理の作業もスキルの力に頼ることにした。

 苦無で切った後に肛門から腸の【収集】を行った。

 血を入れたビニール袋の中にそれらしいものが【収集】されたので、袋の口をしっかりと縛る。

 鼻をつく臭いもせず、血に濡れずに作業を終えることができた。

 後に残ったのは血と腸を抜き取られ、腹を捌かれたウサギの姿だけが残っている。


「終わったよ、琴葉。大丈夫か?」


「うん。初めてみたからちょっとショッキングな感じだったけど、漫画とかでも解体シーンって見たことあったから大丈夫だよ」


「漫画で? そんな漫画見ることもあるんだ?」


「農業学校の漫画で、畜産している学生さんの話だったかな。飼育した生き物を自分たちで食べるときに、生き物に感謝してこういう作業をするっていう話があったんだ。マー君がいきなりウサギさんに苦無を投げたときはびっくりしたけど、食べることになるんならちゃんとしないとね。……でも、やっぱりショック受けたんだからね」


 さすがにいきなりウサギを倒して、その体を捌き始めたのはやりすぎだったと思う。

 モンスターとはいえ生き物を捌く光景を見て琴葉が大丈夫かと不安になったが、意外と琴葉は気丈なところを見せてくれた。

 とはいえ、本当にその漫画とやらの影響だけなのだろうか?

 琴葉も位階レベルが上がっているし、もしかするとそれによる精神的な強さの上昇が関係しているのかもしれない。


 なんにせよ、【収集】の働きのおかげでそれほど時間をかけずにウサギを持ち帰るための処理を終えることができた。

 だが、素人仕事でもあるし、なるべく早く持ち帰ったほうがいいだろう。

 処理を終えたウサギ肉をビニール袋を何重にも重ねて包み、さっさと持ち帰るために自転車に乗って帰還することにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ、冒険者?やり続けて、錬金術レベルを上げていくつもりなら、慣れないとね(・・)(。。)うんうん いつまでも、お野菜ダンジョンでおんぶに抱っこじゃあ、自分のレベルは上がらないもんね …
[気になる点] 銀の匙かな?
[一言] 琴葉のメンタル強すぎ。 愛でてる最中に倒すとか琴葉の気持ちとか気にも止めてないし金のことしか考えてないしで前話と今話の主人公からは狂気しか感じないです。
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