ドローン映像
「さて、と。これからどうする?」
お野菜ダンジョンの中を自転車で走り、薬草採取を行った俺たち。
採取した薬草や毒消し草、そして麻痺の実を琴葉が【鑑定】し、それぞれのレベルごとに袋分けした後はレジャーシートを敷いて少し早めのお昼ごはんにした。
琴葉が作ってきてくれたサンドイッチと暖かい紅茶をゆっくりと楽しむ。
それが一段落ついたら、これからのことについて相談した。
このままダンジョン内でなにかをするのか。
それとも帰路につくのか、だ
その決定権は琴葉にゆだねている。
というのも、ダンジョン探索は女性にとっては長時間やりにくい面があるからだ。
男ならばダンジョン内で催すことがあっても、そこまでは困らないだろう。
そこらの木陰で用を足すだけだ。
だが、女性ではそうはいかない。
誰が見ているかわからないような場所でそんなことは気楽にはできない。
それに自転車についての問題もあった。
今回のダンジョン探索用に楽に走れるように電動アシスト機能つきのクロスバイクを購入した。
中古ではあったが、一応琴葉が乗ることを考えて女性向けのサイズにしてある。
そのため、走りやすいとは思うのだが、唯一気になる点としておしりの痛みが出ないかどうかというのがあった。
普段、家の近所を移動する程度であれば全然気にならないのだろうけれど、長い時間自転車に乗るとサドルが常におしりを圧迫し続けて痛みが出ることもあるらしい。
しかも、このダンジョンは整備された道路が一切ない。
俺が走りやすそうなところを先導していたので、大きな石を踏んでしまうことは避けられていたはずだが、それでも凸凹した土の上を走り続けていた。
今は平気でもさらに走り回ったら痛みが出る、となれば問題だろう。
そのため、琴葉にどうするかの確認をしたのだ。
「そうだねー。できれば、今日もおいしい野菜とかを持って帰りたいかな。もう戻るよりは、ぐるっと回る感じでいこうよ」
「自転車に乗っていて痛みは出てないか?」
「心配しすぎだよ、マー君。私だってマー君にレベルを上げてもらったんだから、まだ一時間も自転車に乗っていないのに痛くなったりしないよ。それに、もし痛くなったらポーション作って飲むからへいきー」
「おお、さすが【錬金術師】様。気軽に高価な薬も使いたい放題だな。じゃ、近くになにかないか調べてみようか」
どうやら、もうしばらくダンジョンを回ることができるようだ。
ならば、探索としゃれこもう。
そのためにも、俺はレジャーシートに腰を落ち着けたまま、ドローンの操作を開始した。
空高くに飛び上がるドローン。
こいつは普段は俺のそばを飛ばすだけしか使っていない。
洞窟型のF-108ダンジョンでは上空に打ち上げるということができないからだ。
発信機を自身の体に取りつけて、自動追尾するように設定している。
が、ドローンの使い方というのは決してそれだけではない。
むしろ、基本的には自分で操作して遊ぶのが主流だろう。
このドローンも自動追尾ではなく、ラジコンのように操作して飛ばすことができる。
そして、それをスマホの画面越しにドローンのカメラからの映像を見ることができた。
薬草群生地の上に高く飛ばしたドローンが上空からの映像をスマホに映し出すのを俺と琴葉がみる。
ひとまずはダンジョン出入口の方向を確認し、そしてそれ以外に周囲の三百六十度すべてをぐるっと回り、見渡していく。
地上からは見えない場所を高所から見下ろしていく感覚。
詳細な映像とは言えないけれど、かなり遠くのほうまで見ることができた。
「あれ。ここに何かない?」
「ん? どこだ、琴葉? 気になるところがあったか?」
「うん。スマホを貸してもらえるかな、マー君。えっと、こっちの方向にさっきなにか見えた気がする」
そういって琴葉がスマホを操作し、ドローンの向きを変えてカメラを向ける。
そして、気になったという部分を指で指し示してきた。
……なにかある?
一瞬、判断がつかなかったが、さらにドローンを操作して、その気になる場所へと近づけるように飛ばしていくことでようやくそれがなにか分かった。
「桃っぽいな?」
「そうみたいだね。おいしそう」
「お野菜ダンジョンで桃が採れるって知ってたか?」
「ううん。知らない。パンフレットにも載っていないし、知らない人が多いんじゃないかな? ほかに人もいなさそうだし」
どうやら、そこには桃がなる木があるようだ。
果樹園ではないけれど、ピンク色をしたおいしそうな桃のようなものがついた木が何本もあるのを発見した。
どうやらパンフレットはあくまでも簡易的な案内図の役目を持つだけで、すべての情報を記載しようとする意思は最初からないのかもしれない。
桃が採れるというのは載っていなかったが、それゆえにほかの人がいる気配はなかった。
意外と時速が出るドローンを飛ばしたからか、それなりに距離はあるが、自転車ならば問題なくいける距離だ。
このダンジョンで採れたサクランボがおいしかったことを考えると、桃もおいしいに違いない。
琴葉のほうを見ると目が合い、うなずきあった。
せっかく見つけたのだから行くしかないだろう。
こうして、俺と琴葉は桃を目指して再び自転車にまたがり、走り始めたのだった。
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