供給過多
「薬草のほかに毒消し草と麻痺の実。いろいろあるもんなんだな」
お野菜ダンジョンでの薬草採取に来て、それ以外のものも手に入れることができた。
薬草は正しいかどうかは分からないが、外観はヨモギの葉っぱみたいな感じのものだ。
毒消し草はドクダミみたいなやつ。
そして、麻痺の実というのはそれこそ普通の雑草みたいなやつを引っこ抜いたら、地面の下の根っこ部分に小さな赤い粒がついている草だった。
琴葉がいうにはどれも【調合】で使うことができるらしい。
木の周りにある薬草群生地でそれらを採取したが、毒消し草や麻痺の実は数が少なかった。
多分知らなかったら持ち帰らなかっただろう。
ちなみに、スマホアプリの画像検索でも調べると確かにこれらが毒消し草や麻痺の実であると表示される。
知っている人にとっては当然知っているべき知識なのかもしれない。
ただ、一般の探索者にとってはそれほどありがたいものでもないのだろうな。
ぶっちゃけて言えば、このダンジョンに来る人はほとんどがレジャー気分でしかない。
町中にある広場というか、公園みたいなところで自由に野菜を持ち帰る許可が出ている場所という認識だ。
そのなかで人気のサクランボなどもあるが、基本的には自分たちが食べる分だけの野菜を持って帰るのが目的で、決してダンジョン探索で採取をして金を稼いでやろうというものでもないのだろう。
そして、意外なことに薬草や毒消し草などは持ち帰っても高値で買い取りしてくれるわけではないらしい。
スライムを倒して得られる魔石も一つ百円もしないくらいの安さで驚いたが、薬草とかはキロ数百円という安さだった。
地面にしゃがみこんで草を引き抜き、それを大量に持ち帰って外食一回できるかどうかくらいの値段にしかならないようだ。
「こんなものなんだな。もうちょっと買取金額が高いのかと思っていたよ」
「そんなわけないよー。もし薬草が高価買取しているんだったら、レンタルスペースで【調合】の練習用に自由に使えるように置いているわけないしねー」
「ああ、そう言われればそうか。琴葉は何枚か薬草を持ち帰っていたけど、それで怒られるわけでもないんだもんな」
「そうだね。なんか、ずっと研究はしているみたいだよ。【調合】スキルなしでもお薬が作れないかって。でも、できていないから、スキルを持たない人にとってみると薬草とかは本当にただの草なんだろうねー」
考えてみればそうか。
薬草が非常に低価格での買取になっているのは供給過剰なんだろう。
というか、このお野菜ダンジョンの野菜も意味不明だ。
ダンジョンの出入り口近くの安全な場所にたくさんの人が来て野菜を持ち帰る。
しかし、それでもいままで野菜がゼロになったという話はないらしい。
人気のサクランボだってそうだ。
朝一に行けば採れるが、休日の昼には採りつくされて無くなっているというサクランボだが、毎日採ることができている。
どういう理屈なのかは知らないけれど、採ってもとっても時間がたてば再生するのかもしれない。
そして、それは多分この薬草なんかも同じなのだろう。
群生地がある薬草。
その群生地から大量に薬草を持ち帰っても、そこが根絶することはなく、再び薬草採取ができるのかもしれない。
もしそうなら、薬草はいくらでも手に入ることになる。
しかも、この薬草は【調合】スキルを使えばポーションになるが、スキルを使わなければ一切活用できないのだそうだ。
そのまま食べても傷が治るということはなく、すりつぶして塗り付けても無意味。
科学者が薬効を探そうと研究したが、現時点ではその研究は実を結んでいないのだという。
なので、【錬金術師】がいなければいくら薬草があっても役に立たない。
それでも買取をしているというのは、琴葉のように新たに【錬金術師】という【職業】につく者を育てるために必要だからだろうか。
「なにしているの、マー君?」
「ん。いや、実験かな? また来週ここに来よう。その時に今日よりもいい薬草ができててほしいなと思って、ね」
薬草の価格についてを話題にしながらも、琴葉はスキルを使っていた。
【鑑定】のスキルだ。
俺が適当に引っこ抜いて鞄に入れていた薬草や毒消し草などを【鑑定】し、それぞれの個体レベルごとに分類してさらに袋分けするという作業をしていたのだ。
俺のほうは琴葉が分けた薬草類をもう一度袋に詰めなおすという作業をしていたのだが、その合間に実験をした。
それは水やりだ。
今しがた草をむしりまくった群生地に、水を撒いていく。
もちろん、ただの水ではない。
俺がここまでにくる道中で【収集】していたダンジョン内の水分、つまりは魔力精製水だ。
薬草などが生えていたこの地点はおそらく再び薬草が生えてくるはずである。
そこに魔力精製水を撒いておく。
この行動に意味があるのかはわからない。
が、スライムが魔石と粘液、そして魔力精製水で復活したのだ。
だったら、この水遣りにも意味があるかもしれない。
「ついでだし、魔石も地面に埋めておいてみるか」
スライムと薬草は全然違うものだと思う。
が、どちらもダンジョンというものが存在しなかった時には地上にはなかったものだ。
ならば、ある意味では似ている存在ともいえるだろう。
だったら、スライムと同じような条件で試すのもありか。
そう思った俺は昨日のF-108ダンジョンで作り上げたレベル三十の魔石を群生地に埋めて、その周辺にしっかりと魔力精製水を撒いておいたのだった。
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