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群生地に向かって

「大丈夫か、琴葉?」


「うんー。大丈夫だよ、マー君」


 お野菜ダンジョンをE-Bikeで走る。

 牧歌的ともいえる風景の中、柔らかい謎の日差しを受けつつ、風もなく湿度もないというサイクリングをするには非常に良い環境のこのダンジョン。

 前回は危険なダンジョンを自転車で無警戒に走る人を見かけて危ないんじゃないかと思ったが、なかなかどうして気持ち良いものだ。


 このお野菜ダンジョンは最寄りの駅の改札を出たら街全体が探索者歓迎の雰囲気を出していたことを思い出す。

 もしかすると、自転車を貸し出すレンタサイクルでもやれば儲かるかもしれないな。

 ここに生えている野菜を収穫すると、それが意外と重たかったし、荷物を運ぶための移動手段としても需要は大きそうな気がする。


 気持ちよく走りながら、そんなことを考えていた。

 ただ、常に後ろにいる琴葉には気を配る。

 いくらアシスト機能がついた自転車であるといっても、疲れないとも限らないからだ。

 というか、俺は無意識に走るとついついスピードを出しすぎてしまうようだ。


 いまさらながら、レベルを上げた【運び屋】は自転車と相性がいいのではないかと思った。

 力も前よりも格段に増しているし、体力もある。

 ぶっちゃけ、俺の自転車にはアシスト機能はいらなかったかもしれない。

 日本の電動アシスト自転車にはリミッターが付いているからだ。

 ある程度のスピードを出すまではそれを補助してくれるのだけれど、一定のスピードに近づくほどにその補助機能は失われる。

 むしろ、スピードが出すぎないように制限がかかるといってもいいかもしれない。

 公道を電動アシスト自転車が爆走しないように法規制されているのだそうだ。


 俺の今のレベルであれば、その制限以上に自転車を楽に走らせることができる。

 なので、アシスト機能がついていてもあまり変わりないのだ。

 ゆっくり走るだけならば、ぶっちゃけ何時間走っても疲れない。

 そのため、俺だけならば何も補助機械が付いてないスポーツ自転車のほうが変に重量物が付いていないために楽だったりする。

 もっとも、これは今日、家からお野菜ダンジョンまでの道路を走って初めて気が付いたのだからもうしょうがない。


 まあ、急ぐ必要はないか。

 整備された道路でもないし、出せるからと言ってスピードを出したら転倒する危険が増えるだけだしな。

 俺はこまめに琴葉へと声をかけ、琴葉が自然に出せるスピードを把握し、それに合わせて前を走るように心掛けた。

 薬草群生地までは一直線には行けないようなので、ときどき停まって地形も把握しながら木々や岩場などを迂回して進んでいく。


「見えたな。あそこだ」


 ダンジョンに入って一時間くらい走ったころだろうか。

 ようやく目的地が見えてきた。

 大きな木が一本生えているのが目印で、その木の周囲に薬草がたくさん生えているのだそうだ。

 自転車でそこそこの距離を走り続けて到着した場所だからか、ダンジョンの出入り口からは思ったよりも距離がある。

 そのためか、ほかにここに来ている人はいないようだ。


「それじゃあ、さっそく薬草を集めていこう〜」


「ちょっと待て、琴葉。ここがダンジョンだって忘れていないだろうな? 一応念のためにモンスターがいないか周囲を確認しておこう。自転車に乗ったままでいいから、あの木の周りをぐるっと一周回っておこうぜ」


「あ、そうだよね。うん、そうしよう」


 お野菜ダンジョンは最低ランクのF級ダンジョンの中でも特に安全といわれる場所で危険なモンスターは出ない。

 基本的にはそんな共通認識で一般の探索者はここに来ている。

 が、それはあくまでもこちらの勝手な認識だ。

 ダンジョン出入口近くには非アクティブモンスターと言われるウサギがいるだけだが、出入り口から離れて奥深くに行くと攻撃性の高いモンスターも出るのだ。

 そして、そのモンスターも明確にどこに出ると決まっているわけではなく、ダンジョン内を移動したりする。

 なので、ここが完全に安全であるとは言えない。

 そのために、念を入れるようにして群生地の周りを見回ったが、モンスターの姿は見られなかった。

 ひとまずは薬草採取にとりかかっても大丈夫だろう。


「よし。それじゃ、薬草を摘んでいこう。俺はとりあえず適当に草を引っこ抜いていくけど、琴葉は【鑑定】使いながらレベルの高い薬草があれば積極的に回収していってくれ」


 以前にこのダンジョンに来た時と同じように採取していく。

 俺は【収集】の力を使い、薬草だけを特定の袋に【収集】していくように設定した。

 こうすれば、あたり一面の草を抜いていけば自動で選別してくれる算段だ。


「あ、ちょっと待って、マー君。ここ、薬草以外にも素材が生えているみたい」


「え、そうなの?」


「うん。ほとんどは雑草でその中に薬草があるって感じなんだけど、それ以外にも毒消し草とかがあるみたい」


「へえ。パンフレットには書いていなかったけどそういうのもあるのか。なら、それも回収していこうか」


 ダンジョンに入る前の商店街などで無料配布されているパンフレットにはなかった情報。

 毒やら麻痺やらといった事柄に関する草もここにはあるらしい。

 ただ、数は少ないらしいので、わざわざ一枚の紙に記載するほどのことではないと省かれたのかもしれない。

 が、せっかくなのでそれらも合わせて【収集】することにした。

 俺と琴葉はその後、もくもくと草むしりをし続けたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] さて薬草に魔力ぶち込んで強化はできるのか。……マンドラゴラに化けたりしないよね? [一言] 草むしりは素材採取の基本にして究極。単純作業を延々とやる羽目になるんよ……
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