探索目的
自宅近くの駅から一時間もかからないくらいで到着した先に今日の目的であるF-47ダンジョンがある。
琴葉いわくお野菜ダンジョンだ。
俺にとってあまりなじみのない駅だったのだが、改札から出てその光景に驚いた。
「お野菜ダンジョンにようこそ」とアーチ状の看板が設置されており、道路の両脇にはいろんな店がずらりと並び、そこに多くの人が歩いていた。
「……これ、みんなダンジョンに行く人なのか? なんというか、カジュアルな恰好の人が多いんだな」
周囲の人の姿を見て、俺は自分の姿に若干場違いな感じを受けてしまっていた。
俺は気合をいれてダンジョンに備えていた。
ダンジョン用に厚手の専用服というのをネットで注文したものを着こんでいるし、足の脛や腕なんかは軽量でありながらも硬さのある専用プラスチックカバーなるものをつけるために用意している。
そして、モンスターに対処するための武器として刃渡りが長いわけではないがまぎれもない刃物であるマチェットなんかも用意していた。
これは、法改正され位置情報を把握された探索者であれば銃刀法違反にならないものだそうだ。
さらには歩きやすく、足を守れるように登山用の靴だとか、サブウェポンにもなる丈夫な棒もある。
極めつけは、【運び屋】なんていうものになってしまったがゆえに、琴葉のためにも荷物を持って歩けるようにと思い新しく大型の鞄や背負子もある。
こうして列挙してみると、ダンジョン装備というよりは登山家みたいな感じかもしれないな。
アルプスなどを登る登山家を助けるための現地のポーターって感じだろうか。
当然、俺の気合は琴葉にも当てはまっており、背中の大きなカバンこそないものの彼女にも似たような恰好をさせている。
俺が用意しプレゼントしたものだった。
だが、今になって分かった。
俺がダンジョン装備を用意していた時の琴葉の苦笑いの意味だ。
琴葉には、ずいぶん気合を入れているんだな、とでも思われていたのかもしれない。
なぜなら、このお野菜ダンジョンに向かう多くの人はまるでそこらの低い山にハイキングにでも行くかのような気楽な服装と装備だったからだ。
「お野菜ダンジョンのパンフレット、ねえ。観光地みたいになってんだな」
「そうだね。このダンジョンは中に入っても非アクティブモンスターばっかり、ってことで自分たちから手を出さない限りは襲われないからね」
「みたいだな。まあ、奥まで行けばそうとも限らないらしいけど」
駅の改札を出て、ダンジョンへ向かう道すがらに置いてあったフリーのパンフレットを一部手に取って、歩きながらパラパラと眺める。
俺の見ている部分を見て、隣で琴葉が言ってくるように、このお野菜ダンジョンでは自分たちから何かしない限りはモンスターには襲われたりしないらしい。
もっとも、必ずそうだ、と断言はできないようだ。
ダンジョンの奥に行けばアクティブモンスターもいるようだし、厳密にエリアが分かれていないために入り口近くにもアクティブモンスターが現れることもあるらしい。
なので、モンスターには十分に気を付けるようにとパンフレットには書かれているのだが、それでも周りの人間にとっては安全なダンジョンであるという認識なのだろう。
そして、このパンフレットは決して注意喚起だけを目的にしたものではなかった。
一応の注意書き程度に危険なことは伝えてはいるものの、一番伝えたい内容というのはどこでどんな野菜が採れるかというものだった。
ダンジョン入口から入ってどの方向に進めば、どんな野菜があるのかを簡略化した地図で示してくれているのだ。
ありがたいことである。
「電車の中で琴葉の狙いは甘い果物だって言ってたね。ってことは、これが今日のお目当てなのか?」
「そうそう。この場所にはサクランボが採れるんだよ。前に行ったときは数が少なくて私は二粒しか食べられなかったんだけどね、すっごくおいしかったんだよ」
「へえ。ならそこに行こうか。うまく見つかるといいな」
「うん。楽しみだねっ」
なんというか、本当にピクニック気分になってきてしまった。
だが、ある意味ではきちんと目的があるというのもいいことだろう。
むやみにダンジョン内を徘徊するよりは、そのサクランボを食べることを目的にダンジョンに潜る。
それもまた探索といえるかもしれない。
こうして、二人の目的を意思統一して、俺たちはお野菜ダンジョンへと突入することとなったのだった。
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