魔銀装備
「頭・右腕・左腕・胴体・右脚・左脚の計六点。合計で六万円いただくわよ」
「あ、追加で注文いいですか? 琴葉の分もお願いします」
神宮寺さんが俺の装備を作ってくれた。
頭の装備はF-108ダンジョンで頭部用のLEDライトを使うこともあり、胴体と同じように魔鋼を糸のように引き延ばして使った水泳帽のようなものだ。
防御力がものすごく高いわけではないけれど、万が一のときに脳を衝撃から守ってくれるかもしれない。
そんな装備を受け取って忍者スタイルになった俺は、支払いをしながらも追加注文を行った。
琴葉の装備だ。
いつでも気軽に【鍛冶師】に会えるわけではないので、せっかくなので頼んでおこうと思ったわけだ。
「鏑木ちゃんの防具を? ここのお野菜ダンジョンくらいなら今つけている基本装備でも十分じゃないかしら。それに彼女、【錬金術師】なんだからわざわざダンジョンに潜る必要なんてないんじゃない?」
「お野菜ダンジョンであっても危険はありますよ。とはいえ、俺よりも力はないから金属装備は重たいかな? できれば、今の装備の上からつけられて安全性を高められるようなものがあればお願いできませんか、神宮寺さん」
「ずいぶんと優しいのね。そうね……。これだけのレベルの素材が扱えるのなら魔銀装備にしてみたらどうかしら?」
「魔銀? なんかすごそう、っていうか高そうな名前のやつが出てきましたね」
「ダンジョンで採れる鉱石の一つよ。銀色に見えるけれど、本当の銀とは違うわ。軽いうえに、意外と衝撃に強くて防具向けにも使用されているわね。重たい装備は避けたいけれど、少しでも防御力が欲しい人向けという感じかしら」
「へー、すごいんですね。でも、手に入るものなんですか?」
「ええ。少しだけれど、私が持っているから。素材に使用する分の魔銀をこちらから提供するから、それを鏑木ちゃんが魔石と【錬金】して精製してくれたら、それを防具にしてみるというのはどうかしら?」
「……いつもわざわざ持ち歩いているんですか? その魔銀ってやつを」
「そんなわけないでしょう? たまたまよ。けど、私が普段から【鍛冶】に使っているのは魔鋼ではなくて魔銀のほうなの。防具作りよりもアクセサリー作りがメインなのよね」
魔銀について神宮寺さんに話を聞く。
どうやら、【鍛冶師】というのはあまり現実的に儲かる【職業】ではないらしい。
探索者が喉から手が出るほどに欲しがる高レベル【鍛冶師】でもなんでもない神宮寺さんはレンタルスペースで用意されている素材にスキルを使いながら、少しでも収入になることはできないだろうかと考えていたようだ。
そして、目を付けたのが魔銀だった。
ダンジョンで手に入る魔銀鉱石。
それに【錬金】スキルなどを使用して精製することで手に入る魔銀。
これを使って装備を作るのではなく、おしゃれなアクセサリーを【鍛冶】で作り出したのだそうだ。
ダンジョン素材ではあるものの、ミスリルとはまた別物である魔銀は、特殊な効果などはない、ただの軽くてきれいな金属だ。
なので、その魔銀アクセサリーはネット販売ができた。
指輪やネックレス、ピアスなど。
サポートAIの力も借りておしゃれなアクセサリーを3Dモデリングで生み出し、それをスキルで具現化していく。
日常的にスキルも使えるし、収入はそこそこプラスになる。
というわけで、神宮寺さんは【鍛冶師】の力を武器防具ではなくアクセサリー作りに振り向けていたのだそうだ。
そのため魔銀の在庫も定期的に補充しており、今日もこのギルド建物で受け取ることにもなっていたのだとか。
「へー。すごいじゃないですか。有名ブランドみたいに名前が広まればいい商売になりそうですね」
「いいえ。そんなに甘い世界じゃないのよ。なんていったって、形が分かればスキルで簡単に同じようなものが作れるのだから」
「あ、なるほど。真似されやすいってことですか」
「そういうこと。だから、ほかの人ができないようなスキルレベルまで【鍛冶】を上げられたら言うことがないのよね。鏑木ちゃんが高レベルの魔石で魔銀を【錬金】してくれたら、それだけ【鍛冶】で使う素材のレベルが上がることになるでしょう? そうすれば、私のスキルレベルもまた上がるかもしれないわ。それを期待してお安く提供しようと思うのだけど、どうかしら?」
「いいですね。魔石のストックはまだ少しありますし、琴葉の装備も必要ですから、それでお願いします」
断る理由はこちらにはない。
再び、サポートAIを起動させ、琴葉の防具を検討する。
ただ、神宮寺さんが持っている魔銀はもともとアクセサリー用で確保していたもので、それほどの量がなかった。
なので、魔銀を金属繊維のようにして薄い布に織り込むようにしてストールを作ることとなった。
ダンジョン用の装備にストールなんてありなのか?
というか、どの程度防御力があるものなのか。
そう思ってしまったが、女性二人がこれがいい、といったのでまあ良しとしよう。
首に巻いておけば体の正面も守ることができるし、意味はあると思う。
こうして、俺の装備とは別に琴葉は首と胴体を守るための魔銀防具を手に入れたのだった。
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