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武器調整

「如月君、だったよね? 防具を作るのはいいとして、まずはどんな武器を使っているのか聞かせてもらおうか」


「武器ですか? 別に言うのはかまわないですけど、なんでですか?」


「そりゃあ、決まっているだろう。どんな防具が必要かは使っている武器の種類にもよるからさ。スキルを使えばパパっと防具が出来上がるけど、それだといざ使うときになると不便に感じることもある。そういうのを事前に避けるためにも武器のことも聞いておいたほうがいいでしょ」


 お野菜ダンジョンのあるギルド建物の一室。

 ここは人気のダンジョンであり、探索者が多く来る場所でもある。

 そのためにレンタルスペースも広さがあり、さらにはこういう風に生産職の人に何かを作ってもらうときに使えるパーテーションで分けられた空間が用意されていた。

 そこで【鍛冶師】の神宮寺さんが机をはさんで向かい合わせになり、質問を投げかけてくる。


 たしかにそのとおりかもしれない。

 防具についての知識は俺にはないが、言われてみれば納得の話である。

 武器の種類によって体の使い方は全然違うし、そうなれば体を守る防具の構造も異なってしかるべしだろう。


「基本的には二種類ですかね? メインで使っているのはこの苦無とスリングショットです。サブにマチェットや木の棒って感じです」


「……苦無、か。初めてみたけど、これ誰が作ったの?」


「え、琴葉ですけど」


「鏑木ちゃんか。【錬金】でってことよね? もしよかったら、これも【鍛冶】スキルで調整してあげようか? これだとほとんど鋭い金属の棒って感じだし」


「強くなるんならお願いします。あ、けど、できれば投げて使うんで頑丈さ重視で」


「オッケー。なら十本まとめて一万円で引き受けてあげる」


 【鍛冶師】としての本能が騒ぐのだろうか。

 琴葉が作った苦無を見て、神宮寺さんは思わずといった感じで武器の調整を提案してきた。

 やっぱそうだよな。

 投げナイフとして依頼して【錬金】してもらった武器が苦無になって渡された時点で、武器としての性能はお察しなんだろう。

 それでもダンジョン内では十分に使えたので問題なかったのだけど、せっかく【鍛冶師】の【職業】についている人が目の前にいるのだからお願いしよう。

 ちなみに、俺の隣の椅子に座っている琴葉も自分が作った武器を他人が触って作り変えることに対してはとくに思うところがあるわけでもなく、神宮寺さんと楽しそうに話している。


「……なにこれ? どういうこと……」


「どうかしたんですか?」


「信じられないわ。この苦無を【鍛冶】スキルで鍛造しなおしたのだけど、それだけでスキルのレベルが上がったみたい。【鍛冶Lv4】になったわ」


「へー。おめでとうございます。すごいですね。それなら防具作成のときにも性能に影響でそうですけど、もしかして値段が上がったりしますか?」


「え、いえ、そうね。今回は事前に話をしていたのだから金額はそのままでいいわ」


 どうやら、【鍛冶師】という【職業】も【鑑定】があるようだ。

 神宮寺さんは苦無を【鍛冶】スキルで調整した直後に自身のスキルの変化を知ったらしい。

 ちなみに、このスキルのレベルアップも俺の影響が多少なりとも関係していると思う。

 今回の依頼にたいして俺は神宮寺さんにこう言っていた。

 【鍛冶師】のスキルを使用して発生したいかなるものも俺に所有権がある、と。


 神宮寺さんとしては、この俺の意見をごく普通に受け入れた。

 多分、作り出した防具や武器などに関していいものができたからといって自分のものと主張する気など最初からないから確認することすら不要と思ったに違いない。

 が、これは生み出したものではなく発生したものすべてを指している。

 つまりは、スキルによる熟練度も、だ。


 苦無を【鍛冶】で調整した際に発生した熟練度は俺の所有物として【収集】対象になった。

 しかし、それを俺の体にいれても意味がないことは確認済みだ。

 だから、【収集】した熟練度を神宮寺さんの肉体という袋に入れた。

 これでスキルレベルが上がったのだ。


 ちなみに、このことに神宮寺さんが気づくことはないだろう。

 だって、彼女は高レベルな素材で【鍛冶】をしたことがスキルのレベルアップにつながったと思っているからだ。

 俺の苦無はダンジョンで採れる金属に対して琴葉が高レベル魔石と【錬金】して精製した魔鋼という材質だ。

 レンタルスペースでは扱うことのない代物であるゆえに、それがレベルアップのきっかけになったと思っても不思議ではないだろう。


 純粋に喜ぶ神宮寺さん。

 年上の姉御肌的な女性がスキルのレベルが上がったことに対して琴葉と一緒に嬉しそうに笑いあっているのを見ながら、俺はそろそろ防具を作ってくれるように話を先へと進めたのだった。

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[一言] おぉ、ブートキャンプ?(笑)
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