琴葉の紹介
「へえ。あんたが鏑木ちゃんの言ってた『マー君』か。私は神宮寺美奈子だ。よろしく」
「如月真央です。よろしくお願いします、神宮寺さん」
琴葉による【鍛冶師】の紹介。
昨日、琴葉がスマホで連絡を取り合ったという相手は女性だった。
やはり、ギルド建物のレンタルスペースで知り合った生産職の人だったようだ。
年上のきりっとした感じの姉御肌っぽい雰囲気を感じる人と挨拶を交わす。
ちなみに、さすがに昨日のうちに俺の家に呼ぶなんてことはできなかったので、今日はお野菜ダンジョンのギルド建物で待ち合わせて紹介してもらった。
「美奈子さんは【鍛冶師】なんだけどね。私がレンタルスペースに行って困っていたときに声をかけてくれた人なんだ。それから、お話したり相談したりしてるんだよ」
「困ってた時?」
「ああ。たまにあるんだけどね。ギルドに来る連中はなんだかんだで男が多いのさ。で、そんなところに鏑木ちゃんみたいな女の子が一人で来たら、あれこれ声を掛けられることもあるってこと。たまたまその時近くにいたから、私が声をかけたってことがあったのさ」
ああ、なるほど。
それは確かにありそうだ。
レンタルスペースというのは、基本的には生産系の【職業】についた者が利用する場所だ。
ということは、そんなところにいる琴葉は確実になんらかの生産職であり、もしも薬草なんかを触っていようものなら高確率で【調合】が使える【錬金術師】と考えられる。
粉をかけておこうというやつがいてもなんらおかしくはない。
琴葉は知らない連中に声を掛けられたら、緊張しておどおどするタイプだろうしな。
それを見て助けてくれたってことだろう。
「ありがとうございました、神宮寺さん。琴葉がお世話になったみたいですね」
「いいよ。別に世話なんてしたつもりはないしね。私も女の子と話をしながらスキルを使ったりできたからちょうどよかったのさ。でも、鏑木ちゃんは最近はあんまり顔を出さなくなっていたけどね。それで、私に装備を作ってほしいって話だったよね? すぐ作るのかい?」
「そうですね。お願いしたいんですけど、実はちょっと最近散財気味でして……。【鍛冶師】の人に装備を作ってもらうのっていくらくらいお金がかかるんでしょうか?」
【鍛冶師】に装備を作ってもらう。
なんだかワクワクする話ではあるが、当然ながらただではない。
これは琴葉がいくら神宮寺さんと知り合いであるといえどもだ。
というか、琴葉が俺のためにポーションを作ってくれて使うことができるのは、あくまでも俺と琴葉が同じクランに加入しているからだ。
第三者の【鍛冶師】にはしっかりとした報酬を支払う必要がある。
「防具なら部分ごとに一か所一万円ってところかな」
「え? そんなものなんですか?」
「安いと思った? 【錬金術師】と比べると【鍛冶師】は報酬がしょっぱいよね。けど、片腕一つでも材料費抜きに一万円もらうことになるから、全身分をそろえようと思ったら意外と高くつくよ」
神宮寺さんの言葉に驚かされた。
【鍛冶師】という生産職はなかなかどうして厳しそうだ。
まあ、それもある程度仕方がないのかもしれない。
なんせ、誰もが求める有名職人、というわけでもない人の装備だから需要がないのだろう。
【錬金術師】の作るポーションは等級ごとに性能がはっきりしている。
しかも、ポーションは消耗品であり、備蓄しておきたい品でもある。
そのために需要が尽きることはないといってもいいくらいだ。
だが、【鍛冶師】の装備は違う。
基本的には【鍛冶師】が作る防具は対象の体に合わせたものをスキルで作り出すのだそうだ。
つまりはスキルでできた防具はすべてオーダーメイドということになる。
金属製の装備なんてものを大量に作り出して売りさばくこともできず、しかしスキルレベルが育っていない【鍛冶師】にあえて仕事を依頼する人もそうはいない。
ただ、スキルレベルの高い【鍛冶師】は話が違ってくるのだそうだ。
高レベルな素材を使って高い防御力を誇る防具を、使用者の体に合わせて作ることができるのはその人だけ。
そんなレベルになると、たとえ遠くからでもやってきて仕事を依頼していく人もいるのだろう。
そうなると、値段を高めに設定してもなんの問題もないというわけだ。
残念ながら、レンタルスペースでスキルレベルを育てることをしていた神宮寺さんはそんな高レベル【鍛冶師】ではないために安価での仕事を受けることになるという。
本人としてはそれでも腕や足ごとに装備を作ってもらえれば、数万円の臨時収入になるので、結構いい稼ぎになっているよ、とのことだ。
「分かりました。それじゃあ、金属製のプロテクターをお願いします」
数万円を支払うというのはなかなかに大きな出費だ。
が、紹介してくれた琴葉のこともあるし、なによりスライムの攻撃で強化プラスチックでは防御力が足りないことがはっきりしている。
俺は【鍛冶師】神宮寺美奈子さんに防具作成を依頼することにしたのだった。
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