装備更新の必要性
「もー!! 危ないことしたらダメだよって言ったのにー」
「ごめん、琴葉。思いついたら試してみたくなっちゃって。琴葉の作ってくれたポーションのおかげで助かったよ」
「ううー。なんか、マー君は私が言っても聞かなさそうだね。こうなったらたくさんポーション作るから、ダンジョンに行くときには必ず持っていってよね」
「ありがとう。助かるよ」
F-108ダンジョンでスライムとの激戦を制した俺は、その後はおとなしく帰ることにした。
さすがに、再びスライムを生み出して戦おうとは思わなかった。
勝てたのは運がよかったというのもあるし、ポーションや防具がないからだ。
六時間歩いてダンジョンの奥に向かったとはいうものの、周囲の地形を把握するための探索だったので、出入り口まで戻るのにはそこまでの時間はかかっていない。
半分以下の時間でダンジョンから脱出し、家に帰った俺。
そこで琴葉と会い、琴葉は俺の話を聞いて怒っているというわけだ。
確かに、今回の行動は危ない面もあったと思う。
生み出したスライムがどんなモンスターになるかなんて分からないのだから、危険しかないともいえる。
ただ、琴葉にも言ったが思いついた以上やってみたかったのだ。
なんせ、ダンジョンについて俺は知らないことが多い。
国が公式ホームページに出している情報も制限されているだろうし、SNSでの有象無象の情報なんてほんとかウソかも分からないものだらけだ。
自分の目で確認し、思いついたことを試していくほうがいいと俺は思っている。
実際、魔石と粘液でスライムを再生するだけではなく、強くして復活させられるなんて情報はどこにもなかったのだから。
でも、おかげでいいことを思いついた。
こいつを仕事での新人教育に使ってみよう。
ダンジョン内でモンスターハウスにいるスライムを倒すだけではなく、ちょっと強いスライムを生み出してそいつを倒させる。
それが効率よくレベルを上げる秘訣だ、とかなんとかいうのはどうだろうか。
社員をどこまで危険にさらしてもいいかを社長とも話しておいたほうがいいかもしれないな。
「あ、そうだ。ついでに防具も作ってくれないか? 左腕をカバーするプロテクターが壊れちゃったから、琴葉の【錬金】でガードできそうな金属の防具を作ってくれると助かるんだけど」
「防具はもちろんあったほうがいいと思うけど……。でも、もしもマー君がこれからもモンスターと戦うつもりなんだったら、ちゃんとしたやつを買ったほうがいいんじゃないのかな?」
「いや、一応俺としてはちゃんとした装備をしていたつもりなんだけど。スライムに壊されちゃったけど」
「あれは探索者初心者用のやつでしょう? マー君がダンジョンで戦った再生スライムさんの魔石のレベルは三十二もあったんだよ? F級にはそんなレベルのモンスターっていないと思うの。だから、もっと本格的なやつを用意したほうがいいと思うんだけど」
なるほど。
確かにそうかもしれない。
危険度の低いダンジョンに潜る際にも安全を心がけよう、ということで国が最低限用意しておいたほうが良い推奨の装備として売られていたのが強化プラスチックのプロテクターだ。
通常であればお野菜ダンジョンに出るウサギや洞窟の通常スライムの攻撃を十分に防いでくれるだけの性能があるのだろう。
ただ、それを超える強さを持つモンスター相手であってはいささか性能不足だ。
そして、もし、それらの強い相手と今後も戦う可能性があるのであれば、琴葉の言うようにいい装備をしておく必要があるのだろう。
というか、俺は【錬金術師】に期待しすぎというのもあるのかもしれない。
【錬金】というスキルはある程度応用が利くために、金属を武器や防具のように形作ることはできる。
が、本職ではない。
同じ金属を使って装備を整えるのであれば、【鍛冶師】などといった生産職を持つ人に装備作成を依頼したほうがいいのだろう。
しっかりとした体に合った防具を作れるはずだ。
もちろん、強く性能の高い防具を作るのであれば相応にスキルレベルがいるのだろうけれど。
「防具を作ってくれそうな人がいるけど、紹介しようか、マー君?」
「え、ほんとに?」
「うん。今から連絡とってみようか? もしかしたら、装備を作ってくれるかもしれないよ」
琴葉の知り合いにそんな人がいるのか。
もしかすると、前に探索者ギルドの建物にあるレンタルスペースに行ったときにでも知り合った人だろうか。
どんな人なんだろうか。
スマホのメッセージアプリを操作して連絡を取り合う琴葉の姿を見ながら、その生産職の人の姿を想像していたのだった。
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