スライムとの決戦
洞窟型ダンジョンの地面や壁。
そこをポンポンと跳ねるように移動する高レベルスライム。
一度俺に手痛いダメージを与えたから、その勢いのままにすぐにとどめを刺そうと猛攻を仕掛けてくる、というわけでもないようだ。
むしろ、こいつには今までに見たスライムには感じたことのない知性すら感じる。
骨を折るほどのダメージを与えたにもかかわらず、左手でも武器を持ち、自分を見つめてくる俺という存在。
それを警戒するかのように、こちらから離れた位置でスライムは様子をうかがっている。
俺も無防備に近づくわけにもいかず、お互いに見合っていた。
このスライムは俺よりも速い。
少なくとも連続した移動からの攻撃を俺は避けきることができずにプロテクターを犠牲にしてガードしてしまったのだから間違いない。
なので、こちらが無策で動くと負ける。
そう考えたからこそ、俺は相手の動きを見ていた。
スライムのほうも俺がどう動くのかを確認するかのように、しばし、その場で跳ねる。
が、様子見はこれで終わりだというふうに再び動き始めた。
硬めの液体、というよくわからない状態になった高レベルのスライムは、弾みながら地面から壁へと移動する。
そして、まるで撃った銃の玉が物に当たって跳弾するように、ダンジョンの通路の中を跳ねまわった。
右に左に、上に下にとピョンピョン跳ねて移動するスライム。
普通ならばこれは非常に困る行動だ。
なんせ、このダンジョンは真っ暗なのだから。
人によっては探索するために通販で暗視ゴーグルなどを買ってつけている人もいるようだが、それでは視界が狭く、すぐにスライムを見失っていたことだろう。
俺も頭につけたLEDライトや腰のカンテラ型ライトだけでは、すぐにやつがどこに行ったか分からなくなっていたはずだ。
だが、そうはならなかった。
ドローンを持ち込んでいたことが幸いした。
最近のドローンのAIはかなり優秀だ。
発信機を持っている俺のそばを飛ぶように設定したら、自動追尾でついてきてくれる。
さらに、このドローンには動画撮影までもをこなす機能も備わっていた。
そのため、俺が飛ばしていたドローンの一つは俺を追いかけるだけだが、もう一つは内蔵されたドローンのセンサーの力で、周囲の物体の動きを感知し、そちらを撮影することができたのだ。
要するに、撮影を俺の姿にピントを合わせて撮る設定のものもあれば、近くのモンスターにピントを合わせることもできるということだ。
ドローンのうちの一つが撮影対象として高レベルスライムへとカメラを向ける。
そのカメラは撮影だけではなく、被写体をきれいに写すためのライトもついていた。
俺が身に着けているLEDライトと同じように、なかなか明るい光がスライムの姿を追いかける。
この機能のおかげで俺は通路内を跳ねまわり、俺の死角から攻撃を仕掛けようとしてくるスライムの位置を見失わずに済んだ。
常に動き続ける光の先にスライムがいる。
そして、いくら速いといってもその動きは直線的だ。
飛ぶ速度と角度から次に移動する軌跡をある程度予想できた。
「ヤッ!」
俺の周囲を跳ねまわり、斜め後ろから背中を狙ってきたスライムの体当たりをギリギリ躱した俺は反撃に出る。
避けた俺から見ると背後から前方へと飛んでいくスライムを追いかけるように苦無を投げる。
しかし、奴も不思議モンスターだ。
目が付いているわけでもないのに自身を追いかけて飛ぶ苦無に反応し、回避してきた。
球状になりながら飛んでいた粘液の体の一部が変形する。
全体から見ればわずかな液体が形を変えただけだが、進行方向が変わった。
勢いよく飛んでいる最中に壁に手をかける、みたいな感じか。
通常のべちゃっとした体ではないにもかかわらず、伸ばした触手のようなものが壁に触れ、急激な方向転換となったようだ。
だが、それは決して万能な移動方法ではないらしかった。
もし、その動きが自由自在にできるのであれば、俺への攻撃に使用しているはず。
わざわざ体当たりなどしなくとも触手で俺の体を叩けばいいのだから。
しかし、そうはしないということは、今の動きはスライムにとっても無理がある行動なのだろう。
急激に方向を変えたスライムは、その先にある壁で跳弾することができなかった。
ベシャッと水風船が壁に当たったかのようになり、わずかに弾んで地面へと落ちる。
そして、俺は奇跡的にそのスライムの失速をとらえることができた。
「くらえ!」
地面へと落ちたスライムへと一気に駆け寄って右手に握ったマチェットを振り下ろした。
体当たりされたときにはかなりの硬さを感じたスライムの粘液の体。
だが、今は勢いを失い地面に落ちた状態だからか、俺の攻撃が通じた。
液体内部へとマチェットの刃が進んでいき、狙いを外すこともなく、スライムの核を叩き切った。
ぶ厚い刃が核を二分する。
次の瞬間、スライムはドロッと液体を地面に広げて、二度と跳ねることなく、その後すぐ俺の持つボトルへと【収集】されたのだった。
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