初めての強敵
「ぐあっ! いってえぇ!」
俺が生み出したスライム。
そいつが俺に襲い来る。
素早い動きで体当たりを仕掛けてきて、それを何度か回避したものの、俺はついに被弾してしまった。
初めてのダメージだ。
俺の体めがけて飛んでくるスライムの体から自分を守るために左腕でガードした。
そこにぶつかった衝撃は予想を軽く超えていた。
粘液でできているはずのスライムなのに、まるで鉄パイプで殴られたかのような衝撃を感じる。
いや、多分本来ならばそれ以上の衝撃だったのだろう。
なぜなら、俺の左手には防具として強化プラスチックでできたプロテクターがあったのだから。
それが見事にスライムの体当たりでバキバキにひび割れている。
多分、次に衝撃を食らったら砕け散り、さっき以上のダメージをもらうことになるだろう。
っていうか、現状でもだいぶ痛いし、腕の骨が折れているんじゃないかって気がする。
ダンジョンに入って以来、初めてといっていい負傷。
なので、比較対象がないためにはっきりと断言はできないが、それでも言える。
このスライムは明らかに強い。
このダンジョンで今まで見たどのスライムよりも圧倒的な速さと硬さを持っている。
というか、今までに見かけたやつはどれもこれもべちゃっとした感じの粘性生物だった。
だが、こいつは硬い液体という感じなのだ。
ドロッとしていないために、液体が地面に引きずられることなくポンポン跳ねるようにして動いている。
それに、相手を探知する範囲も広いんじゃないだろうか。
俺だって、自分がしている行動に危険があることも予想はしていた。
高レベル魔石とスライムの粘液を材料にしてモンスターを作り上げる。
そいつが、運よく生まれた瞬間に俺を見て親だと思い込んでテイムモンスターになれば最高だったが、敵として相対することも想定していた。
だからこそ、ボトルが動いたと感じたときに距離を取ったのだ。
いつもであれば俺に気づかずにダンジョンの地面をゆっくり移動しているはずの距離を開けていたにも拘わらず、迷いなく攻撃してきたことを考えても、敵を認知できる範囲は広いのだろう。
明らかにこのスライムは強い。
推定だが、これまでの時間、魔石に魔力を【収集】したことを想定して、相手のスライムはレベル二十五から三十くらいなのではないだろうか。
たいして、俺のレベルはそこまではないと思う。
今日の探索開始時点では十一だったし、その後のモンスター討伐でレベルが上がっているだろうことを考えても、二十あるかないかくらいか。
レベルの差が十以上はあるかもしれない。
相手は俺よりも格上だ。
だが、絶対に倒せない相手ではない。
一度攻撃を受けたことが、それにより逆にその考えはより固まった。
というのも、スライムの体が多少硬くはなっているものの、その液体そのものが酸性を帯びていて、触れたらこちらの体や装備が溶ける、という類のものではないのだから。
最悪の場合は、そういう危険性もあった。
あるいは、ゲーム的な考えで言えばスライムがなんらかの魔法や毒攻撃を使ってきたりすることもあるだろうか。
けれど、こいつはそうではない。
あくまでもそれまでのスライムよりも硬く、速く動けるだけだ。
ならば、倒せない道理はない。
スライムの核をあの粘液から弾き飛ばせばいいのだから。
俺は腰につけていたポーチに手を入れて、一本の試験管を取り出した。
試験管の上部についているゴム製のふた。
それを取り、中の液体をグイっと飲み干す。
次の瞬間、かあっと左腕に熱感を感じた。
が、すぐにそれは収まり、先ほどまで感じていた痛みも消えた。
おそらく、スライムの攻撃によって傷んでいた部分が治っているはずだ。
そう、俺が今飲んだのは【錬金術師】たる琴葉が作り上げたポーションだ。
しかも、そこらの新米【錬金術師】が作る十等級ポーションではなく、八等級だ。
こいつならば、深い裂傷すら瞬時に治せるという破格の性能を持っている。
骨折がどこまで治るかは知らないけれど、今は痛みさえ消えればいい。
売ればいい値段になるはずの代物ではあるが、この際言っていられない。
なんせ、モンスター相手に正面切って戦うなんて初めてだしな。
先制攻撃を食らってしまったが、琴葉のおかげで俺の傷は癒え、条件は五分に戻った。
スピードのあるスライム相手に逃げることはできないだろう。
ならば、ここで何としても倒すだけ。
俺は右手にマチェットを、左手に苦無を握り、自身で生み出した高レベルスライム相手に探索者歴で初になる接近戦を行うこととなったのだった。
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