生命の創造
背中の荷物から感じ取った違和感。
その原因となるものは、ボトル容器だ。
中身は空ではない。
ボトルに入っているものが動いたように感じた俺は、すぐにそれをダンジョンの地面である床に置いて、後ろへと後ずさった。
「鬼が出るか、蛇が出るか……」
ボトル容器を見て、思わずそんなことをつぶやいてしまった。
もちろん、このボトルから鬼や蛇が出てくることはないだろう。
そんなことは分かっている。
けれど、モンスターが出てくる、という可能性は十分にあった。
ベコッ、ベコッ。
床に置いたボトルからそんな音が聞こえてくる。
明らかに異常な光景だ。
ボトルに入った中身が動いている。
普通ならばあり得ない光景。
だって、そこに入っているものの大半は液体なのだから。
液体が動くはずがない。
そんな常識は、しかし、常識として通用しない。
だってここはダンジョンなのだから。
しかも、ここに出てくるモンスターはスライムであり、粘性を持った液体だ。
つまり、俺がそれまで背負っていたボトルの中身はスライムということになる。
が、それは決して俺が生きたままのスライムを捕獲して、容器に詰めて持ち歩いていたわけではない。
ただ、こういう状況になるきっかけを作ったのは間違いなく俺自身だった。
なぜなら、ボトル容器の中にスライムの構成物質を入れたのは俺なのだから。
俺はボトル容器にスライムの粘液とスライムの核を入れて持ち歩いていたのだ。
しかも、そこには常にダンジョンの空気中から回収した水分、つまりは魔力精製水を【収集】するように意識していた。
このダンジョンに入ってしばらく歩きながら考えていた実験のためだ。
というのも、【鑑定】で得られるレベルには二種類あり、そのうちの一つは位階というものである、というのがきっかけだった。
人間は位階がレベルアップすると強くなれる。
単純な強さだけではなく、動きの精密性やら、精神力のようなものまでひっくるめて総合的に強くなる。
それは、言い換えると存在の質が上がる、とでも言えるのかもしれない。
で、それを考えたとき、スライムはどうなんだろうか、と考えたわけだ。
スライムは魔力を好む。
魔力精製水がある小部屋にスライムが群がってモンスターハウスができるのは、そのためたと思う。
そして、スライムの核である魔石は【収集】を使って魔力を回収すると、魔石を【鑑定】したときのレベルが上がっている。
だが、このダンジョンにいるスライムはどれも弱く、どの個体を倒して核を手に入れてもその魔石のレベルは一桁前半のものばかりだった。
不思議だ。
もしかして、スライムは魔石の状態ではなくモンスターの時にはスライムの核のレベルが上がらないのかもしれない。
そんなことがあるのだろうか?
けれど、この暗闇の中を何時間も歩いて、一体も強そうなスライムに出会わなかった以上、そういうものなのかもしれない。
が、そこで俺はひらめいてしまったのだ。
逆転の発想をしたらどうか、ということに。
つまり、強いスライムがいないのであれば、こちらが条件を整えたらどうなるのか、ということだ。
今日も最初にスライムを倒したときから、そのスライムの核はしっかりと回収してある。
そして、それには【収集】を使って魔力を入れ、レベルを高めるようにしていた。
その高レベル魔石をスライムの核へと再利用できないか、と思ったわけだ。
でもどうやって?
やったこともないし、聞いたこともない。
が、ほかのモンスターならばともかく、スライムならば試すのは簡単ではないだろうか。
だって、その体の構成はスライムの核と粘液しかないのだから。
琴葉も言っていたではないか。
スライムを倒して核を回収した後の、ダンジョン内に残された粘液。
あれを【鑑定】した琴葉は、その粘液がただの液体ではなく、スライムの粘液、という名称であり、【調合】などの素材にもなるかもしれない、と。
ならば倒した後の粘液も普通の水とは違うのだろう。
というわけで、俺は魔石以外にも【収集】していたスライムの粘液の中に高レベル魔石を放り込んでおいたわけだ。
ただ、これだけでスライムが復活するか分からなかったため、なんとなく魔力精製水もおまけしておいた。
それが良かったのかどうかは分からない。
が、実験は見事に成功したようだ。
ボトルを内部から破壊して飛び出してきたリサイクルスライム。
明らかに液体が動いている。
というか、今になって思うがこんなことをしても良かったんだろうか。
生命の創造なんてものは、神をも恐れぬ愚行、と言われてしまうかもしれない。
が、思いついたからには試してみたかったのだ。
できなければ、それはそれで別に良かったし。
「うおぉ!! あぶねえ」
復活したスライムはしばし周囲の状況を確認していたようだ。
だが、そこで少し離れた場所に俺がいることを認識した。
そして、間髪容れずに攻撃を繰り出してきた。
やっぱダメか。
生まれたての動物が初めて見た生き物を自分の親だと思い込む。
インプリンティングとか言ったっけ?
そんなものを期待していなかった、とは言えない。
なんなら、初めてのモンスター使い、テイマーなどと呼ばれることになる未来を考えなかったと言ったらうそになるだろう。
だが、現実は甘くはなかったようだ。
俺を認識したスライムはまごうことなきモンスターで、俺に対して一切の遠慮なく攻撃を仕掛けてきたのだった。
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