不人気の考察
俺がF-108ダンジョンの奥へと探索を始めてからすでに六時間が経過していた。
早朝から始めたために、これだけの時間がたっているにもかかわらず、まだお昼時を少し過ぎたくらいだ。
真っ暗な洞窟でスライムを倒しながら歩き続けるという、精神的な負担が大きそうな行動をしているわりには落ち着いている。
平常時と変わらぬ俺は、鞄から取り出したカロリーバーを食べて、水を飲みながらスマホの画面を見ていた。
「候補地はそれなり、かな? 天然のモンスターハウスはもう一か所見つかっただけだったけど、十分か」
スマホには地図が表示されている。
この洞窟型のダンジョンの通路が迷路のようになっているのが平面上で表示されていた。
ダンジョンというのは不思議な空間だが、ここはF級と国から認定された低難易度の場所だ。
それは多分、洞窟の通路に高低差が見られないというのもあるのだろう。
まっすぐに進んでいると思った通路が実は下に下がっていて、前に通った通路よりも下層に位置する、なんてことはないようだ。
もしそうだったなら、平面で表示される地図をいくら見ても迷子になることは確実だろう。
そういう場合は3Dモデリングされた構造物表示可能な地図でもなければ困りそうだが、たとえそれがあっても迷いそうだしな。
なんにせよ、ここ数時間の探索により俺の地図の表示可能範囲は広がっていた。
国が用意した地図は入口から同心円状に調べて作ったような物だったが、俺は左手方向に向かって突き進むようにしながら探索したので、未知の領域もそこそこ調べることができたというわけだ。
そこで分かったことはいくつかある。
まず、最初に発見したモンスターハウス以外にも似たような場所があったということ。
これも壁から水がしたたり落ちている場所に大量のスライムが群がる小部屋があった。
偶然そういう条件が整った場所なのか、それともダンジョンとはそういう場所がところどころにあるのかは分からない。
だが、これによりレベル上げポイントが増えたことは単純に喜ばしい。
そして、そんな未開領域ではほかの探索者には一切出会わなかった。
これは、やはり危険を避けてのことなのだろう。
ただでさえ、歩き回るのに適した場所ではないこのダンジョンで地図すらない場所まで行ってしまえば遭難するのは間違いない。
俺はドローンを使って現在位置を表示させることができているが、これもバッテリーを魔力で充電しながら使えるからできている方法だ。
ここまで長く連続稼働するドローンはそう簡単には手に入らないと思うし、わざわざそれをしてまで奥に行くメリットがないので、誰もやらないのだろう。
ちなみに一応モーターなどの部品の消耗や排熱・冷却なども考えて、複数あるドローンはローテーションで使って交代で休ませていたりもする。
それのおかげかは分からないが、今のところ壊れそうな感じはしていない。
そんなこんなで得た結論は、このダンジョンは奥に行くメリットがないということだ。
これは主に二つの点から言えるだろう。
ひとつは金にならないこと。
洞窟の奥まで行けば金銀財宝、あるいはダンジョンにしかない鉱物資源が手に入る。
そうであったならば、もっと人が集まってきていたかもしれない。
が、どうやらダンジョンの壁を崩しても手に入るのは役にも立たなければ、金にもならない石や岩だ。
そんなものを手に入れるために奥まで行って背負って帰ってくるなんてのは、たとえ【運び屋】であってもごめんだろう。
そもそも国が一般公開したのだって、希少なものがないと判断したからだろうしな。
そして、もう一つはモンスターの強さが関係している。
琴葉がいないために【鑑定】できないので正確かどうかはわからないが、俺が遭遇した中で見たスライムはダンジョンの入り口近くと数時間歩いた先でそう変わらなかったのだ。
つまり、出現するモンスターのレベルは一緒ということになる。
このダンジョンに来る奴なんて目的はたいてい一緒だ。
レベル上げだろう。
ほかにもダンジョンがある中で暗いけれど弱いモンスターであるスライムが出現するF-108ダンジョン。
ここでしばらくスライムを狩って、なんとかレベルを上げたいのだ。
で、レベルが少し上がればまた違うダンジョンに行って、もう少しだけ強いモンスターと戦ってまたレベルを上げる。
頑張ってほかの人が来ないようなF-108ダンジョンの奥まで行って、出てくるのが入口で見かけるのと代り映えしないスライムだったらどう思うだろうか。
多分もう二度と行かない、と考える人が多いんじゃないだろうか。
俺は知らないけれど、もしかしたらそういう情報も出まわっていたりするのかもしれない。
このダンジョンは奥まで行っても無駄だから入口近くでスライム探して狩ってろ、とかそんなことが。
「ん? 動いた? まさかマジで成功したのか?」
休日に一人で暗闇であれやこれやと不人気ダンジョンについて考察していたときだ。
背負っている背負子にくくりついていた荷物。
それにわずかな違和感を感じた。
すぐに背負子を地面に降ろし、その違和感の原因となる荷物を見る。
それまでと一転して、弛緩していた気持ちが急激に変化していくのがわかる。
もしかすると、俺は今日、ここで……。
ドキドキしながらも、俺はその荷物を見続けたのだった。
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