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位階

「ふーむ。もしかして、肉体レベルってのは言い方が正確じゃなかったのかもしれないな。どっちかというと心身のレベルなのかも」


 F-108ダンジョンを進みながら、道中で見つけたスライムに対して苦無での攻撃を行っていく。

 最初は緊張していたが、今は落ち着いて苦無の投擲を行えるようになっていた。

 相手は大きくは動かないモンスターである。

 そのためか、ほとんど狙いを外さずに倒すことができていた。


 だが、何度もスライムを倒していき、俺の中で疑問がわいた。

 それはレベルについてだ。


 【鑑定】というスキルを使用すると対象の情報を読み取ることができる。

 そして、人間に対して行うと、そこにはレベル表示されたものが二つ出てくる。

 俺はそれを便宜上、スキルレベルと肉体レベルと言っていた。

 これは、俺が勝手にそう呼んでいただけではなく、ネットのSNSなどでもよく見かける一般的な呼び方として定着している。


 モンスターを倒すことで上がるレベルは肉体を強くし、スキルを使用して上がるレベルはスキルの技術が伸びる。

 なので、これまではそれほど違和感がなかった。

 ただ、苦無を使用してちょっと違うのではないかと思った。


 縦回転しながら飛んでいく苦無が連続して狙ったスライムへと命中する可能性というのはいくらくらいあるものなんだろうか。

 ましてや、それは今日初めて苦無を使用した俺なのだ。

 確率的には相当に低くなりそうなものだろう。

 けれど、実際には結果は違った。

 非常に高い命中率を誇ったのだ。


 おそらくだが、俺はレベルが上がったことによって、投擲命中力が上がっているのだと思う。

 ただ、そんな細かな項目はないと思う。

 もし、あったとしてもそれはスキルに分類されるんじゃないかと思うからだ。


 これは俺の想像に過ぎないが、多分【鑑定】では読み取れていないけれど、隠しステータスが存在しているのだろう。

 レベルが上がって伸びるのは力だけではない、ということだ。

 多分、敏捷性やら精密性やらといった項目があるんだと思う。

 そして、俺はレベルが上がったことによって精密動作性、つまりは器用さが向上して苦無投擲の命中率が初心者とは思えないくらいにあるのではないだろうか。


 というか、よく考えると琴葉が【鑑定】をして書き出してくれたものには肉体レベルとは書かれていなかったしな。

 たしか、【位階】だったか。

 モンスターを倒すと位階がレベルいくつと変化し、上がっていく。

 総合的な能力が向上しているということなんだろうな。


 そして、それは器用さなどの肉体に由来するものだけではなく、心にも影響を与えているのではないだろうか。

 精神力、と表現してもいいかもしれない。

 俺は位階が上がるごとに、知らないうちに精神力が上がっていた可能性がある。

 だって、そうじゃないとおかしいだろう。


 初めて琴葉と一緒にこのダンジョンに入った時にも言われたじゃないか。

 こんな真っ暗なダンジョンによくも毎日入っていられるね、と。

 確かにそうだ。

 普通に考えて光のない真っ暗闇の空間に入ろうとするのはおかしい。

 そんな空間にずっといるだけでも気が狂いそうになるはずだし、ましてや人を攻撃するアクティブモンスターもいるし、武装した人間とすれ違うこともあるわけだ。


 感覚の鈍麻、あるいはただの慣れ。

 それだけでは少し説明がつかないと思う。

 なので、位階というレベルが上がるごとに、そういう精神的な耐性も得ていたんじゃないだろうか。

 だからこそ、位階が上がることを肉体レベルと表現するよりは、心身のレベルと呼んだほうが良いのかもしれないと思った。


「なんなんだろうな。レベル、ダンジョン、スキル、モンスター。本当に知らないことばかりだ」


 ダンジョン内でこんなことを考えてもしょうがないのかもしれない。

 が、俺は最初の目的地であったモンスターハウスでも苦無を用いての連続投擲で小部屋内のスライムを倒し切り、その後はさらにダンジョンの奥に向かいながらもそのことが頭の片隅からずっと離れなかった。


 だから、だろうか。

 魔が差したのだろう。

 俺は位階レベルのことを考えて思いついたことがあり、それを確かめるためにダンジョン内で新たな実験にとりかかったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] めっちゃ面白かった どんな実験したのかなあ
[一言] 魔がさした その一言が(笑) 一人の時にさしちゃだめぇ
[一言] 経験値効率を求め過ぎてメタルキングでも産み出してしまうのかな?
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